「トレーニング」と一致するもの

回転スローには不可欠な良好なボディバランス

野球で「ボディバランス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?一聞すると体型のことのようにも思えますが、でもこれは体型のバランスの良さを表す言葉ではありません。

ボディバランスとは、「どんな姿勢や体勢になっても、自分がどっちを向いているかしっかり把握する」能力のことです。野球では野手のフィールディングでよく出てくるスポーツ用語ですね。

例えば内野手が捕球後にクルッと回ってから一塁に投げることがありますよね?この時ボディバランスが良ければ、クルッと回りながらも一塁ベースの方向を的確に把握することができるため、悪送球のリスクはほとんどありません。

逆にボディバランスが悪いとクルッと回っている最中に一塁ベースの方向が分からなくなってしまい悪送球してしまったり、回った後で一度止まって一塁ベースを確認してから投げなければならなくなります。つまりボディバランスが良くないと、アウトを増やしにくくなるということですね。

そしてこれは内野手だけではなく、外野手にも当てはめることができます。大飛球を背走しながら追って好捕したあと、ボディバランスが良ければすぐに正確な返球をすることができます。

しかしボディバランスが悪いと捕球後に体勢が崩れてしまったり、返球したい塁がどっちにあるのかが分からなくなってしまいます。いくら内野手が「バックサード!」などと指示を出していても、そのサードの方向が分からなくなってしまうため、好捕しても結局投げるまでにワンテンポ置くようになってしまいます。

ボディバランスは三半規管と自律神経の影響が大きい!

ボディバランスというのは、三半規管が司る能力です。三半規管とは耳の奥にある、バランスを取るための器官ですね。

一般的には自律神経が乱れると三半規管の機能が低下してしまいます。そして三半規管の機能が低下すると、上述したような野球のプレーにおけるデメリットだけではなく、車酔いしやすくなったり、目眩を起こしやすくなります。

そして自律神経というのは、規則正しい生活をしていないとあっという間に乱れてしまい、悪化すると自律神経失調症になってしまいます。そしてそこまで悪化してしまうと、自律神経を良いコンディションに戻すのに本当に時間がかかってしまいます。

野手がフィールディングで良いプレーを見せるためには良好なボディバランスが必要であり、良好なボディバランスを維持するためには、規則正しい生活をして自律神経が乱れないようにする必要があるわけです。

平日は学校があるから早寝早起きだったとしても、週末はスマホを見ながら夜更かしして朝起きられないという生活を続けてしまうと、自律神経は乱れやすくなります。

例えば欧米にはサマータイム制度があり、春夏と秋冬では時計が1時間ズレます。この1時間のズレによって自律神経を乱してしまう人がかなり多く、現在ではサマータイム制度の廃止に向けて検討する国も増えてきています。

三半規管の機能を向上させる簡単なトレーニング

ちなみに三半規管は、後ろ向きで歩いたり走ったり、ミニハードルを跳んだりすると機能を向上させることができます。アスリートだけではなく、車酔いしやすい人や、目眩を起こしやすい人にも効果的ですので、ぜひ部屋の中で周りを気をつけながら後ろ向きで歩いたり跳んだりしてみてください。

寝る前のスマホはボディバランスを崩すため要注意!

自律神経が乱れてしまうと同時に三半規管の機能も低下し、ボディバランスも崩れてしまいます。そうなると野手がファインプレーできる確率がグンと下がってしまうため、アスリートは身体を鍛えるだけではなく、このような繊細な器官を整えることにも注視していく必要があるわけです。

ちなみに自律神経は、夜間にスマホやテレビなどからブルーライトを浴び続けてしまうと結果的に乱れることもあるため、夜間はスマホのブルーライトをオフにする機能を使ったり、せめて寝る前の2時間程度はテレビやスマホなしで過ごすようにしましょう。

あとは寝る2時間前というタイミングでストレッチングやトレーニングをしてしまうと、交感神経と副交感神経の作用が逆になってしまい、その結果自律神経が乱れ、ボディバランスも崩れるという結果に繋がることもあります。ですので寝る直前は血行が良くなることはあまりせず、なるべく心拍数が上がらない過ごし方をすると良いと思います。

そういう意味では、寝る直前のお風呂もベストとは言えないわけです。シャワーならほとんど問題ないと言えますが、湯船に浸かるとそれによって血行が活発になるため、入眠しにくくなることがあるため要注意です。

ボディバランスを良くして、野手としてファインプレーを連発できる選手になるためにも、普段の生活から十分注意しながらコンディションを整えていくよう心がけてください。

カズコーチの動画レッスン:三半規管でボディバランスを整えて制球力をアップさせよう

三半規管でボディバランスを整えて制球力をアップさせよう

今回のビデオでは、ボディバランスという観点から制球力アップについてのレッスンをしています。そしてボディバランスを向上させるためには三半規管を上手く使っていく必要があります。

三半規管というのは内耳にあって、回転運動や加速運動を感知するためのものなのですが、これが上手く機能することによってボディバランス能力が向上していきます。

ボランティアコーチが適切な指導法を学ぶのは難しいのかもしれない

野球のコーチは常に指導法をアップデートし続けよう

選手以上に情報のアップデートが必要なのがコーチであるということは、プロフェッショナルコーチの間ではすでに常識になっています。野球理論やトレーニング理論は年々アップデートしていかなければ、どんな選手でも上達させることができるコーチになることはできません。

ただ、少年野球や野球部などのいわゆるボランティアコーチにそこまで求めるのは酷という見方ができるのも事実です。僕らのようなプロフェッショナルコーチであれば情報の常時アップデートはプロとしての義務でありながらも、同時に日々苦もなく自然と行なっています。

でもボランティアコーチや教員コーチの場合、コーチである以前に会社勤めや教員としての業務があります。それ以外の個人的な時間を長時間使って勉強するというのは、なかなか大変なことだと思います。

ですが僕らのように対価をいただいてレッスンをしているコーチの場合は、情報の常時アップデートができない場合はすぐに周回遅れになってしまい、選手を上達させることができないコーチになってしまいます。その結果、元プロ野球選手の野球塾であってもあっという間に廃業に追い込まれてしまいます。

プロトレーナー、元プロ野球選手、元高校球児、元大学野球などなど、現代ではさまざまな肩書きを持った方々が日本全国で野球塾を展開しています。ちなみに僕自身は怪我により、選手としては高校一年生の春までしかプレーすることはできませんでした。高校時代は右肩のリハビリに明け暮れ、高校卒業後に選手としての道は完全に諦め、プロコーチになるための勉強を始めました。

僕自身が13年ほど、野球とはまったく関係のない職に就きながらプロコーチになる勉強、修行をしていたので、その大変さは身を持って知っています。生半可な覚悟では続かないと思います。

元プロ野球選手が野球科学を学ぶと鬼に金棒

だとしても、プロコーチだろうがボランティアコーチだろうが、選手にとってはどちらも同じコーチです。ですのでボランティアコーチだったとしても、できる範囲で情報のアップデートはしていく必要があります。

ではなぜそんなに頻繁に情報のアップデートが必要なのでしょうか?その理由は簡単で、野球動作理論にしろトレーニング理論にしろ、日進月歩で進化し続けているからです。その進化に付いて行けないと、令和なのに昭和に取り残されたようなコーチになるしかありません。

例えばバッティング技術だけを見ても、10年前まで常識だったことが現代ではそうではなくなり、10年前にはなかった理論が現代では確立されていたりもします。野球理論やトレーニング理論は、5年10年経つとガラッと変わってしまうこともありますので、スポーツ科学のメッカとも言えるアメリカの最新理論に対し常にアンテナを張っておく必要があるわけです。

ちなみに理論というのは誰にでも通用しなければなりません。例えば魔女のホウキは空を飛んで移動するのにはとても便利ですが、でも魔女しかホウキに乗って空を飛ぶことはできません。しかし科学によって作られた飛行機は、飛行機が空を飛んでいるメカニズムなどまったく知らなくても、誰でも飛行機に乗って空を飛んで移動することができます。

この魔法と科学の違いのように、僕がレッスンするような科学的根拠に基づいた動作指導法であれば、どんなレベルのどんなタイプの選手でも上達させることができます。ですが選手時代に身につけたセンスや経験則を主に指導するコーチの場合、その指導内容と選手との相性が合わないケースも多々あります。

プロ野球でも、監督やコーチが代わった途端に活躍するようになる選手がいますよね?このケースなどはまさにその典型で、相性の良いコーチと運良く出会えると、自らの能力を一気に開花させられることがあります。

でも例えば野球動作を科学的に学んだ千葉ロッテマリーンズの吉井理人監督のような方であれば、選手個々にフィットした指導法の引き出しをたくさん持っていますので、どのような投手でもレベルアップさせることができます。

吉井監督のように、プロ野球選手・メジャーリーガーとして圧倒的な実績がある方が野球科学・トレーニング科学を学ぶと、まさに鬼に金棒だと思います!

