村上宗隆選手のフォーム分析〜高い打率で本塁打を量産できる理由

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ページ更新日:2022年11月5日

右投げ左打ちという弱点をまったく苦にしていない村上宗隆選手

村上宗隆

東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手が55本目のホームランを打ちました。このニュースはアメリカでも報道され、MLBのホームページにも村上選手は王貞治選手と並んで紹介されていました。

王貞治選手はMLBでもレジェンドとして扱われており、王選手をリスペクトしているメジャーリーガーは大勢います。その王選手と並んで紹介されたということは、村上選手も同様にリスペクトされているということで、今後海外FAやポスティングの行方はアメリカでも注目されていくのでしょう。

それにしても村上選手は本当に凄いの一言に尽きますね。数字はもちろんのこと、バッティングフォームも本当に素晴らしく、55本塁打という数字もまったく不思議ではないほどです。入団当初は右投げ左打ちというスラッガーとしての弱点も懸念されましたが、それを物ともしない成績を残し続けています。

現代野球では体重移動をするウェイトシフトではなく、体重移動には頼らないステイバックという技術が主流です。プロで安定した成績を残し続ける打者のほとんどはステイバック打法を取り入れています。村上選手ももちろんステイバックで打っており、僕自身もレッスンではステイバックの技術を選手たちに伝え続けています。

ウェイトシフトの場合メインハンドはボトムハンド(左打者にとっての右手)になり、ステイバックの場合はそれがトップハンド(左打者にとっての左手)になります。そのため、右投げ左打ちだとメインハンドが非利き手になってしまい、それが弱点となるケースが多いんです。

例えばメジャーリーグ時代の松井秀喜選手や、ホームランの増加を目指した際の栗山巧選手らは、まさに右投げ左打ちで利き手をメインハンドとして使うことができず、その弱点に長年苦労し続けていました。しかし村上選手の場合、それが弱点になっているように見えないのです。

まるでメジャーリーグのスーパースターであるブライス・ハーパー選手のように、右投げ左打ちからホームランを量産しています。

ちなみにハーパー選手の場合は、利き手ではないトップハンドを上手く使いこなすため、試合前には入念にトップハンドによるシングルハンドティーを行っています。このトレーニングにより利き手ではないトップハンドを強化していったのですが、村上選手ももしかしたらそのようなトレーニングを怠っていないのではないでしょうか。そうじゃなければ、このような素晴らしい成績を挙げることなどできません。

村上宗隆選手と山川穂高選手を比較

村上選手はステイバックという技術で打っているわけですが、これは下半身主導型と体幹主導型に分けることができ、村上選手の場合は大谷翔平選手同様に体幹主導型のステイバックとなります。つまり、メジャーリーグに移籍してもしっかりと活躍できるであろうタイプだと言えます。

村上選手のスウィングを観察すると、軸がブレることがほとんどありません。軸のスピンを安定させる役割を持っているのが体幹になるわけですが、村上選手の体幹の筋力とその使い方は本当に一流中の一流だと言えます。

体幹は、ただ鍛えるだけではダメなのです。しっかりと鍛え、その体幹を使いこなしていくことが重要です。それができているのが村上選手であり、大谷選手であるわけです。村上選手は、今すぐメジャーでプレーしたとしても十分活躍することができるはずです。

そしてさらに、村上選手のスウィングはヘッドが下がることもほとんどありません。これも体幹力によるものなのですが、膝下のボールをスタンドインさせた際でもヘッドがまったく下がっておらず、軸とバットがきれいに直角になっています。これは基本中の基本となるのですが、プロ野球選手でもこれができていない選手は大勢います。

例えば同じホームランバッターである埼玉西武ライオンズの山川穂高選手は、低めのボールをスタンドインさせた時の多くのスウィングでヘッドが軸に対して下がっています。これが高い打率を残せる村上選手と、打率を残せない山川選手との最大の違いだと言えます。

山川選手の場合はどちらかと言えばウェイトシフトで、時々ステイバックのような形になっている時もあり、野球動作の専門家である僕の目には上半身主導型のスウィングとして映っています。そのため当たれば飛ぶけど、フルシーズンで高い打率を残せたことは一度もありません。

