「ピッチングモーション」と一致するもの

ボールを投げると肘が痛くなって病院に行くと、「野球肘」だと診断された。こんな選手は年齢問わず多いはず。野球肘というのは、基本的には悪いピッチングモーションでボールを投げるために引き起こされる症状です。一部勘違いされやすいのは、11歳くらいの男女に遺伝性による一時的な肘痛が起こりますが、これは無理をせず放っておけば自然と治るため野球肘ではありません。野球肘とは、あくまでも投球作業により肘関節に引き起こされる異常のことを言います。

ひとえに野球肘と言っても、症状は1つではありません。肘関節は内側(内側上顆、滑車)、外側(上腕骨小頭、橈骨頭)、後側(肘頭)の3つに分けることができます。この中でも野球肘と呼ばれる症状で最も多いのは内側上顆の異常になるのですが、内・外・後のどこに異常があるのかを正確に知る必要があります。

例えば病院のレントゲンも、1方向や2方向から撮影するだけでは正確に患部を知ることはできません。最低でも内・外・後の3ヵ所をしっかり調べる必要があります。特に後側を見逃しがちになることが多いのですが、この後側の異常に関してはお医者さんも気づくようになったのはここ数年のことだそうです。

つまり肘の内側にも外側にも異常がないけどボールを投げると肘が痛む場合、後側に異常がある可能性があります。しかしこの可能性は野球肘全体の3%程度でしかないため、本当に野球肘を勉強されているお医者さんでないと、この異常に気付かないというケースも稀に出てきます。野球肘で最も多いのが内側の異常で、最も有名なのがネズミと呼ばれる外側の異常。この2つに気をとられ過ぎてしまうと、野球肘に精通していない場合、後側の異常を見落としてしまうというわけです。

野球肘は、怪我ではありません。怪我というのは例えば、フェンスにぶつかって骨折をしたり、ベースを踏み外して足首を捻挫したりというアクシデントにより引き起こされたものを怪我を呼びます。野球肘の原因のほとんどは悪い形での投げ方。つまり良い投げ方をすれば防げるのが野球肘であり、これは怪我ではなく、故障と呼ぶわけです。

野球肘はある意味では家電製品と同じなのです。家電製品は説明書に書かれた正しい使い方をして、きれいにするなどのメンテナンスを小まめにしてあげることで、より長持ちさせることができます。それこそ同じ洗濯機を30年間使い続けることも可能になります。しかし同じ洗濯機でも、説明書に書かれていること以外の誤った使い方をしてしまえば、買って数ヵ月で壊れてしまうこともあります。野球肘も同じです。ボールを投げるための正しいモーションで投球をし、投げ終わった後はしっかりケアをしてあげることで、野球肘という症状を確実に防ぐことができるのです。野球肘は、指導者に正しい見識があれば撲滅できると僕は考えています。

以前の記事で、投球時にピッチャーズプレートは軸足(靴を履いている部位)で蹴らない方が良いと書きました。では、ステップ脚を振り下ろしたあとの軸脚(足全体)はどうすれば良いのでしょうか?これに関してはいろいろな意見が言われています。「蹴った方が良い」と指導するコーチもいれば、「自然に内旋するから特に意識する必要はない」と指導するコーチもいます。理論というのはたくさんあります。要は、どの理論を自分が信じ、その理論が自分に合っているかどうかが大切というわけです。

軸脚に関しての僕の理論はこうです。「意識しない程度に内旋させる」ことです。どんな理論であっても、それを実戦の中で意識しているようでは効果はありません。理論は、意識しないでも実践できている状態が必要です。そのためあえて「意識しない程度に」と付け加えました。

そもそも軸脚の内旋とは、軸足のつま先が反対側の足に向いていくように股関節を内側に絞る動作のことです。この動作がピッチングにどのような好影響を与えるかと言いますと、まず軸脚が内旋するそのベクトルは、スローイングアームのベクトルと同方向になります。つまり軸足を内旋させることで、下半身から竜巻のように回転エネルギーを上へ上へと繋げて行くことが可能になります。これは先日書いたインターアクションフォースということになります。これが1つ目のメリット。

