結局根本的な熱中症対策を何もできない高野連
今年の夏の甲子園から、暑い日の試合では5回裏終了時に10分間クーリングタイムが設けられるようになりました。ちなみにクーリングタイムとは、5回が終わったら選手は全員ベンチ裏に下がり、そこにあるドリンクを飲んだり、冷たいタオルで体を冷やしたりできる時間のことです。
そしてクーリングタイム終了1分前から、選手はベンチ前でウォーミングアップを開始できるのだそうです。どうしてここは1分前限定にしたのかは僕には分かりませんが、きっとクーリングタイム中に一部の選手がベンチ前にいると、クーリングタイムをしていることをアピールできないためではないでしょうか。
このような新しいことに挑戦することは歓迎すべきですが、しかしこれは「白いスパイクを履いてもOK」問題同様、根本的な熱中症対策にはなっていません。スパイクが黒かろうが白かろうが、暑いものは暑いんです!
学生の夏休みに大会を行いたい、という事情以外で、何か8月に大会をしなければならない理由でもあるのでしょうか?高野連は頑なとして夏の甲子園を、秋の甲子園に変えようとはしません。
確かに夏休みじゃなければ、学校全体で甲子園球場まで応援しにいくことは難しいと思います。しかし実際にプレーをする選手たちの健康や命を考えれば、そんなこと他愛もないこととは言えないでしょうか?
それともプレーをする選手に命の危険を侵させてまで、甲子園にはブラバンの演奏やチアリーディングが必要なのでしょうか?少なくとも僕はプロコーチとしてそうは思いません。一番大事なのはプレーをする選手たちの健康であり、甲子園は常に選手ファーストで開催されるべきなのです。
天気予報の気温表記とグラウンドレベルの気温は別物!
クーリングタイムが導入された2023年夏の甲子園。大会初日の試合からすでに、クーリングタイム直後に選手が熱中症で足をつって倒れ込み担架で運ばれたり、そこまで行かなくとも足をつったり、足に違和感を感じたりして途中交代した選手が続出しています。
つまりクーリングタイムは熱中症対策として何の役にも立たなかったということです。ちなみに大会初日の兵庫県の気温は37度だったそうですが、この気温というのはあくまでも日陰で計測されたものです。天気予報の気温表示はすべてそうなのですが、これは日陰に温度計を置いて計測された数字です。
では陽を遮るものが何もないグラウンドではどうなってしまうのか?直射日光レベルだと、軽く50度を超えます。
上の写真は、数年前に真夏の野球場で計測したものです。朝10時の時点で直射日光レベルでは45度を超えており、この1〜2時間後、50度を超えていきました。ちなみに僕のデジタル温度計は55度までしか計測できないため、55度以上になるとエラー表示のみになります。そのため直射日光が実際にはどれだけ高温になったのかは正確に測ることはできませんでした。
一般の方は天気予報を見て、「今日の甲子園は37度かぁ、暑そうだなぁ」と考えると思うのですが、実際にはグラウンドレベルの気温は午前中でも軽く45度を超えて、時間帯によっては50度以上になります。球児たちは、そんな過酷な状況下でプレーさせられているんです。
トンチンカンだったクーリングタイムの導入
クーリングタイムは今大会でかなり注目されていた、高野連が自信を持って導入した熱中症対策だったわけですが、結局のところは大会初日からまったく役には立ちませんでした。
そもそも選手たちは攻撃中には水分補給をしたり、冷たいタオルを首に当てたりしていて、わざわざクーリングタイムを設けなくても、クーリングタイム中に行ってくださいと言われていることは普段からすべて行っています。つまり現場を知る人間から見ると、クーリングタイムは実にトンチンカンな熱中症対策だったわけです。
高野連がどうしても8月に甲子園を開催したいと言い張るのであれば、少なくとも炎天下での試合開始は避けるべきです。まず8時頃、暑くなる前に1試合やって、夕方とナイターで1試合ずつの一日3試合制が現実的だと思います。
もちろんそれだけだと、だいたい2週間で大会が終わることもなくなり、阪神タイガースとしては大変だと思いますが、その間は大阪ドームやほっともっとフィールドを使って貰えばいいと思いますし、そこは12球団で協力し合うべきだとも思います。
例えばプロ野球のオールスターなんてほとんどドームで行われるのですから、7月下旬じゃなくても8月上旬でも良いわけです。オールスター休みを8月上旬に持っていけば、少なくとも一週間くらいはタイガースも死のロードに悩まされることはなくなります。
とは言え夏の甲子園を一日3試合制にした場合、タイガースが甲子園を使えなくる期間が少し長くなるか、ベスト8以降は朝は甲子園、夜はタイガース戦という形で共有することになると思います。
炎天下での熱戦を美談にしてしまう日本人の間違った感覚
日本人は、炎天下で頑張る球児たちを美談として応援したいという気持ちがあるのだと思いますが、これが成り立ったのは20年前までです。現代では炎天下でのプレーは命に関わります。実際、毎年多数の人が熱中症で命を落としています。ちなみにアメリカでは以前、日本の夏の甲子園が「炎天下で高校生にプレーを強いる虐待」として報道されたことがありました。
もし日本人が心から球児を応援したいという気持ちを持っているのであれば、まずはやはり高校野球ファンが「炎天下の甲子園でなんて観戦できない!球児の健康を考えろ!」と声をあげて欲しいなと思います。何せ我々野球の専門家であるプロフェッショナルコーチたちがいくら意見をしても、高野連はまったく耳を貸してくれませんので。
高野連は非営利団体であるわけですが、しかし実際には利権がないわけではありません。例えば夏の甲子園大会を主催しているのは朝日新聞社であり、センバツを主催しているのは毎日新聞社です。もし高校野球を完全に非営利にしたいのであれば、甲子園大会は新聞社ではなく、高野連のみが主催者となるべきです。
しかしそれをやろうとしないから、高野連は何も満足に決めることができないし、何か一つ決める時でも数ヵ月〜数年かけて検討します。つまりいつでも新聞社に伺いを立てながらじゃなければ何も決められないのが高野連ということです。
そして高野連は天下り先にもなっていると言われていますので、やはり血の入れ替えは必要なのではないでしょうか。例えば野球という競技に非常に理解を示してくれていた鈴木大地前スポーツ庁長官などに高野連を託せば、間違いなく高校野球を選手ファーストの競技に変えてくれるはずです。
今後、甲子園大会で死者が出ないという保証はありません。選手はもちろん、関係者やスタンドのファンの中にさえ、熱中症による死者を出すことは許されません。それを確実なものにするためにも、やはり夏の甲子園は11〜16時台の試合は避けるべきだと僕は考えているわけです。
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