まだ世間的には正しく認知されていないイップス
今季からアスレティックスに移籍した藤浪晋太郎投手をイップスだと断定したメンタルトレーナーの阿部久美子先生や、その他野球関係者も多いようですが、これを言った方はイップスのメカニズムについてほとんどご存知ないと言えます。阿部先生にしてもメンタル面の専門家かもしれませんが、イップスの原因となる動作のメカニズムに関してはご存知ないのではないでしょうか?そこで僕はプロフェッショナルコーチとしてここで断言しますが、藤浪晋太郎投手はイップスではありません。
そもそもイップスとは何かと言うと、まったく投げたいところに投げることができず、キャッチボール相手もボールを捕ることができないような状態のことを言います。藤浪投手は確かに四球をたくさん出して試合を壊してしまうことがありますが、これはイップスではなく、ただの制球難です。
もし藤浪投手が本当にイップスだとすれば、ほとんどのボールがキャッチャーが捕球できないところに飛んでいってしまうはずです。しかし藤浪投手のボールのほとんどをキャッチャーは普通に捕球できていますので、これをイップスということはできません。
そしてイップスは野球をやめるまで治らないと信じている人も多いようですが、これも誤りです。どのように投げるとイップスの状態になるのかというのは、この10年くらいの研究ですでに多くが明らかになっています。そしてその原因動作を適切な方法で直すことにより、野球選手のイップスは治るものになってきました。
僕自身イップスに悩む選手をコーチングし、そのイップスをしっかりと治したことが多々あります。例えばある選手は高校時代からイップスに悩み、大学野球に進んでも治らず僕のコーチングを受けに来たのですが、初日にキャッチボールをすると、彼のボールは僕のキャッチャーミットがまったく届かないところにしか行きませんでした。これがイップスです。
藤浪晋太郎投手はイップスではなくフォームを崩しているだけ
上述した通り、藤浪晋太郎投手はイップスではありません。藤浪投手の場合、テイクバック、トップポジション、ボールリリースに再現性がないんです。分かりやすく言うと、常に微妙に違うフォームで投げてしまっているんです。ボールは、常に同じフォームで投げることによって常に同じところに投げられるようになります。
例えば外角と内角で投げ方を微妙に変えようとするピッチャーが多数いますが、これは制球難の原因になります。恐らくは藤浪投手もこれをやった経験、もしくはやらされた経験があるのではないでしょうか。藤浪投手の場合、内外角を投げ分けようとする際に、特にテイクバックからトップポジションにかけての動作が変わることが多いようです。
繰り返しますが、藤浪晋太郎投手はイップスではなく、ただフォームを崩しているだけです。藤浪投手はやはり、僕のようなコーディネート(動作調整)を行えるパーソナルコーチと契約すべきです。バイオメカニクスを理解していてそれを指導できるコーチであれば、藤浪投手の制球難をしっかりと直してあげられるはずです。
ちなみに藤浪投手はボールリリース前後で手首を背屈掌屈させる癖もあります。この動作のことを日本ではスナップスローだと勘違いされていることも多いのですが、ボールを投げるにあたり手首は絶対に曲げてはいけません。手首を使って投げてしまうと制球は絶対に安定しなくなりますし、そもそもボールの回転数が大幅に低下してしまいます。
Shintaro Fujinami, Wicked 89mph Splitter. 🤢 pic.twitter.com/XLfKAnm99L
— Rob Friedman (@PitchingNinja) April 8, 2023
スケール効果を克服できない藤浪投手と、克服している大谷投手・佐々木投手
藤浪晋太郎投手のフォームが安定しない主な原因の一つは、スケール効果にあります。スケール効果とは平たく言うと、高身長で手足が長くなるほど、その手足を上手く動かすことが難しくなる現象のことです。
そしてこのスケール効果は高身長の選手じゃなくても、中高生などで急に身長が伸びた選手にも一時的に見られます。このスケール効果を最小限に抑えて手足を思うように動かしていくためには、軸の使い方を改善する必要があります。特に197cmという高身長の藤浪投手の場合は。
藤浪投手は遠心力を使って投げるタイプの投手なのですが、しかしこれがフォームを崩す原因になっています。難しい話をすると投球時、体軸と運動軸は分離させて使うのが理想的です。これができているのが同じ高身長の大谷翔平投手や佐々木朗希投手です。
大谷投手と佐々木投手の場合、遠心力ではなく求心力を使ってボールを投げています。そのため体軸(背骨)と運動軸がしっかりと分離し、ボールリリースでは運動軸が体の右外に飛び出ています。そのため高身長で長い腕であっても遠心力や慣性モーメントに振り回されることなく、コンパクトにスローイングアームを振って投げることができています。その結果制球が非常に安定しています。
ちなみに同じ高身長でもダルビッシュ有投手の場合は少し特殊で、ダルビッシュ投手は高身長であるにも関わらず腕の長さと手の大きさが身長175cmの僕とまったく同じなんです。そのため求心力をそれほど意識しなくても、スローイングアームが遠心力に振り回されることがありません。