軸脚を内旋させるともう1つメリットが生まれます。それは「連合反応」です。連合反応とは、身体のある部位に刺激が与えられると、その部位とは別の部位にも連合して反応が起こる生理反応のことです。例えば100kgのバーベルを持ち上げようとする際、力が入るのは持ち上げる腕だけではなく、顎にも力が入り歯を食いしばったりしますよね?実際は歯を食いしばってもバーベルは持ち上がりません。でも腕に力を入れることで、顎関節にも反応して力みが生まれるというわけです。

軸脚を内旋させることで連合反応が起き、ステップ脚も内旋するようになります。ステップ脚に内旋が起こるとどうなるかと言うと、ステップして着地させたステップ脚の膝が外側に開かなくなり、同時にグラブ側の肩も開きにくくなります。するとボールは打者から見えにくくなるばかりか、ボールに切れも生まれるようになります。

このように、軸脚を内旋させると大きく2つのメリットがあると僕は考えています。

しかし軸足でプレートを蹴ってしまうと、軸足が内旋しにくくなり、しかも蹴ったことにより身体全体のベクトルの向きにずれが生じてしまいます。するとステップ脚の膝も開きやすくなり、ボールは見極められやすくなり、制球も失ってしまいます。この状態では、スライダーはすべて外角に流れてしまい、バッターが手を出してくれることもなくなるでしょう。

投球時に上手く軸足を内旋できているかは、軸足の靴紐を見れば分かります。靴紐にも土が付いているようなら、上手く内旋できている可能性が高いでしょう。次回の練習を終えた後、ぜひ靴紐に土が付いているかどうかをチェックしてみてください。内旋した足の甲が地面を向き、クリーツが上を向いているようなら、靴紐に土が付くようになります。

野球選手の肩痛はなぜ起こるのでしょうか?「投げ方が悪いから」と言ってしまえば元も子もないのですが、それを含め、やはり肩痛を繰り返し起こす選手はボールを投げるための理論を知りません。理論を知り、自分の身体に合った正しい投げ方をすれば、野球肩を回避することは十分可能です。

「自分の身体に合った投げ方」と書きましたが、ここが重要です。ピッチャーは身長によって投げ方を変えるのが、正しいピッチングモーションの作り方です。つまりまず考えなければならないのは、背が高いか高くないかという点です。僕の経験上その境目は、185cm前後だと考えています。

180cm以上で185cmを上回る身長の投手は、背が高いと分類します。そして185cm以下で180cmを下回る選手を背が高くないと分類します。ここでは背が高くない選手をAタイプ、背が高い選手をBタイプとして説明をしていきたいと思います。

まずAタイプの選手の場合、身長がそれほど高くはないということで、手足も必要以上には長くありません。ですので投球時、投げる手がそれほど遠回りしないので、肩に必要以上の遠心力が掛かることがありません。そのため横回転エネルギーでボールを投げることができるというわけです。横回転とは背骨(体幹)を軸にして、その軸回転を使う投げ方です。

一方Bタイプの長身投手の場合、身長に比例して手足も長くなります。長い手を使ってボールを投げると、当然それだけ大きな遠心力が掛かってしまいます。ボールを投げる際に生じる遠心力は、肩関節を引き離そうとするエネルギーが働きます。そのため長身投手の場合、Aタイプの投手のように横回転軸でボールを投げると、ローテーターカフに大きなストレスがかかり、肩痛を引き起こしてしまいます。

それを防ぐために、Bタイプの投手は縦回転軸で投げるのです。分かりやすく説明をすると、柔道の背負い投げのように、身体を前屈させることによって得られるエネルギーで投げる投げ方です。いわゆる真上から腕を振り下ろすような投げ方ですね。この投げ方の場合、横回転軸で投げるよりも腕にかかる遠心力は小さくてすみます。