どの選手にも通用する万能な指導法は存在しない!

コーチとして一番やってはいけないことは、「俺が子どもの頃はこうやって教わった」という考え方を前提にして選手を指導してしまうことです。これは指導ではなく、知識の押し付けでしかありません。

根性論にしても、根性というものを心理学的に理論立てて説明できないコーチは、決して根性論を選手に押し付けるべきではありません。そもそもスポーツ心理学を学んでいる方であれば、根性論を前提にすることもないとは思いますが。

すべての選手に通用する万能の指導法など存在しません。もちろん投げる・打つに関しての基本に関しては共通するわけですが、基本以外の指導に関しては選手が100人いたら、100通りの指導法をコーチは用意する必要があります。

僕は双子の選手を指導した経験も豊富にあるのですが、一卵性の双子であってもその指導法は個々によって異なります。もちろん似てくるところもあるわけですが、しかし双子だからといって僕の指導内容が同一になることはありません。

僕の場合は選手個々のタイプ、レベル、人柄などに合わせて指導法や伝え方を変えています。もちろんこれは決して楽な作業ではありませんが、しかし僕は2010年1月の開校以来、ずっとマンツーマンにこだわって、このやり方を続けています。

その結果たくさんの生徒さんが12球団ジュニアトーナメントの最終選考に合格したり、甲子園に出場したり、六大学野球で活躍したり、プロ野球選手になったりしています。

僕の選手としての実績は上述の通り、野球肩により高校一年生止まりです。ですので他の一般的な野球経験者よりもプレー経験は乏しいとも言えます。しかし野球動作やトレーニング理論を科学的にしっかりと学び、その内容を常にアップデートし続けているため、そんな僕でも選手たちをどんどん上達させることができていますし、長年プロ野球選手のサポートも続けています。

そして選手たちが実際に上達を実感してくれているからこそ、2010年にスタートした僕の野球塾は、2023年になった今でも多くの生徒さんが通ってくれているんです。

野球塾を選ぶ際はまずはコーチのレベルを確認しよう

もし今現在、どの野球塾に通おうかを迷っているようでしたら、野球動作やトレーニング理論を科学的に学んでいると思われるコーチがいる野球塾を選ぶようにしてください。「コーチが元プロ野球選手だから」「コーチに甲子園で活躍した経験があるから」という理由だけで野球塾を選ぶことは避けてください。

本気でもっと野球を上手くなりたいのであれば、必ず最新の野球理論やトレーニング理論を学んでいるコーチを探してください。ちなみに「ステイバックを教わることはできますか?」とか、「エクステンションはどうやって伸ばすのが適切ですか?」とか、「プライオメトリクスの正しいやり方を知りたいです」というふうに、専門用語を出して質問して、それに対し真摯に分かりやすく説明してくれるコーチは、ちゃんと勉強しているコーチです。

逆に「ステイバックは今流行っているのかもしれないけど、私は私のやり方での指導を続けています」という感じで、どうもお茶を濁すような受け答えをしてくるコーチは絶対に避けてください。引退後は野球塾で指導している元プロ野球のスター選手であっても、僕が実際にお話をさせていただくと、そのようなコーチは少なくありませんでした。

実際に僕がそのようなコーチとお話をする機会があると、科学的な野球用語やスポーツ理論用語がまったく通じないコーチが本当にたくさんいました。重要なのは練習アイデアの豊富さではなく、科学に基づいた理論をどれだけ持っているかどうかです。ここを見誤ってしまうと、高いレッスン料を払ってもあまり上達できない、という残念な結果になってしまうこともありますので、ぜひご注意ください。

そしてもしこのコラムを読んでくださり、僕のレッスンに少しでもご興味を持ってくださった場合は、お気軽にLINE(僕のLINEはこちらから友だち追加してください)よりお声掛けくださいませ。よろしくお願いいたします。

まだ世間的には正しく認知されていないイップス

藤浪晋太郎投手はイップス?!

今季からアスレティックスに移籍した藤浪晋太郎投手をイップスだと断定したメンタルトレーナーの阿部久美子先生や、その他野球関係者も多いようですが、これを言った方はイップスのメカニズムについてほとんどご存知ないと言えます。阿部先生にしてもメンタル面の専門家かもしれませんが、イップスの原因となる動作のメカニズムに関してはご存知ないのではないでしょうか?そこで僕はプロフェッショナルコーチとしてここで断言しますが、藤浪晋太郎投手はイップスではありません。

そもそもイップスとは何かと言うと、まったく投げたいところに投げることができず、キャッチボール相手もボールを捕ることができないような状態のことを言います。藤浪投手は確かに四球をたくさん出して試合を壊してしまうことがありますが、これはイップスではなく、ただの制球難です。

もし藤浪投手が本当にイップスだとすれば、ほとんどのボールがキャッチャーが捕球できないところに飛んでいってしまうはずです。しかし藤浪投手のボールのほとんどをキャッチャーは普通に捕球できていますので、これをイップスということはできません。

そしてイップスは野球をやめるまで治らないと信じている人も多いようですが、これも誤りです。どのように投げるとイップスの状態になるのかというのは、この10年くらいの研究ですでに多くが明らかになっています。そしてその原因動作を適切な方法で直すことにより、野球選手のイップスは治るものになってきました。

筆者カズコーチのイップス改善法

僕自身イップスに悩む選手をコーチングし、そのイップスをしっかりと治したことが多々あります。例えばある選手は高校時代からイップスに悩み、大学野球に進んでも治らず僕のコーチングを受けに来たのですが、初日にキャッチボールをすると、彼のボールは僕のキャッチャーミットがまったく届かないところにしか行きませんでした。これがイップスです。

藤浪晋太郎投手はイップスではなくフォームを崩しているだけ

上述した通り、藤浪晋太郎投手はイップスではありません。藤浪投手の場合、テイクバック、トップポジション、ボールリリースに再現性がないんです。分かりやすく言うと、常に微妙に違うフォームで投げてしまっているんです。ボールは、常に同じフォームで投げることによって常に同じところに投げられるようになります。

例えば外角と内角で投げ方を微妙に変えようとするピッチャーが多数いますが、これは制球難の原因になります。恐らくは藤浪投手もこれをやった経験、もしくはやらされた経験があるのではないでしょうか。藤浪投手の場合、内外角を投げ分けようとする際に、特にテイクバックからトップポジションにかけての動作が変わることが多いようです。

繰り返しますが、藤浪晋太郎投手はイップスではなく、ただフォームを崩しているだけです。藤浪投手はやはり、僕のようなコーディネート(動作調整)を行えるパーソナルコーチと契約すべきです。バイオメカニクスを理解していてそれを指導できるコーチであれば、藤浪投手の制球難をしっかりと直してあげられるはずです。

ちなみに藤浪投手はボールリリース前後で手首を背屈掌屈させる癖もあります。この動作のことを日本ではスナップスローだと勘違いされていることも多いのですが、ボールを投げるにあたり手首は絶対に曲げてはいけません。手首を使って投げてしまうと制球は絶対に安定しなくなりますし、そもそもボールの回転数が大幅に低下してしまいます。