一方の村上選手は基本に忠実に、どのコースのボールに対してもヘッドを下げずに打っているため、ホームランにならなくてもクリーンヒットを増やすことができます。そのためホームランを量産しながらも、高い打率をキープし続けています。

投手からすると、村上選手のようなステイバックでヘッドが下がってこない打者というのは、タイミングを狂わすのが非常に難しいんです。緩急を使っても頭を前に出させることができないため、ホームランにならなければラッキーという考え方になったり、厳しいところを狙いすぎて四球を出したり、逆球になることも多くなります。

逆に山川選手のように頭が移動しやすく、低めだとヘッドが下がりやすい打者は緩急で崩しやすくなります。ピッチャーが最大限集中して投げてくる満塁の場面などでは、山川選手のようなタイプは泳がされやすくなります。

事実、55号を放った今季ここまでの数字を見てみると、村上選手は14打席の満塁時の打席で打率.429、本塁打4、打点21という圧倒的な数字を残しています。一方の山川選手の満塁時の成績はここまで7打席で0安打の打率.000という数字です。4番打者がこれだけ満塁機に打てないというのが、ホームランキングがいながらもライオンズが抜け出せない要因になっているのではないでしょうか。

どんな時でもしっかりと股関節を使って打っている村上宗隆選手

村上選手のもう一つの特徴として、スタンスの広さが挙げられます。ライオンズの森友哉捕手ほどの広さではありませんが、普通の幅と比べるとかなり広めのスタンスで打っています。これは下半身を徹底的に鍛えているからこそ可能なフォームです。

スタンスを広げると重心を低くして打てるため、低めのボールに対してもしっかりとバットを振っていくことができます。そのため村上選手は膝元の低めのボールをホームランにしていくことも多いわけです。

並の打者であればもし村上選手と同じくらいスタンスを広げたら、スウィングは間違いなく弱くなってしまうでしょう。しかし村上選手の場合は人並み以上のスウィング速度で打っています。

そしてそれを可能にしているのがバックヒップターニングの鋭さです。僕はレッスンではW90°という言葉を使って指導している動作なのですが、つまりは軸脚側の股関節を鋭く回すという動作のことです。

ただし村上選手の場合は体幹主導のため、まず体幹が回ってからそのあとでバックヒップターニングが追いついていく形になっています。これは大谷翔平選手にも共通する動きなのですが、体幹力によって鋭く軸をスピンさせていき、それをさらにバックヒップターニングで加速させていくというレベルの高い技術です。

言葉で説明するととても簡単そうなのですが、高校生や大学生、プロ野球選手でも並レベルの打者は真似すべきではありません。ましてや小中学生が真似をすれば確実に手打ちになってしまいます。

体幹主導で振るためには体幹を鍛え抜くことはもちろんのこと、その体幹を使いこなすための技術も身につける必要があり、これはアマチュアレベルではなかなかできるものではありません。

例えば同じ年齢で同じ左打者である清宮幸太郎選手が打っているフォームを観察すると、インパクトで軸足足部が三塁ベースまでしか向いていないことがほとんどです。これはスポーツ選手にとって最も重要な股関節を使えていないということです。もちろん投手のボールに崩されて使えなくこともあるわけですが、清宮選手の場合は高校時代から変わらず、このような股関節を使えていないスウィングも現在も続けています。

一方の村上宗隆選手の場合は、インパクトでは軸足がしっかりと投手の方を向いており、股関節を適切に使えていることがよく分かります。そして投手のボールにやや崩された時でもこの軸足が投手向きまで回せていることが多いんです。

股関節というのは下半身と上半身のつなぎ目となる関節で、そして腸腰筋群が下半身と上半身をつないでいる筋肉群です。村上選手の場合、この股関節と腸腰筋群をしっかりと鍛えて使いこなせているため、どんなボールに対しても自分自身のスウィングを崩さずに振っていくことができるんです。

逆に山川選手や清宮選手の場合、投球に合わせて自分のスウィングが変わっていく打ち方をしてしまっているため、当たれば飛ぶけど打率はなかなか上がらない、という結果になっています。もし山川選手や清宮選手がバックヒップターニングを身につけていけば、ホームランを量産しながらも高い打率を残せるようになるかもしれませんね。