上記の内容を踏まえると、やはり自分の身体に合った投げ方をしていない投手が非常に多いということが分かります。例えば190cmを超える選手がサイドスローに転向してみたり、子どもを含めて身体の小さな選手が真上から大きな腕の振りで投げていたり。選手個々の体格に合わない投げ方をすれば、当然故障のリスクは高まります。

例えば長身選手がコントロールに苦しみ、オーバーハンドスローからサイドハンドスローに変えることを、僕は良いとは思いません。その選手がコントロールに苦しむのはオーバーハンドスローのせいではなく、その投手のピッチングモーションに欠陥があるためです。その欠陥に気付かずに、まるで逃げるようにしてサイドに転向したとしても、その投手が大成するとは考えられません。

例えば181cmというどっちづかずの身長であった巨人の斎藤雅樹投手。斎藤投手は故藤田元司監督のアドバイスでオーバースローからサイドスローに転向し、90年代を代表する偉大な投手へと変身することができました。これなどは、指導者である藤田監督が斎藤投手の体格をよく理解し、それを活かすことができた好例です。

昨年だったでしょうか、ホークスの新垣投手がオーバースローからサイドスローに転向するというニュースが報じられました。今現在サイドなのかは分かりませんが、しかし189cmの新垣投手がサイドに転向すれば、それは体格に合わない投げ方ということになり、再び肩痛を悪化させてしまうことになるでしょう。新垣投手の場合はサイドに転向することよりもまずは、なぜオーバースローでコントロールが悪いのかという理由を知る必要があります。その理由を知ることができれば、制球難は克服できたはずなのです。

サイドスローにすれば制球が良くなると考えている選手は多いようですが、しかしそれは迷信です。サイドでもコントロールの悪い投手は悪いのです。自分の身体に合った正しい投げ方さえできていれば、オーバースローでもサイドスローでも、制球力は必ず上がります。ちなみに僕は近い将来、新垣投手のようなトッププロである悩める投手をサポートし、復活させてあげることを1つの目標にしています。

野球選手の肘の痛みのことを総して「野球肘」と呼びますが、野球肘にも種類はいろいろあります。例えば患部だけを見ていっても関節、骨、筋肉、靭帯といくつもあります。まずは、自分がなぜ肘が痛いのか?肘のどこが痛いのか?ということを正確に知る必要があります。そしてそのためにはやはり、早めに病院に行ってください。もしあなたが今後も本気で野球を続けたいと思うのなら、インターネットや本で得た知識だけで治そうとは絶対にしないでください。

しかし、病院に行っても特別異常が見つからないケースもあります。そういう場合に確認して欲しいのですが、見てもらった先生は投球障害をよく知る先生ですか?そして痛い方の肘だけではなく、痛くない方の肘もレントゲン撮影してくれましたか?さらには肘をいろいろな角度から撮影してくれましたか?もしこれらのどれかでも欠けていたのなら、セカンドオピニオンを受けるべきです。

セカンドオピニオンとは、別のお医者さんにも相談してみるということです。以前はあちこちの病院で診てもらうことをドクターショッピングなどと呼んでいましたが、今はセカンドオピニオンは、患者の当然の権利です。

一度見てもらって異常が見つからない場合、その先生に「別の先生にも念のため診てもらいたい」と相談し、投球障害を得意分野とする先生を紹介してもらいましょう。もしその相談に対してあまりいい顔をしてくれない先生の場合、治療を気持ち良く進めるためにも、早々に別のお医者さんを探しましょう。診てくれる先生を信頼できないようでは、治るものも治らなくなってしまいます。

痛みには、大きく分けて2種類あります。ボールを投げられる程度の痛みと、日常生活にも支障をきたす痛みです。前者の場合は、コーチングを受けてピッチングモーションを改善していただくことで、痛みが消える可能性もあります。しかし後者の場合は、早急にお医者さんに相談してください。日常生活にも支障をきたす痛みの場合、まずはその痛みを軽減させる必要があります。