スケール効果を克服できない藤浪投手と、克服している大谷投手・佐々木投手

藤浪晋太郎投手のフォームが安定しない主な原因の一つは、スケール効果にあります。スケール効果とは平たく言うと、高身長で手足が長くなるほど、その手足を上手く動かすことが難しくなる現象のことです。

そしてこのスケール効果は高身長の選手じゃなくても、中高生などで急に身長が伸びた選手にも一時的に見られます。このスケール効果を最小限に抑えて手足を思うように動かしていくためには、軸の使い方を改善する必要があります。特に197cmという高身長の藤浪投手の場合は。

藤浪投手は遠心力を使って投げるタイプの投手なのですが、しかしこれがフォームを崩す原因になっています。難しい話をすると投球時、体軸と運動軸は分離させて使うのが理想的です。これができているのが同じ高身長の大谷翔平投手や佐々木朗希投手です。

大谷翔平投手の投球動作分析
佐々木朗希投手のフォーム分析

大谷投手と佐々木投手の場合、遠心力ではなく求心力を使ってボールを投げています。そのため体軸(背骨)と運動軸がしっかりと分離し、ボールリリースでは運動軸が体の右外に飛び出ています。そのため高身長で長い腕であっても遠心力や慣性モーメントに振り回されることなく、コンパクトにスローイングアームを振って投げることができています。その結果制球が非常に安定しています。

ちなみに同じ高身長でもダルビッシュ有投手の場合は少し特殊で、ダルビッシュ投手は高身長であるにも関わらず腕の長さと手の大きさが身長175cmの僕とまったく同じなんです。そのため求心力をそれほど意識しなくても、スローイングアームが遠心力に振り回されることがありません。

恐らく阪神タイガースの投手コーチたちは、体軸と運動軸に関しての理論をご存知ないのだと思います。だからこそこれだけ長期間指導してきても、藤浪投手のフォームを安定させることができませんでした。藤浪投手のテイクバックからトップポジションにかけての動作が安定していないことは上述しましたが、遠心力投法を求心力投法に根本的に変えていかない限り、いくらショートアームを取り入れたところで藤浪投手は今後もスケール効果に苦しみ続けるはずです。

ただ、それでも調子が良い時は良いピッチングをすることができるでしょう。しかしこの調子の良さというのも藤浪投手の場合は再現性が低く、たまたまその試合は良いところでテイクバックとトップポジションがはまっていたに過ぎません。そしてそれを藤浪投手自身投げながら自覚できていないため、その調子の良さを持続することができないんです。

ちなみに遠心力投法を求心力投法に変えるためには、大幅なフォーム改造は必要ありません。股関節と骨盤の使い方を専門家がコーディネートしてあげれば、ある程度の期間のトレーニングで改善することが可能です。藤浪投手の場合、それができるコーチとの出会いがなかったというのも不運と言えるのかもしれません。例えば大谷投手には中垣征一郎コーチ、佐々木投手は吉井理人コーチとの出会いがあったように。

藤浪晋太郎投手に会いに行って欲しいアメリカの名コーチと名投手

アスレティックスでは先発として数試合投げ、すでに先発失格の烙印を押されてしまっている藤浪晋太郎投手ですが、彼はここで終わるべきレベルの選手ではありません。彼は良いコーチとの出会いがあれば、必ず大化けし、スーパーエースになることだって可能です。

高校時代の藤浪投手のボールは、高校生ではなかなか打てないボールでした。そのため藤浪投手も打者を見下ろすようにして投げていました。そしてそれはプロ3年目くらいまでは続いていき、高卒でプロ入りし、最初の3年間は3年連続二桁勝利を挙げています。

しかしプロ入り4年目の2016年になると少し疲れが見えてきたり、肩痛にも見舞われ、プロの打者も十分に藤浪投手のボールにアジャストできるようになっていました。すると高校時代の勢いのままでは思うように勝てなくなり、藤浪投手も色々と考えるようになったのかもしれません。

そんな中起きたのが、時の金本知憲監督による161球の強制完投事件でした。その日の藤浪晋太郎投手はいつも以上に調子が悪く制球も乱していたわけですが、金本監督は懲罰的に藤浪投手に完投をさせました。しかし調子が悪い状態のフォームで投げ続けても、そこから試合中に突然フォームが良くなることはまず考えられません。この金本監督のやり方は、大切な選手を預かる指導者としては間違ったやり方です。

この場面での金本監督の義務は、調子が悪ければ早めに降板させて次の試合に向けて投手コーチにフォーム調整をさせたり、一度登板を飛ばしてミニキャンプを張らせるなどの行動です。決して懲罰的に感情に任せて完投させることではありません。しかし金本監督がそのような対応を取ってしまったことで、藤浪投手はさらにフォームを崩し、この年からほとんど活躍できなくなりました。2015年は一年で14勝を挙げた藤浪投手ですが、2016〜2022年では合計22勝しか挙げられていません。

金本監督は藤浪投手に懲罰を与え、阿部先生はイップスだと断定。そしてエモやんこと江本孟紀氏は走り込み不足だと言いました。しかし正解はそうではなく、桑田真澄氏が仰った通り単なる技術不足です。そしてその責任は、その技術をコーチングすることができなかったタイガースの監督・コーチにあったと言えます。だからこそ藤浪投手はチームのコーチだけに頼るのではなく、外部の野球科学を理解したプロフェッショナルコーチと契約すべきなんです。

もし藤浪晋太郎投手がスケール効果を克服するための技術を身につけられれば、藤浪投手は間違いなくスーパーエースへと変貌するはずです。ここで大切なのはイップスだと断定して上から無理矢理ふたを閉めてしまわないことです。上からふたをしてしまえば、藤浪投手自身「あぁ、俺はイップスだからダメなんだなぁ」というメンタルに陥ってしまいます。

ちなみにアメリカには、身長208cmのビッグユニットことランディ・ジョンソン投手の制球難を、遠心力投法から求心力投法に修正することにより大化けさせたトム・ハウスという名コーチがいます。最近はNFLの選手の指導を行うこともあるハウスコーチですが、藤浪投手は一度ハウスコーチに話を聞きに行っても良いかもしれませんね。

もしくは機会があれば、引退後は写真家・ドラマーとして活躍しているハウスコーチの教え子、ランディ・ジョンソン氏に会いにいっても良いかもしれません。同じようにスケール効果に悩んでいてそれを克服してスーパーエースになった人物ですから、藤浪投手にとって何かプラスになる助言をしてくれるはずです。ジョンソン氏とは一度日本でお会いしたことがあるのですが、とても気さくで人柄の良いビッグユニットでした。ですからきっと藤浪投手の相談も親身になって聞いてくれるはずです。

とにかく藤浪投手には決してこのまま終わってしまうのではなく、メジャーで二桁勝利を挙げて日本とアメリカの野球ファンを見返して欲しいですね!

なぜ大人たちは子どもたちに「なぜ」と言わせない指導をするのか?!

