なぜ大人たちは子どもたちに「なぜ」と言わせない指導をするのか?!
僕はプロコーチとして様々なチームを見てきましたが、特に小中学生チームに多かったのが、選手たちに「なぜ」を言わせない指導者の存在です。これが高校野球や大学野球レベルになると、年代的にも選手自身である程度の理論武装をすることができます。そのため「なぜ」を言わせない指導はほぼ通用しなくなります。
しかし少年野球、学童野球、リトルリーグ、中学野球部、シニアリーグなどでは、選手に「なぜ」を言わせない指導が未だにまかり通っています。指導者自身が勝手に正しいと思い込んでいることを、子どもたちに頭ごなしに教え込むやり方です。これはまさに昭和の前時代的なやり方であって、スポーツ科学的には誤ったやり方であるとしか言えません。
ではなぜ指導者たちは「なぜ」を子どもたちに言わせないのか?その理由は簡単で、自分たちが最新の野球指導法をまったく勉強していないからです。だから子どもたちに「なぜ」と聞かれても答えられないわけです。だから「なぜ」を言わせない頭ごなしのやり方をするしかないんです。しかしこれは指導法としては最低のやり方です。
もちろん中には、子どもたちの疑問を丁寧に解決しようとしてくれ、スポーツ科学を独学されている指導者もいらっしゃいます。しかしそのような指導者は少年野球や中学野球ではレアな存在です。ほとんどいらっしゃらない、と言った方が正確です。
僕の個別レッスンを受けたことがある方であればご存知だと思いますが、僕のレッスンでは僕の方から選手にどんどん質問をし、考えさせるようにしています。ちなみに、もちろん質問する内容はレッスンで指導済みのことのみです。
レッスンを受けにきてくださるお子さんたちの99%は、自分から「なぜ」を伝えてくることはありません。色々な動作を指導していても、なぜその動作にすると良いのか、ということを、僕が指導する前に積極的に聞いてくる小中学生は1%いるかいないかという割合です。これもやはり、チームで「なぜ」が許されない頭ごなしの指導が行われている影響だと思われます。
なお、頭ごなしと言うとスパルタ的なイメージもありますが、笑顔で優しい口調だったとしても、子どもたちが「なぜ」と聞きにくい教え込み方は、これも頭ごなしであると言えます。
良い指導者と悪い指導者の割合は22:78
実は良いコーチというのは自ら教えにいくことはないんです。もちろん僕のレッスンを受けに来てくれた子には、教えるべきことは教えるわけですが、ですがコーチの最大の仕事は、とにかく選手を観察することです。選手の細かい動作の変化に咄嗟に気付けるようにしておくことです。これができないコーチは、プロだろうとアマだろうと選手を伸ばすことはできません。
僕のレッスンではこちらからたくさん質問をしますし、ノートにもたくさんのことを書いてもらいます。このノートというのがとても大切で、いくら僕がコーチとして素晴らしいことを指導したとしても、その話を聞いた数日後には記憶は薄れていってしまいます。すると何を教わったのかをすっかり忘れてしまい、同じことを何度もレッスンしなければいけない、というもったいない状況に陥ってしまいます。
そうならないように、僕は子どもたちにはとにかくこまめにノートを取るようにしてもらっています。そして正しく書けているかどうかも確認するようにしています。しっかりとノートに書いておけば、正しい動作の記憶が薄れてしまっても、そのノートを見ればまた正しい動作を思い出すことができます。聞いて、書いて、動いて、忘れて、ノートを見て、また動いて。この繰り返しを続けていけば、どんどん正しい動作を体が覚えていきます。
そして僕は、選手たちに伝えた言葉や指導内容をすべてメモしています。僕は記憶力はかなり良い部類ではありますが、それでも時間が経つと記憶が曖昧になることもあります。そんな時は「この選手にあの内容は伝えただろうか?」と思い返し、デジタルでメモしているノートに検索をかけます。すると、何月何日のレッスンで伝えたということが一瞬で分かるわけです。逆にまだ伝えていなければ、検索結果が0件になります。
僕自身もこうしてすべてメモしていくことで、自分の言葉とレッスン内容に責任を持つようにしています。ですが上述した頭ごなしの指導者の場合、「同じことを何回も言わせるなよ!」と言いつつも、実はそれは他の選手に言ったこと、というケースが多々あります。これは少年野球や中学野球だけではなく、一般社会でもきっと同じですよね。そういう上司、周りにいたりしませんか?