テイクバックの作り方もお手本となる村上宗隆選手

さらに話を続けると、村上選手はテイクバックも非常に良い形になっていますね。まずテイクバックを始動させるタイミングは右足を地面から浮かせたタイミングと一致しており、このタイミングでテイクバックを始動させることにより、タイミングを合わせるための間を持てるようになります。

さらには右足裏を使い、しっかりと下半身でタイミングを測っているようにも見え、このタッピング(別名ステップオン)という技術は、首位打者を獲得している打者のほとんどに見られるタイミングを取るための重要動作です。これも腕でタイミングを測り、下半身は静から動の動作になっている山川選手との違いです。

そしてテイクバックの引き方を見ても、村上選手はグリップを投手に見せ続けてテイクバックをしています。これはラギングバック(割れ)を使ってスウィング速度を速くするためには不可欠の動作となるのですが、多くの選手はプロであってもテイクバックでグリップを頭に隠してしまっています。

グリップを頭に隠してしまうと、グリップと頭の距離を遠ざけることができなくなり、ラギングバックを使えなくなり、腕力に頼ったスウィングになりがちです。プロでもそのような打者は大勢いますが、そのような打者が3割打てることはほとんどありません。

腰を怪我するリスクが高い村上宗隆選手のフォーム

ここまで村上選手の技術を賞賛してきたわけですが、僕が見る限り村上選手にもウィークポイントがあります。それは、将来的に腰を怪我しやすそうなフォロースルーをしているという点です。

村上選手は両手でバットを持ったままフォロースルーを振り抜いていくのですが、この形は腰を怪我しやすくなります。もちろん村上選手は体幹をしっかりと鍛えており、股関節も使えているため、今すぐに怪我をするということはないでしょう。

しかしこの形による強烈なスウィングを5年、10年と続けていれば、腰にかかる負荷は蓄積されていくはずです。最悪の場合、中高生の野球選手に非常に多い腰椎分離症になってしまうこともあるでしょう。

この強烈なスウィングによる腰痛を予防するためには、グリップが右耳まで行ったタイミングでトップハンドを離していくと、腰にかかる負荷を軽減させることができます。

アマチュア野球では「両手で持って振り抜きなさい」と教え込まれることも多いわけですが、しかし腰痛を防ぐためにはこの指導はマイナスにしかなりません。

もしすっぽ抜けないように子どもたちに最後までバットを両手で持たせているのであれば、バットを短く持たせるようなことはさせず、ノブを使ってバットがすっぽ抜けないように指導していくべきです。

村上選手の場合、腰に負荷のかかりやすいスウィングを今後マイナーチェンジしていければ、大きな怪我をすることなくずっとホームランを打ち続けていけるはずです。

暗い時代に光を灯し続ける村上宗隆選手

今まで55本塁打を記録しているのは王貞治選手、アレックス・カブレラ選手、タフィ・ローズ選手で、ウラディミール・バレンティン選手が60本打っています。

王選手以外はみな、体格がまったく違う外国人打者ばかりでした。しかしここに来て、王選手以来初めて日本人選手が55本塁打に到達したことは、プロ野球ファンとしては本当に嬉しいことです。

僕は仕事柄メジャーリーグや、アメリカのマイナーリーグの試合もよく観ますし、大好きなのですが、やはり日本プロ野球の記録は日本人選手によって作ってもらいたいと思っていました。

このコラムを書いている時点でスワローズの残り試合は15試合。日本記録は60本ですが、村上選手にはぜひあと6本打ってもらいたいですね!

残り試合で、村上選手の本塁打数と打点を抜ける選手は事実上存在しません。そして打率に関しても2位の選手に2分の差を付けています。つまり、残り試合で村上選手がよほどのスランプにでもならない限り、三冠王は確定ということになります。

そして何よりも、コロナ禍に苦しみながらも首位を独走し続けているチームにおいて、これだけの数字を残している点は特筆すべきです。苦しい時でもチームを勝たせらる打者、それこそが真の四番の姿です。

村上選手はまさに、今後球史に深く名を刻み込む選手になっていきます。コロナ禍や戦争、インフレなどで暗いニュースが続いている状況で、村上選手はまさに日本人に希望を与えてくれています。村上選手はまさに、スーパースターと呼ぶに相応しい選手です。

コラム筆者:カズコーチ(野球動作指導のプロ/2010年〜)
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