少年野球や中学野球の良い指導者と悪い指導者の割合は22:78という法則

僕はプロコーチとして様々なチームを見てきましたが、特に小中学生チームに多かったのが、選手たちに「なぜ」を言わせない指導者の存在です。これが高校野球や大学野球レベルになると、年代的にも選手自身である程度の理論武装をすることができます。そのため「なぜ」を言わせない指導はほぼ通用しなくなります。

しかし少年野球、学童野球、リトルリーグ、中学野球部、シニアリーグなどでは、選手に「なぜ」を言わせない指導が未だにまかり通っています。指導者自身が勝手に正しいと思い込んでいることを、子どもたちに頭ごなしに教え込むやり方です。これはまさに昭和の前時代的なやり方であって、スポーツ科学的には誤ったやり方であるとしか言えません。

ではなぜ指導者たちは「なぜ」を子どもたちに言わせないのか?その理由は簡単で、自分たちが最新の野球指導法をまったく勉強していないからです。だから子どもたちに「なぜ」と聞かれても答えられないわけです。だから「なぜ」を言わせない頭ごなしのやり方をするしかないんです。しかしこれは指導法としては最低のやり方です。

もちろん中には、子どもたちの疑問を丁寧に解決しようとしてくれ、スポーツ科学を独学されている指導者もいらっしゃいます。しかしそのような指導者は少年野球や中学野球ではレアな存在です。ほとんどいらっしゃらない、と言った方が正確です。

僕の個別レッスンを受けたことがある方であればご存知だと思いますが、僕のレッスンでは僕の方から選手にどんどん質問をし、考えさせるようにしています。ちなみに、もちろん質問する内容はレッスンで指導済みのことのみです。

レッスンを受けにきてくださるお子さんたちの99%は、自分から「なぜ」を伝えてくることはありません。色々な動作を指導していても、なぜその動作にすると良いのか、ということを、僕が指導する前に積極的に聞いてくる小中学生は1%いるかいないかという割合です。これもやはり、チームで「なぜ」が許されない頭ごなしの指導が行われている影響だと思われます。

なお、頭ごなしと言うとスパルタ的なイメージもありますが、笑顔で優しい口調だったとしても、子どもたちが「なぜ」と聞きにくい教え込み方は、これも頭ごなしであると言えます。

良い指導者と悪い指導者の割合は22:78

実は良いコーチというのは自ら教えにいくことはないんです。もちろん僕のレッスンを受けに来てくれた子には、教えるべきことは教えるわけですが、ですがコーチの最大の仕事は、とにかく選手を観察することです。選手の細かい動作の変化に咄嗟に気付けるようにしておくことです。これができないコーチは、プロだろうとアマだろうと選手を伸ばすことはできません。

僕のレッスンではこちらからたくさん質問をしますし、ノートにもたくさんのことを書いてもらいます。このノートというのがとても大切で、いくら僕がコーチとして素晴らしいことを指導したとしても、その話を聞いた数日後には記憶は薄れていってしまいます。すると何を教わったのかをすっかり忘れてしまい、同じことを何度もレッスンしなければいけない、というもったいない状況に陥ってしまいます。

そうならないように、僕は子どもたちにはとにかくこまめにノートを取るようにしてもらっています。そして正しく書けているかどうかも確認するようにしています。しっかりとノートに書いておけば、正しい動作の記憶が薄れてしまっても、そのノートを見ればまた正しい動作を思い出すことができます。聞いて、書いて、動いて、忘れて、ノートを見て、また動いて。この繰り返しを続けていけば、どんどん正しい動作を体が覚えていきます。

そして僕は、選手たちに伝えた言葉や指導内容をすべてメモしています。僕は記憶力はかなり良い部類ではありますが、それでも時間が経つと記憶が曖昧になることもあります。そんな時は「この選手にあの内容は伝えただろうか?」と思い返し、デジタルでメモしているノートに検索をかけます。すると、何月何日のレッスンで伝えたということが一瞬で分かるわけです。逆にまだ伝えていなければ、検索結果が0件になります。

僕自身もこうしてすべてメモしていくことで、自分の言葉とレッスン内容に責任を持つようにしています。ですが上述した頭ごなしの指導者の場合、「同じことを何回も言わせるなよ!」と言いつつも、実はそれは他の選手に言ったこと、というケースが多々あります。これは少年野球や中学野球だけではなく、一般社会でもきっと同じですよね。そういう上司、周りにいたりしませんか?

でもそんな時、「聞いた記憶がありません」なんて言ってしまうと今度は逆ギレして、「お前が覚えてないだけだ!」と言ってきたりするわけです。もうこれはまさに最悪の部類の野球指導者ですね。もちろん最悪な指導者は全体を見渡せば一部であるわけですが、それでも全国的に見ると数え切れないほどいる、という人数になります。

皆さんはユダヤの法則をご存知ですか?これは、世の中は常に22:78の割合で成り立っている、という考え方です。良い指導者が22人いたとしたら、無能な指導者が78%いるということです。そして良い指導者22人の22%にあたる約4.8人が素晴らしい指導者である可能性があり、22人の中の78%にあたる約17.1人が普通のいい指導者と考えることができます。

逆に78人の無能な指導者の中の78%にあたる約60.8人はただ無能なだけの指導者で、78人の中の22%にあたる約17.1人は最悪の指導者である可能性があります。このように常に22:78の割合で掘り下げていくと、世の中の縮図を作ることができます。

中学野球で肩肘を壊されながらも、神宮デビューした僕の教え子

無能な指導者は、とにかく選手に意見を求めることはしません。例えば僕の生徒さんの中に、東京の名門シニアリーグでピッチャーをやっている選手がいて、肩も肘も痛めてしまったため、それを治すために僕の動作改善を受けに来た中学生がいました。

その中学生は、シニアリーグに入ってすぐ監督にフォームを直されて肩肘の痛みを訴えるようになりました。その時の監督の言葉は「走り込みが足りないからすぐ肩肘が痛くなるんだ」というものだったそうです。野球の指導者をしているくせに、本当にどれだけ野球の勉強をするのが嫌いなのでしょうか?この監督は。

約6ヵ月間のドクターストップ期間にレッスンを受けに来てくれたのですが、6ヵ月かけて本当に素晴らしいフォームに改善することができました。肩肘は強く投げてもまったく痛まなくなり、最速110km/hだったストレートも、レッスン後は125km/hと、わずか6ヵ月のレッスンで球速が15km/hもアップしました。

そして肩肘も治り、球速も上がり、満を持してチームに復帰したのですが、監督からかけられた言葉は「俺が教えたフォームがかなり崩れている」、だったそうです。そして「俺の言う通りに投げられないなら試合では使えない」と言われたそうです。これは脅迫です。

この中学生選手は僕のレッスンを受けた後、このような形で再度監督に肩肘を壊すためのフォームに戻されてしまいました。そしてレッスン修了から約1年後、この中学生はまた肩肘を痛めて僕の野球塾に戻ってきました。僕と親御さんはそこで初めて、彼が上述した脅迫めいたことを言われ、監督に従うしかなかったことを知りました。

この中学生にとっては中学最後の夏目前の出来事でした。このようなこともあり、親御さんの方針でこの子はそのシニアチームを退部し、僕のレッスンだけを受けることにしました。チームの移籍も考えたようですが、しかしこれは日本ではとても難しいんです。日本の小中学生チームは横のつながりは本当に意地悪で、近隣チームでの退部情報はすぐにシェアされ、近隣チームを辞めた子を受け入れてくれるケースはほとんどないんです。

このような日本特有の事情もあり、親御さんは息子さんを退部させることにしました。そしてそこから高校までの間、みっちり僕のレッスンを受け、ピッチングフォームもバッティングフォームも素晴らしいフォームになりました。その甲斐もあり、彼は高校3年間で一度も怪我をすることなく高校野球を全うしました。残念ながら甲子園はあと1勝というところで届かなかったのですが、しかし大学では無事神宮デビューを果たすことができました。

ちなみにこの子に肩肘を痛めるためのフォームを頭ごなしに教え込んだ監督は、今も現役の監督だそうです。このように指導者に恵まれずに怪我に苦しんだ小中学生は、本当に数え切れないほどいます。そして子どもたちが野球から離れる理由の1位・2位は常に怪我と人間関係です。

僕の野球塾でレッスンを重ね、最終的に神宮デビューしたこの子は、中学時代は怪我にも泣かされ、指導者との人間関係にも恵まれない状況でした。でも彼は野球が好きだったのでそこで諦めることなく頑張ってトレーニングを続けました。その結果高校・大学では良い指導者に恵まれたようです。そして高校でも大学でも「本当に良いフォームで投げている」と褒められたそうです。ちなみに大学の監督さんは、僕もよく知る仲の監督さんでした。彼が監督に僕からフォームを教わったことを告げると、「どうりで良いフォームなわけだ」と言われたそうです。