恐らく阪神タイガースの投手コーチたちは、体軸と運動軸に関しての理論をご存知ないのだと思います。だからこそこれだけ長期間指導してきても、藤浪投手のフォームを安定させることができませんでした。藤浪投手のテイクバックからトップポジションにかけての動作が安定していないことは上述しましたが、遠心力投法を求心力投法に根本的に変えていかない限り、いくらショートアームを取り入れたところで藤浪投手は今後もスケール効果に苦しみ続けるはずです。
ただ、それでも調子が良い時は良いピッチングをすることができるでしょう。しかしこの調子の良さというのも藤浪投手の場合は再現性が低く、たまたまその試合は良いところでテイクバックとトップポジションがはまっていたに過ぎません。そしてそれを藤浪投手自身投げながら自覚できていないため、その調子の良さを持続することができないんです。
ちなみに遠心力投法を求心力投法に変えるためには、大幅なフォーム改造は必要ありません。股関節と骨盤の使い方を専門家がコーディネートしてあげれば、ある程度の期間のトレーニングで改善することが可能です。藤浪投手の場合、それができるコーチとの出会いがなかったというのも不運と言えるのかもしれません。例えば大谷投手には中垣征一郎コーチ、佐々木投手は吉井理人コーチとの出会いがあったように。
藤浪晋太郎投手に会いに行って欲しいアメリカの名コーチと名投手
アスレティックスでは先発として数試合投げ、すでに先発失格の烙印を押されてしまっている藤浪晋太郎投手ですが、彼はここで終わるべきレベルの選手ではありません。彼は良いコーチとの出会いがあれば、必ず大化けし、スーパーエースになることだって可能です。
高校時代の藤浪投手のボールは、高校生ではなかなか打てないボールでした。そのため藤浪投手も打者を見下ろすようにして投げていました。そしてそれはプロ3年目くらいまでは続いていき、高卒でプロ入りし、最初の3年間は3年連続二桁勝利を挙げています。
しかしプロ入り4年目の2016年になると少し疲れが見えてきたり、肩痛にも見舞われ、プロの打者も十分に藤浪投手のボールにアジャストできるようになっていました。すると高校時代の勢いのままでは思うように勝てなくなり、藤浪投手も色々と考えるようになったのかもしれません。
そんな中起きたのが、時の金本知憲監督による161球の強制完投事件でした。その日の藤浪晋太郎投手はいつも以上に調子が悪く制球も乱していたわけですが、金本監督は懲罰的に藤浪投手に完投をさせました。しかし調子が悪い状態のフォームで投げ続けても、そこから試合中に突然フォームが良くなることはまず考えられません。この金本監督のやり方は、大切な選手を預かる指導者としては間違ったやり方です。
この場面での金本監督の義務は、調子が悪ければ早めに降板させて次の試合に向けて投手コーチにフォーム調整をさせたり、一度登板を飛ばしてミニキャンプを張らせるなどの行動です。決して懲罰的に感情に任せて完投させることではありません。しかし金本監督がそのような対応を取ってしまったことで、藤浪投手はさらにフォームを崩し、この年からほとんど活躍できなくなりました。2015年は一年で14勝を挙げた藤浪投手ですが、2016〜2022年では合計22勝しか挙げられていません。
金本監督は藤浪投手に懲罰を与え、阿部先生はイップスだと断定。そしてエモやんこと江本孟紀氏は走り込み不足だと言いました。しかし正解はそうではなく、桑田真澄氏が仰った通り単なる技術不足です。そしてその責任は、その技術をコーチングすることができなかったタイガースの監督・コーチにあったと言えます。だからこそ藤浪投手はチームのコーチだけに頼るのではなく、外部の野球科学を理解したプロフェッショナルコーチと契約すべきなんです。
もし藤浪晋太郎投手がスケール効果を克服するための技術を身につけられれば、藤浪投手は間違いなくスーパーエースへと変貌するはずです。ここで大切なのはイップスだと断定して上から無理矢理ふたを閉めてしまわないことです。上からふたをしてしまえば、藤浪投手自身「あぁ、俺はイップスだからダメなんだなぁ」というメンタルに陥ってしまいます。
ちなみにアメリカには、身長208cmのビッグユニットことランディ・ジョンソン投手の制球難を、遠心力投法から求心力投法に修正することにより大化けさせたトム・ハウスという名コーチがいます。最近はNFLの選手の指導を行うこともあるハウスコーチですが、藤浪投手は一度ハウスコーチに話を聞きに行っても良いかもしれませんね。
もしくは機会があれば、引退後は写真家・ドラマーとして活躍しているハウスコーチの教え子、ランディ・ジョンソン氏に会いにいっても良いかもしれません。同じようにスケール効果に悩んでいてそれを克服してスーパーエースになった人物ですから、藤浪投手にとって何かプラスになる助言をしてくれるはずです。ジョンソン氏とは一度日本でお会いしたことがあるのですが、とても気さくで人柄の良いビッグユニットでした。ですからきっと藤浪投手の相談も親身になって聞いてくれるはずです。
とにかく藤浪投手には決してこのまま終わってしまうのではなく、メジャーで二桁勝利を挙げて日本とアメリカの野球ファンを見返して欲しいですね!
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