実はコーチングの相談を受けていて、後者である方から相談を受けることも少なくないのですが、そういう場合僕は、必ずお医者さんに行くように勧めています。そして痛みがなくなってからコーチングを受けて欲しいと伝えています。

大切なことは、痛みを感じたら絶対にムリはしないことです。痛みがある内はボールを投げることはもちろん、トレーニングも控えるべきです。そしてさらに付け加えるのなら、痛みがある状態では筋力強化を伴うリハビリを始めようとはしないことです。痛みがある状態での筋力強化を伴うリハビリは、肘痛にしろ肩痛にしろ、それは更なる酷使になりかねません。ですので痛みを感じたら、まずはその痛みをなくすことに集中してください。痛みがなくなるまでは、痛みを取り除くためのリハビリだけに集中しましょう。焦りは何よりも禁物です。

ピッチャーズプレートを蹴ってしまうと球質が低下する?!

「投げる時にプレートを強く蹴りなさい」と指導されるコーチがいらっしゃいます。これが正解なのか不正解なのは受け取る側である選手の問題です。しかし僕がオンラインでレッスンをする際は、ピッチャーズプレートは蹴らないように指導しています。

なぜ僕が蹴らないように指導をするかと言うと、プレートを蹴る動作を入れてしまうと軸にブレが生じ、制球力や球質が低下しやすくなり、さらには肩への負荷が大きくなってしまう場合があるためです。今回のコラムでは、このあたりのお話について解説をしていきたいと思います。

プレートを蹴ってエネルギーを作っても実は使い切れない?!

以前のコラムで、腹筋が弱いことで、下半身で生み出したエネルギーが肩に集中し、肩を故障してしまう可能性があるということを書きました。今回の話も、それに似たお話です。

必要以上のエネルギーを投球動作の中で生み出してしまうと、どうしても使い切れないエネルギーが出てきてしまいます。そのエネルギーが肩に集中してしまうことで、肩はエネルギー過多状態となってしまい、そのストレスによってローテーターカフ(肩にある4つのインナーマッスル)の故障を招いてしまいます。ちなみにフォロースルーや投球後に身体がグラブ手側に流れる動きは、多少余ってしまったエネルギーを開放するための動きでもあります。

実際にはプレートを蹴ることができる段差などない?!

そもそもプレートを蹴らなくても、強いボールを投げることは可能です。プロ野球のエース級のピッチャーの中で、プレートを蹴っているピッチャーはほとんどいません。逆にプレートを蹴っているピッチャーを探すと、だいたいが先発として安定した結果が出せずにいる、制球力に乏しい豪腕タイプと呼ばれるピッチャーです。そしてそういうピッチャーの多くは、大きな肩や肘の故障を経験しています。

そしてもう一つ付け加えておくのなら、通常ピッチャーズプレートと土の部分には蹴ることができるような段差はありません。草野球のすぐに掘れてしまうような、しっかりと作られていないマウンドならまだしも、公式戦が行われるような野球場では実際にプレートを蹴ることができる段差はないはずです。

長い目で見るならば、プレートは蹴らずに済む良いフォームを身につけよう

プレートを蹴ってさらなる反力エネルギーを生み出してしまうと、それはボールを投げる作業だけでは使い切れないのです。大人でもそれにより肩を壊したり、制球力を乱してしまうのですから、子どもならなおさらです。さらにプレートを蹴る動作により、軸に大きなブレが生じてしまいます。このブレが生じてしまうと、肩に負荷がかかったり、制球が乱れてしまったり、ボールの回転の質が低下してしまいます。

プレートを蹴ると、その場限りの球速アップは得られるかもしれません。しかし長い目で見るならば、プレートを蹴らなくても、もっと自然な形で投球に対するエネルギーを生み出せる、選手個々の体格・体形に合ったピッチングモーションを作ることができるのです。