そして高校の監督も、大学の監督も、疑問に思ったことはいつでも聞くことができ、質問をすると一緒に真剣に考えてくれたそうです。これこそが素晴らしい指導者のあるべき姿です。小中学生のチームにも、本当にこのような指導者たちに増えて欲しいなというのが、プロフェッショナルコーチである僕の切なる願いです。

道具の性能に頼ったプレーができなくなる今後の中学野球

道具の性能に頼った野球ができなくなりつつある中学野球

中学生は野球塾のレッスンで科学的に正しいフォームを身につけることで、グングン上達していくことができます。一般的に男子生徒は中学生に入ると身長が伸び始め、体も強くなっていきます。つまり小学生時代にはできなかったレベルのフォームでプレーできるようになる、ということです。

でもその時、科学的に正しいフォームが身に付いていないと体格でしか勝負できなくなり、自分と同じ体格以上が相手になると勝てなくなりますし、そもそも科学的に正しくはないフォームで打ったり投げたりを繰り返していると、必ず怪我をしてしまいます。

さて、なぜ今回は中学生をテーマにしたかと言うと、中学生の体格はもう小学生とは異なりますし、かと言って高校生ほど大人に近いというわけでもありません。つまり文字通り中学生は、小学生と高校生の中間に位置しているとても重要な世代だと言えるのです。そのため今回は中学生をテーマに野球コラムを書いています。

反発係数が木製バット同様になるバットが主流になる高校野球の未来

高校野球では年々低反発バットへの移行が強く推奨されるようになってきました。今までの金属バットというのは本当に飛びすぎるくらい打球がよく飛ぶバットだったのです。ちなみに日本の金属バットは反発係数が高すぎて、アメリカでは使うことはできません。

高反発バットというのは打球がよく飛びますので、打球速度の速さも半端ではなく、実はとても危険なんです。そして高校野球では高反発バットによるホームランの量産ばかりが注目されるようになり、技術力の向上が置き去りにされてきました。そのため日本の高校生バッターは、国際大会ではほとんど通用していません。

一方アメリカの金属バットは、反発係数を木製バットと同水準にしなければならないという規定があるため、高校生レベルであっても金属バットから木製バットへのシフトにはほとんど苦労しません。しかし日本の場合、高校生が金属バットから木製バットに持ち替えた途端打てなくなることがほとんどです。

ビヨンドが使用禁止になった12球団ジュニアトーナメント

小学生の場合も、高校野球で低反発バットの需要が高まりつつあるのと同じ現象が起き始めています。2022年の12球団ジュニアトーナメントでは、2022年夏に行われたセレクションまではビヨンドやカタリストなどの複合バットの使用は可能でしたが、12月27日から行われた大会では正式にビヨンドやカタリストの使用が禁止されました。

12球団ジュニアトーナメントで使用できるのは通常の金属バット、木製バット、バンブーバット、ラミバットのみです。つまり2023年以降は、ビヨンドの恩恵でヒットや長打を打てていた選手は、12球団ジュニアトーナメントのセレクションには通らなくなる、ということです。

このように今、少年野球でも高校野球でも高反発バットの利用を禁じる方向に時代は進んでいます。日本のバットは、日本独自の進化を遂げることによってどんどん飛距離が伸びるようになりました。その反面道具に頼ってヒットや長打を打てるようになり、技術力を大切にする選手が減ってしまいました。

いま野球を本気で頑張っている中学生の多くは、高校に入ったら野球部に入ると思います。その時高反発バットの性能に頼っていたり、ビヨンド打ちが体に染み付いてしまっていると、高校野球ではまったく通用しなくなります。打球はほとんど外野にさえ届かなくなるはずです。

そうならないためにも、体がどんどん大きく強くなっていく中学生のうちに、どんなバットでもヒットを打てる科学的に正しいフォームを身につけておく必要があるんです。そしてそのための徹底サポートをしているのが僕の野球塾をはじめとした理論派野球塾の存在です。

体の成長に比例して上達速度を速められる可能性を秘める中学生

体の成長に比例して上達速度を速められる可能性を秘める中学生

そもそも軟式野球と硬式野球の打ち方というのは、まったく異なります。軟式野球はビヨンドに代表されるように、ボールの正面をバットの正面で打つことにより打球を飛ばして行きます。しかし硬式野球でこの打ち方をしてしまうと、よほどパワーのあるバッターじゃない限り打球を遠くまで飛ばすことはできません。

硬式野球は打球にバックスピンやトップスピンをかけることによって飛距離を伸ばしたり、ゴロの球足を速くさせていきます。ホームランに関しても体格や筋力に頼るのではなく、マグナス力を上手く利用できるように、打球にスピンをかける技術が求められます。この技術さえ身につけてしまえば、小柄でも細身でもホームランを打てるようになります。

高校時代の清原和博選手を覚えている方も多いと思いますが、清原選手は細身だったPL学園時代やライオンズ時代の方が、格闘家のような体型になった後よりも怪我なくホームランを量産することができていました。しかも清原選手の高校時代には、現代のような高反発金属バットなど存在していません。

しかし技術を身につけられなければ、あとは体格で勝負するしかなくなります。中学野球で非常に多いのですが、体を大きくするために練習の合間にドカベンを食べさせる野球指導者が日本には大勢います。これはまず栄養学的に間違ったやり方ですし、そもそも練習の合間のドカベンは熱中症のリスクを高めるだけです。

そして多くの野球指導者が科学的に野球フォームを学んでいないため、科学的に正しい投げ方・打ち方を指導することができません。するとどうなるかと言うと、体の大きさで勝負するしかなくなり、子どもたちにドカベンの完食を求めるようになるわけです。ここでまず言えることは、練習の合間にドカベンを食べさせるような指導者に子どもたちを預けてはいけない、ということです。

中学生の体はまさに日に日に大きくなり、大人へと近づいていきます。つまりここで科学的に正しいフォームをしっかり身につけることができると、体の成長速度に比例して、技術力もどんどん向上させていくことができます。体が大人の体に近づいて強くなっていくほど、レベルの高い技術を身につけられるようになります。

まずこれが、特に中学生が野球塾のレッスンで科学的に正しいフォームを身につけられるとグングン上達していける最初の理由です。僕の野球塾でも多くの中学生がレッスンを受けていますが、間違いなく中学生の上達速度は、小学生よりも高校生よりも速いと言えます。

例えば中学の野球チームで5番手投手だった選手は、レッスンを受けた半年後にはエースとして投げるようになり、大会でチームを勝利に導ける投手になりました。また、シニアでなかなか背番号をもらえなかった打者は、レッスンを受け始めた10ヵ月後の最後の夏には4番打者としてチームを牽引するようになりました。

中学生というのは、野球塾のレッスンによって科学的に正しいフォームをしっかりと身につけられると、このように急激な上達を実現できる可能性が非常に高いんです!

小学生には理解できないことも理解できるようになる中学生

小学生には理解できない野球塾のレッスンも理解できるようになる中学生

怪我をしない投げ方や打ち方を身につけるのであれば、選手個々のフォームが癖づく前の小学生のうちに動作改善をしてしまうのがベストです。怪我をしやすい投げ方や打ち方を、体も大きくなってきてフォームがある程度固まったあとから改善しようとすると、けっこう時間がかかってしまうんです。

怪我をしにくいフォームという意味では中学生の場合、小学生よりも改善までに少し時間はかかってしまうのですが、それでも高校生になってから改善しようとするよりは短時間で済みます。

そして中学生は、言葉の理解力がグングン高まってくる世代です。僕は小学生、中学生、高校生、大学生、プロ野球選手の個別サポートを業務としているのですが(メインはプロ野球選手の動作改善サポート)、中学生になってくると多くの選手たちの僕の言葉に対する理解力が高まっていくんです。

そのため小学生をレッスンする際には使わないような専門用語(もちろん初めて使う時は言葉の意味を説明します)を増やしたり、小学生には教えられない難しいレベルの動作を伝えられるようにもなります。そしてその理解力は高校生と大差はありません。もちろん国語力的には中学生よりも高校生の方が上なのですが、しかし僕の言葉に対する理解力に関して言えば、中学生と高校生とでは平均的にはほとんど差はありません。

そのため中学生の場合、正しい動き方を正しく理解し、正しく体現できるだけではなく、その動作がなぜ必要で、今までの動作だとなぜ良くないのかも深く理解できるようになります。小学生の場合は、このあたりが理解ではなく、暗記になってしまうことが多いんです。言葉を暗記しただけでは正しいフォームの理解度は深まりません。それが中学生になると覚えられるだけではなく、覚えたことをしっかりと理解できるようになるんです。

例えば「脚を高く振り上げて投げましょう」という指導をしたとすると、ほとんどの小学生の場合はただ脚を高く上げて投げようとするだけに留まります。レッスン中にできるだけ分かりやすく説明をしても、その動作の必要性や、今までの動作がなぜダメだったのかを理解できるまでに時間がかかるケースが多くなります。そのためその場では理解できなかったとしても、中学高校になった時に役立てられるように、僕は小学生にもレッスン内容をしっかりとノートに書いてもらうようにしています。

国語力が低すぎる選手はプロ野球でも大成できない!