でもそんな時、「聞いた記憶がありません」なんて言ってしまうと今度は逆ギレして、「お前が覚えてないだけだ!」と言ってきたりするわけです。もうこれはまさに最悪の部類の野球指導者ですね。もちろん最悪な指導者は全体を見渡せば一部であるわけですが、それでも全国的に見ると数え切れないほどいる、という人数になります。
皆さんはユダヤの法則をご存知ですか?これは、世の中は常に22:78の割合で成り立っている、という考え方です。良い指導者が22人いたとしたら、無能な指導者が78%いるということです。そして良い指導者22人の22%にあたる約4.8人が素晴らしい指導者である可能性があり、22人の中の78%にあたる約17.1人が普通のいい指導者と考えることができます。
逆に78人の無能な指導者の中の78%にあたる約60.8人はただ無能なだけの指導者で、78人の中の22%にあたる約17.1人は最悪の指導者である可能性があります。このように常に22:78の割合で掘り下げていくと、世の中の縮図を作ることができます。
中学野球で肩肘を壊されながらも、神宮デビューした僕の教え子
無能な指導者は、とにかく選手に意見を求めることはしません。例えば僕の生徒さんの中に、東京の名門シニアリーグでピッチャーをやっている選手がいて、肩も肘も痛めてしまったため、それを治すために僕の動作改善を受けに来た中学生がいました。
その中学生は、シニアリーグに入ってすぐ監督にフォームを直されて肩肘の痛みを訴えるようになりました。その時の監督の言葉は「走り込みが足りないからすぐ肩肘が痛くなるんだ」というものだったそうです。野球の指導者をしているくせに、本当にどれだけ野球の勉強をするのが嫌いなのでしょうか?この監督は。
約6ヵ月間のドクターストップ期間にレッスンを受けに来てくれたのですが、6ヵ月かけて本当に素晴らしいフォームに改善することができました。肩肘は強く投げてもまったく痛まなくなり、最速110km/hだったストレートも、レッスン後は125km/hと、わずか6ヵ月のレッスンで球速が15km/hもアップしました。
そして肩肘も治り、球速も上がり、満を持してチームに復帰したのですが、監督からかけられた言葉は「俺が教えたフォームがかなり崩れている」、だったそうです。そして「俺の言う通りに投げられないなら試合では使えない」と言われたそうです。これは脅迫です。
この中学生選手は僕のレッスンを受けた後、このような形で再度監督に肩肘を壊すためのフォームに戻されてしまいました。そしてレッスン修了から約1年後、この中学生はまた肩肘を痛めて僕の野球塾に戻ってきました。僕と親御さんはそこで初めて、彼が上述した脅迫めいたことを言われ、監督に従うしかなかったことを知りました。
この中学生にとっては中学最後の夏目前の出来事でした。このようなこともあり、親御さんの方針でこの子はそのシニアチームを退部し、僕のレッスンだけを受けることにしました。チームの移籍も考えたようですが、しかしこれは日本ではとても難しいんです。日本の小中学生チームは横のつながりは本当に意地悪で、近隣チームでの退部情報はすぐにシェアされ、近隣チームを辞めた子を受け入れてくれるケースはほとんどないんです。
このような日本特有の事情もあり、親御さんは息子さんを退部させることにしました。そしてそこから高校までの間、みっちり僕のレッスンを受け、ピッチングフォームもバッティングフォームも素晴らしいフォームになりました。その甲斐もあり、彼は高校3年間で一度も怪我をすることなく高校野球を全うしました。残念ながら甲子園はあと1勝というところで届かなかったのですが、しかし大学では無事神宮デビューを果たすことができました。
ちなみにこの子に肩肘を痛めるためのフォームを頭ごなしに教え込んだ監督は、今も現役の監督だそうです。このように指導者に恵まれずに怪我に苦しんだ小中学生は、本当に数え切れないほどいます。そして子どもたちが野球から離れる理由の1位・2位は常に怪我と人間関係です。
僕の野球塾でレッスンを重ね、最終的に神宮デビューしたこの子は、中学時代は怪我にも泣かされ、指導者との人間関係にも恵まれない状況でした。でも彼は野球が好きだったのでそこで諦めることなく頑張ってトレーニングを続けました。その結果高校・大学では良い指導者に恵まれたようです。そして高校でも大学でも「本当に良いフォームで投げている」と褒められたそうです。ちなみに大学の監督さんは、僕もよく知る仲の監督さんでした。彼が監督に僕からフォームを教わったことを告げると、「どうりで良いフォームなわけだ」と言われたそうです。
そして高校の監督も、大学の監督も、疑問に思ったことはいつでも聞くことができ、質問をすると一緒に真剣に考えてくれたそうです。これこそが素晴らしい指導者のあるべき姿です。小中学生のチームにも、本当にこのような指導者たちに増えて欲しいなというのが、プロフェッショナルコーチである僕の切なる願いです。
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