トレーニングだけではアップしない球速

球速や球威がなかなかアップしなくて悩んでいるピッチャーは、プロ・アマ問わず多いと思います。そして球威を上げるために上半身のトレーニングを一生懸命やっているピッチャーたち、走り込みを一生懸命続けるピッチャーたち。でも球威や球速は、それだけでは簡単にはアップしません。今回はフリーフットというモーションを見ながら、球速アップを考えていきたいと思います。

まずピッチングという作業を物理的に考えてみることにしましょう。

球速をアップさせるために必要な四大エネルギー

ピッチャーは投球をする際、まず軸脚とは逆の脚を上げます。これをフリーフットと言います。フリーフットから足部を着地させることにより「位置エネルギー」という力を得ることができます。

そして少し巻き戻して、上げた脚を今度は投球方向へと踏み込んでいき、同時に身体を投球方向へと向かわせていきます。この時に生まれるのが「並進エネルギー」という力です。

さらにこれらの上げる・進むという動きの中には「回転エネルギー」という力も働いています。これは体幹と腕を、股関節によって回旋させることで得られる力です。

それともう一つ、重力のある地球でだからこそ地面から得られる反力エネルギーというものもあります。この四大エネルギーを効率的なピッチングモーションによって高めれば高めるほど、球速をアップさせられるようになります。

※位置エネルギーや並進エネルギーは、Nm(ニュートンメートル)という単位で計算します。

エネルギーにプラスアルファを与えられるヒールアップ投法

さて、今回のコラムの本題はフリーフットです。ピッチングモーションにおいて最初に生まれる大きい部類のエネルギーが、フリーフットを作ることにより生まれる位置エネルギーだからです。位置エネルギーは、重力に逆らって脚を上げれば上げるほど大きな力を得ることができます。そしてそれは、正しいピッチングモーションで投げることにより、効率良くボールへと伝えていくことが可能です。つまり位置エネルギーは球速に直結するエネルギーということです。

またこの位置エネルギーは、フリーフットのみからしか得られるものではありません。ヒールアップさせることで更にプラスアルファを得ることも可能なのです。昔は日本ハムファイターズの西崎幸広投手や、近鉄バファローズの阿波野秀幸投手がヒールアップ投法を用い、細身から快速球を投げ、打者をキリキリ舞いさせていました。

ただし、ヒールアップ投法は強靭な足腰、バランス感覚がなければ球威は落ち、制球も乱れてしまう高度な技術です。ふくらはぎや膝にも大きなストレスがかかるため、技術不足のピッチャーにはあまりオススメはできません。

さて、話はフリーフットに戻ります。大きな位置エネルギーを得ることで、並進エネルギーも比例して大きくさせることができます。最近では制球を意識し過ぎるあまりに、フリーフットを高く上げるピッチャーは減ってしまいました。もう西本聖投手のようなピッチャーは現れないかもしれませんね。そんな中、佐々木朗希投手は非常に高く脚を上げています。これはぜひ子どもたちに時々真似をして欲しい下半身の使い方ですね。

良い形のフリーフットにはハムストリングスの強さと柔軟性が必須

フリーフットを考える際、最も重要なのはハムストリングスです。ハムストリングスとは、太もも後ろ側の非常に大きな筋肉群です。このハムストリングスが硬かったり、弱かったりするとフリーフットを高く上げることはできません。硬ければ可動域が狭まることでフリーフットの上げ幅も狭くなり、弱ければ脚を持ち上げる力が足りなくなります。

位置エネルギーの増強は、球速アップに直結するファクターです。ですので腕っ節を強くして球速を上げることよりもまずは、ハムストリングスの強さと柔軟さを獲得する努力をしてみてください。重要なので繰り返しますが、「強さ」と「柔軟性」は常にセットで考えていってください。