実はプロ野球選手の中には、国語力がまったくない選手が少なくありません。高校時代は体格やセンスだけで野球をやっていて、プロスカウトも注目していた高校生だったため、勉強の成績は常に赤点というような選手たちです。僕が指導を担当したある選手は2軍で燻っていた20代の選手だったのですが、その選手の体のケアを担当されていたトレーナーさん経由で、僕に動作改善を手伝ってもらいたいというオファーが届きました。

しかしその選手が僕のサポートを受けたのは短期間だけでした。その理由は、彼が僕が説明する言葉がほとんど理解できなかったためです。もちろん僕はスポーツの専門用語や解剖学用語に関しては必ずどういう意味なのかを説明しました。ですが彼はそのような言葉を覚えたり、理解することを苦痛に感じてしまい、1ヵ月も立たないうちに僕のサポートを打ち切ってしまいました。そしてそれから一年も経たないうちに、彼は一度も1軍に定着することなく、トレードで得た新たなチャンスも活かせず、戦力外通告を受けてしまいました。

確かに中には大人になってもこのように国語力に乏しい選手は大勢います。しかし国語で平均点以上の点数を取れている中学生であれば、ほぼ確実に僕が説明する言葉や動き方を正しく理解することができます。この理解力は小学生には一部の選手にしか求められないものです。僕のレッスンにおいては、だいたい小学生全体の5%くらいしか、中学生同様に少し難しい話を理解できる小学生はいません。

逆に中学2年生や、2年生を間近にした年代になってくると、理解力がどんどん向上していきます。そのため言葉の説明さえ先にしてしまえば、スポーツの専門用語を絡めながら動作指導をしても、しっかりと理解することができます。正しい動作をよく理解できるからこそ、トレーニングでも正しい動作で投げたり打ったりすることを意識できるようになり、その結果実戦でも正しいフォームでプレーできるようになり、成績がどんどん向上していくようになります。これが中学生が野球塾のレッスンを受けるとグングン上達していける2つめの理由です。

中学生になると練習すればするほどスタミナがついていく!

中学生になると練習すればするほどスタミナがついていく!

「動作をマスターする」というのは、運動習熟というスポーツ心理学用語で説明することができます。運動習熟とは、その動作を意識しなくても自然とできるようになっている状態のことで、その動作が癖づいているということを意味します。

新しい動作を運動習熟状態まで持っていくためには、一般的な現役選手の場合は平均2000回その動作を繰り返すことによって、その動作がマッスルメモリー(筋肉が動作を覚えた状態)された状態となり、意識しなくてもその良い動作で投げたり打ったりできるよういなります。つまりその動作が新たな癖になるということです。

2000回と聞くと最初は途方もない数字のように感じてしまうかもしれませんが、しかし毎日100回ずつ繰り返したとしたら20日間、200回ずつなら10日間で終わってしまう程度の回数です。つまり毎日普通に練習をしていればあっという間にクリアできる数字、ということになります。

ただし気をつけたいのは、同じ動作を2000回繰り返す必要があるということです。もし途中で元の動作に戻ってしまったり、違う動作が挟まったりしてしまうと、カウントはリセットされてしまいます。ですので、とにかく正しい動作をひたすら繰り返す必要があります。

小学生・中学生・高校生、各世代ごとの強化しやすいポイント

さて、ここで各世代ごとの特徴をおさらいしておきたいと思います。まず12歳までの小学生世代というのは敏捷性が向上する世代となります。12歳までに敏捷性を向上させておかなければ、中学高校になってから敏捷性を向上させることは非常に難しくなります。もちろん不可能ではないのですが、上手くいかなかったり、必要以上に時間がかかってしまうことが多くなります。ですのでジャンプや短距離走など、体を高速で素早く動かす必要がある動作への対応は、遅くとも12歳までに行っておく必要があります。

そして高校生の場合は、筋力がつきやすくなります。もちろん小学生でも中学生でも筋肉量を増やすことはできるのですが、大人の体にかなり近づき、ほぼ計算通りに筋肉量を増やしていけるようになるのが16歳以上となる高校生世代となります。このような生理学的理由もあり、ダンベルなどのウェイトを使った本格的な筋トレは、高校生になって身長がほぼ止まってから始めるのがベストだと言えます。それまでは筋トレをするにしても、自重(自分の体の重さ)だけを使って行うようにしましょう。

では13〜15歳の中学生世代ではどのポイントが強化しやすくなるのか?それはスタミナです。中学生世代というのはどんどんスタミナつけていくことができる世代です。つまり練習時間や練習回数をどんどん増やしていける世代ということになります。

ある動作をマスターするためには2000回の反復練習が必要であることはすでに上述しました。中学生世代になるとスタミナがつくようになり、この2000回という数字の難易度がかなり下がっていくんです。さらには途中でカウントがリセットされてしまったとしても、何度でもやり直す体力を持てるようになります。要するに練習をすればするほどスタミナが強化され、さらにたくさんの練習をこなせるようになる、ということです。これが中学生が野球塾でレッスンを受けるとグングン上達していける3つ目理由です。これはスタミナが付きにくい小学生には真似することはできません。

中学生が野球塾に通うとグングン上達できる理由についてのまとめ

中学生が野球塾に通うとグングン上達できる理由についてのまとめ

とにかく中学生になると男子選手は一般的にはどんどん体が大きくなっていきます。しかしまだ大人の体としては完成というわけではないので、体の状態としてはまだフレキシブルだと言えます。つまり例え悪い癖がフォーム内に入っていたとしても、まだ比較的短期間で修正することができ、良い動作を入れ直す作業もそれほど時間はかからないということです。

そして国語力もアップしていくことにより、コーチの言葉に対する理解度も深くなり、一つ一つの練習の必要性をしっかりと理解した上で練習に励んでいけます。それぞれの練習意図をしっかりと理解できるようになると、理解できていない時と比べ、上達速度はどんどん速くなっていきます。

また、動作をマスターするために必要な反復練習も、小学生にはできないような回数をこなせるようになり、新しい動作を次々とマスターしていくことができます。

だからこそ中学生は、野球塾で理論的に正しいフォームを学ぶことで小学生よりも、高校生よりも上達していくことが可能なんです。

でも注意してください。野球塾ならどこでも良いというわけではありません。その野球塾でレッスンを担当するコーチが、野球動作の科学的理論を学んでいるかどうかを必ず確認してください。元プロ野球選手、元高校球児、甲子園出場経験など、そのような肩書きには絶対に捉われないでください。

元プロ野球選手たちにしても多くの方が野球塾を開講していますが、ほとんどの方の野球塾が失敗に終わっています。例えば日本シリーズで活躍した元プロ野球選手二人で開講した野球塾があったのですが、そんな元スター選手二人がいるにもかかわらず、その野球塾は大きな先行投資(屋内練習場や広告費など)をしたのに、あっという間に廃れてしまいました。当人は今では多額の借金のみが残ってしまったとお話しされていました。

しかしプロ野球経験などの肩書きがなくても、僕のようにスポーツ科学などをしっかりと勉強されている方の野球塾は、確実に選手を上達させることができ、長年経営を続けることができています。僕の野球塾にしても、おかげさまで2023年1月1日で13周年(14年目)を迎えることができました。

ですので野球塾を選ぶ際は、必ずスポーツ科学をしっかりと学んだコーチがいる野球塾を探してください。そしてもし肩書きがあるコーチの方が信頼しやすいという場合は、元プロ野球選手ではなく、現役トレーナーもしくは元トレーナーが主宰している野球塾を選んでください。トレーナー経験があれば、その方はほぼ確実にスポーツ科学を学んでいると言えます。ただし僕のようにバイオメカニクスまで学んでいるトレーナーは多くありませんので、そのあたりは確認が必要かもしれません。ちなみに僕自身はバイオメカニクス、解剖学、運動心理学などを学んでいます。そのためパフォーマンスが向上して怪我をしにくくなるフォームの指導や、適切なトレーニング法、メンタル強化レッスンまで行うことができます。

ただし僕のようにマンツーマンにこだわっているコーチの場合、大勢の選手を受け入れることはできませんので、僕の野球塾に関して言えば、レッスンのお申し込みをお断りしたり、レッスン開始までお待ちいただくケースがあります。ちなみに僕の場合は特別な肩書きはありませんが、埼玉西武ライオンズの1軍コーチが僕の動作改善理論を推奨してくださっていますし、人気野球雑誌『中学野球太郎』でも僕のレッスンを特集していただきました。そういう意味では安心してレッスンを受けていただけるかと思います。

いずれにしても、スポーツ科学をしっかりと勉強しているコーチであれば肩書き関係なく安心してレッスンを受けることができます。しかし勉強されてなく、経験則だけで教えてしまっているコーチの場合、元プロ野球のスター選手であってもなかなか選手を上達させることはできません。

センスがあるプロ野球選手ほど選手を教えることができないという衝撃の事実!

なぜそうなるかと言うと、古田敦也氏が仰るように、ほとんどのプロ野球選手がセンスだけでプレーしてしまっているからです。古田敦也氏自身、現役時代はセンスだけでプレーをしていたから、他の選手に上手く教えてあげることができないとお話されていました。確かに古田敦也氏のYouTubeを拝見させていただくと、理論的に野球動作が説明されている動画はほぼ皆無でした。そして一部の動画では、野球肩野球肘の予防改善面においてマイナスになってしまうようなことも「正しい動作」として紹介されていました。
野球系YouTube動画で野球のフォームを学ぶ時はここに気をつけて!

古田氏のような方の指導は、教えられなくてもどんどん上手くなっていけるセンスがあるタイプの選手には合っています。ですが基礎からしっかりと教わっていかなければならない選手の場合は、現役時代はセンスでプレーをしていて、経験則だけで教えてしまうタイプのコーチの指導を受けてもほとんど上手くなることはできません。

このような点も、野球塾を選ぶ際の参考にされると良いと思います。基礎動作から学ぶ必要がある選手は僕のような理論派コーチのいる野球塾、逆にセンスがある選手は必ずしても理論派コーチがいる野球塾じゃなくても良いと思います。ただしセンスがある選手が理論を身につけられると鬼に金棒です!例えばイチロー選手、ダルビッシュ有投手、大谷翔平投手らはまさにセンス+理論のお手本選手たちです。

そして最後にもう一点、プロ野球チームが開講している野球アカデミーは注意が必要ということを付け加えておきたいと思います。このような野球アカデミーの場合、指導マニュアルというものが存在しており、そのマニュアルに書かれていること以外はコーチは教えることができません。これは実際にそこで指導されていた元プロ野球選手のアカデミーコーチから伺ったことです。つまりアカデミーではどの選手に対しても同じ内容の指導が行われてしまうということです。もちろんこれも良し悪しのため、最初からセンスがあるタイプの場合は、プロ野球チームの野球アカデミーでもどんどん上手くなれると思います。

ということでずいぶんと長いコラムになってしまいましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。中学生のお子さんをお持ちの方は、ぜひこの機会に野球塾のレッスンをご検討いただき、「やっぱりレッスンを受けとくべきだった」と後悔のない中学野球を過ごせるようにサポートしてあげてください。

完治させてもフォームを直さなければ野球肘は必ず再発する?!

野球肘/内側・外側・肘頭の割合

一般的に野球肘は下記のような割合だとされています。

  • 内側型野球肘/60%以上
  • 外側形野球肘/20%程度
  • 肘頭形野球肘/3%程度
このように、肘の内側を痛めてしまうタイプの野球肘が圧倒的に多いんです。肘の内側には内側側副靱帯というものがあるんですが、この靭帯に外反ストレスがかかってしまうことで野球肘を発症しやすくなります。

プロ野球選手の夢を諦め歩んだプロコーチへの道

踵の怪我が野球肩につながった可能性

僕は中学生になると、少しずつ野球肩の兆候が出始めました。

実は中学二年生の秋に体育の授業で踵にヒビが入るという怪我をしてしまったのですが、その完治から少しずつ投球フォームが崩れて行きました。すると学年が上がっても思いのほか球速が伸びなくなり、中三での最速は124km(練習中の最速は127km)でした。

ページ更新日:2022年11月5日

右投げ左打ちという弱点をまったく苦にしていない村上宗隆選手

村上宗隆

東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手が55本目のホームランを打ちました。このニュースはアメリカでも報道され、MLBのホームページにも村上選手は王貞治選手と並んで紹介されていました。

王貞治選手はMLBでもレジェンドとして扱われており、王選手をリスペクトしているメジャーリーガーは大勢います。その王選手と並んで紹介されたということは、村上選手も同様にリスペクトされているということで、今後海外FAやポスティングの行方はアメリカでも注目されていくのでしょう。

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野球の流れを生み出せる監督や選手がいる

野球の試合の流れとは一体なんのか?流れは本当に存在するのか?という研究やデータを集めた記事が散見されますが、プロコーチとしての僕の見立ては、流れは確実に存在しているというものです。

あらゆる数字を根拠にして流れは存在しないと解説されている方もいらっしゃいますが、流れという抽象的なものを数字で表すことは僕はできないと考えています。だからこそ野球チームにはその流れを読める監督や、大勢のコーチ(生身の人間)の存在が必要なのです。

もし流れをデータによってあらかじめ予想しておくことができるのならば、監督の存在など必要ありません。しかし監督は経験値が物を言う立場であり、経験値が浅かったり、空気を読まない人物では監督という職責を全うすることはできません。

ページ更新日:2022年10月23日

山本由伸投手の投げ方は本当にアーム式なのか?!

山本由伸のフォーム分析

オリックスバファローズの山本由伸投手のフォームは、アーム式だと言われることがよくあります。確かにテイクバックからコックアップにかけて一度肘を伸ばす動作を入れているため、一見するとアーム式のようにも見えます。しかし実際にはアーム式ではない、というのがプロコーチである僕の意見です。

アーム式かそうでないかを見分けるポイントは、トップポジションからボールリリースにかけてのフェイズでどれだけ肘が伸びているのか、という点です。山本由伸投手の場合、コックアップの最終盤ではすでに肘が曲がっていて、肘が伸ばされた状態で腕を振っているわけではありません。そのためアーム式ではない、と言えるわけです。

山本由伸投手のフォームの特徴としては、重心をややお尻側に落としているという点ではないでしょうか。通常はもっと力が入るように重心はお腹側に置きますが、山本投手の場合はややお尻側に落ちています。通常この動作が良い、と言うことはできず、僕自身選手をコーチングする際に重心がお尻側に落ちていたら直させるようにしています。

おそらく2021年シーズンからだと思いますが、山本投手のこの重心が真ん中寄りに戻って来ていると思うんです。その分フォーム全体のバランスが良くなり、ストレートの伸びと変化球のキレが昨季以上に増しているように見えました。

ただし山本投手には、重心がお尻側に落ちている形を上手く利用できる高い技術があります。通常であれば重心がお尻側に落ちていると力が入りにくくなり球威は大幅に低下してしまいます。

しかし山本投手の場合はお尻側にやや落ちた重心を上手く使い、アクセラレーションフェイズ(トップポジションとボールリリースの間の加速フェイズ)で体軸と運動軸を分離させているんです。この体軸と運動軸の分離こそが、山本由伸投手の伸びのあるストレートを生んでいるというわけです。

運動軸と体軸の分離に関しては、僕の野球教則ビデオの中で詳しく解説していますので、そちらをご視聴いただければ幸いです。

体軸と運動軸を分離させている山本由伸投手のフォーム

体軸と運動軸を分離させて使えるようになると、リリースポイントと運動軸のラインを限りなく近付けられるようになります。すると求心力を使えるようになり、鋭いボディースピンを生み出し、ストレートの回転数を増やせるようになります。

そしてストレートの回転数が増えれば、力一杯投げなくてもストレートが伸びる(ホップ要素が増える)ようになり、簡単にバッターを差し込めるようになります。ボールがスウィングプレーンの上を通過する空振りも増えます。

ちなみに体軸と運動時を分離させている投手の代表例は西口文也投手、ランディ・ジョンソン投手らです。プロ野球やメジャーリーグでも、本当に一部の投手しか身につけられない非常に高いレベルの技術です。

ではなぜ体軸と運動軸を分離させることができるのか?一言で片付けるならば、筋トレに頼っていないことが最大要素ではないでしょうか。山本由伸投手はほとんど筋トレはしません。ちなみに西口文也投手も現役時代はほとんど筋トレをしませんでした。

筋トレに頼らず、投げるのに必要な筋力と強さを投げる動作により鍛えているため、持っている筋肉のほとんどをピッチングフォームの中で活かせるようになります。

余分な重量がない分体を自在に動かすことができ、体軸と運動軸を分離させるという高い技術を身につけられるようになるわけです。もし山本投手が筋トレに頼った球威アップを目指していたならば、求心力ではなく遠心力で投げるピッチャーになってしまい、沢村賞レベルの投手になれたかどうかは誰にも分かりません。

そしてこの技術を身につけるためには、右投手の場合、骨盤を一塁側にスライドさせながらスピンさせるという技術が必須となります。この技術を身につけるためには股関節周りの強度・柔軟性・可動性が必須となり、これらの要素がどれか1つでも欠けてしまうと習得することはできません。ちなみに山本投手の股関節のコンディションはどれをとっても抜群です。

エースに相応しい態度を貫く山本由伸投手

2021年スワローズとの日本シリーズで、山本投手が登板した試合で味方がエラーをしてしまった場面がありました。このエラーがなければもしかしたらその試合の流れはオリックスバファローズに行っていたかもしれません。

このような大事な試合の局面で味方がエラーをしても、山本投手はガッカリした姿を一切見せませんでしたし、味方のエラーにイラつくような表情を見せることさえありませんでした。このような態度も西口文也投手と共通しています。

西口投手も味方のエラーに嫌な顔を見せることはしない投手でした。そのためライオンズナインは西口投手が登板する試合ではいつも「西口さんを勝たせよう!」と一丸となっていました。山本投手もおそらくチーム内では、そう思われているエースなのではないでしょうか。

山本由伸投手と伊藤智仁投手の相違点

フォームに関しての話をさらに付け加えるならば、肩甲骨の使い方がとても深くて素晴らしいと思います。この肩甲骨の使い方に関しては、少年野球でもどんどん真似していくべきだと思います。
(スポーツ科学を勉強されていない方が教えるのは難しいとは思いますが)

肩甲骨はフローティングといって、どの方向にも動かすことができる骨なんです。山本投手の場合は投球時に左右・前後・上下を満遍なく使っているように見えます。そして肩甲骨を使えていることにより、肩関節そのものの使用率を軽減させ、肩への負荷を減らせているようにも見えます。

肩甲骨が柔らかい投手の代表格と言えばなんと言っても伊藤智仁投手だと思うのですが、山本由伸投手と伊藤智仁投手の違いは体軸と運動軸の分離の有無にあります。伊藤智仁投手のフォームは、体軸と運動軸は分離されていません。

そのため求心力ではなく、遠心力を使ったピッチングフォームになっており、もともとルーズショルダー気味だった肩への負荷を軽減させることができず、伊藤智仁投手は肩痛肘痛に悩み続けていました。

一方2021年、現時点での山本由伸投手のフォームは求心力を使えているため、ローテーターカフという肩関節に4つあるインナーマッスルへの負荷が高くなるフォームにはなっておらず、よほどの投球過多や勤続疲労が出て来ない限りは、簡単に肩を痛めることはないのではないでしょうか。痛めたとしても軽症で済むと思います。

山本由伸投手のフォームを作り出した槍投げトレーニング

山本由伸投手はウェイトトレーニングは一切やらないそうなのですが、槍投げトレーニングは行なっているのだそうです。僕もプロコーチとして投手たちに、槍投げのような体の使い方でボールを投げるフォームの指導を2010年以降続けています。

実は槍投げトレーニングは、元プロ野球選手だった野球指導者の多くが肯定的には見ていないのですが、しかし僕のレッスンを受けた生徒さんたちの多くは、肩痛肘痛に悩まされることもなくなり、同時に球威球速のアップにも成功しています。

槍投げトレーニングは、ただ槍投げの動作を真似して投げれば良いというわけではないのですが、野球肩野球肘の予防や球速アップには非常に効果的なトレーニング法なんです。

ちなみに大谷翔平投手も、槍投げトレーニングではないのですが、槍投げトレーニングに近いトレーニングをファイターズ時代から続けています。

山本由伸投手の場合、下半身もやや槍投げ選手に近い使い方をしています。特に左膝による左太腿の動かし方ですね。普通の投手が左太腿を立てながら投げてしまうと制球力が低下してしまうのですが、運動軸とリリースポイントの幅が非常に狭い山本投手の場合、この動きにより制球力が低下しているということもありません。

並進運動中の左脚の使い方に関しては、マクシマム・インターナルローテーション・ストライディングといって、左股関節を外旋させるために、並進運動中に左股関節を内旋させる動作が入っています。これは田中将大投手にも共通する動作です。

この動作によりランディング付近での左股関節の外旋を深くし、その後の内旋動作のキレをアップさせてボディスピンを鋭くし、最速157km/hという球速に繋げています。このマクシマム・インターナルローテーション・ストライディングも、難易度としては非常に高いので、そう簡単に真似できるフォームではありません。

山本由伸投手のフォーム分析のまとめ

細かい部分を見出すととてもこのページには収め切れないわけですが、大まかな部分だけを見ていくと、山本由伸投手のフォームはだいたいこのような分析になってきます。

アーム式のようでアーム式ではなく、実際には非常に難易度の高い投げ方をしているのが山本由伸投手のフォームなんです。

「山本由伸がアーム式で沢村賞を獲ったのだから、アーム式は悪い投げ方ではない」と間違った認識をしている方も多いと思いますが、その場合は要注意です。実際、本当の意味でアーム式で投げたとしたら簡単に肩肘を痛めてしまうはずです。

山本投手のフォームはすぐにでも真似できそうで、実は真似することが非常に難しい超ハイレベルなメカニクスを持っています。もし山本由伸投手のフォームを真似してみたい場合は、まずは肩甲骨と股関節の使い方から真似するようにしましょう。

フォームの見た目そのままを真似しようとすれば、本当にアーム式で投げてしまう危険性もありますので、そのあたりは十分ご注意ください。

沢村賞を獲るほどの活躍を見せてくれた山本由伸投手のフォームには、沢村賞を獲れるだけのこれだけの理由があったわけなんです。山本投手には来季も沢村賞候補に挙がるような活躍を期待しましょう!