球速アップを手伝ってくれる強くて柔軟性のあるハムストリングス

ちなみにハムストリングスを強化させることは、フリーフット以外にも良い効果を与えることができます。それはステップから着地させた足への影響です。

ハムストリングスが強いと、ステップから着地させた足を、グッとプレート側にプルバック(引き戻す)させることができます。このモーションが自然と出現するようになると、体幹の回転や腕の振りをさらに鋭くさせることができ、球威・球速をさらにアップさせることができます。

ですが筋力の弱い選手が意識的にプルバックモーションを入れようとすると、ハムストリングスや脛を痛めてしまいます。ですのでこれはやろうとしてやるのではなく、ハムストリングスを鍛えて良いピッチングモーションを身につけて、自然と出現してくる、というのが理想です。

このように、ハムストリングスの強さと柔軟性を獲得することにより、これだけボールに良い効果が現れるんです。そして下半身を強化すれば肩・肘の故障を防ぐことにも繋がりますので、まさに一石二鳥!球速をアップさせたいのなら上半身よりも、まずハムストリングスの強さと柔軟性を見直してみてください。

腕は大きく使って投げちゃダメ!

少年野球の練習風景を見ていると、「もっと腕を大きく使って投げろ!」という監督の怒鳴り声をよく耳にすることがあります。しかしこれは指導法としては間違いだと断言できます。ピッチングというものを考えた時、腕はコンパクトに振るほど良いのです。腕を大きく使って投げるピッチャーは、将来必ず肩痛を起こしたり、制球難に苦しむことになります。

なぜ腕を大きく使って投げると肩痛を引き起こすのか?答えは簡単です。身体を大きく使えば使うほど無駄な動きが増え、それが肩への負担になるためです。また、腕を大きく使い過ぎるとどうしても腕が遠回りしてしまいます。腕が遠回りしてしまうと、肩周辺の筋肉(主に外側の筋肉)が一部のみ酷使されることになり、その酷使が故障へと直結してしまいます。

腕を大きく振るほど制球力が悪くなる?!

そして制球難になり得る理由としては、腕を大きく使うことにより、大きな遠心力が生まれてしまうためです。ピッチング動作においての遠心力は、腕を外側に飛ばそうとするエネルギーを持っています。このエネルギーの指向は、ボールを投げる方向とは異なります。この指向の差異により、制球が乱れてしまうのです。

そして遠心力によって腕が外側に引っ張られてしまうことにより、インナーマッスルを痛めやすくなります。肩関節にある4つのインナーマッスルは、腕が肩から抜けてしまわないように(脱臼しないように)引き寄せる役割を担っています。このインナーマッスルの力よりも、外側に引っ張ろうとする遠心力が大きくなることにより、肩痛のリスクを大幅に高めてしまうんです。

身長196cmのダルビッシュ投手の腕の使い方はとてもコンパクト!

さて、2011年の現時点の日本のエースピッチャーといえば、もちろんダルビッシュ有投手だと思います。彼は本当に素晴しいピッチャーで、メジャーリーグのスカウトマンたちはポスティングで60億円を動かした松坂大輔投手以上の評価をしているほどです。でもダルビッシュ投手は196cmの長身です。これだけ身体が大きいと、どうしても腕を大きく使ってしまいがちです。ですのでダルビッシュ投手はプロ入り2年目に肩を痛めています。ですがその肩痛から復帰してくると、ピッチングモーションは大きく変わっていました。

高校時代からプロ入り1年目までは、まだまだ無駄な動きの多かったダルビッシュ投手のピッチングモーションでしたが、肩痛から戻ってくるとそのモーションはかなりコンパクトになっていました。つまり、無駄な動きがほとんどそぎ落とされていたのです。

ピッチングモーションから無駄な動きが省かれ、腕の振りもコンパクトになったことで肩への負担は軽減され、制球も良くなり、ボールの切れもアップしました。「若い頃に比べるとフォームに迫力がない」と評するプロ野球解説者もいらっしゃいますが、しかし重要なのは見た目の迫力よりも投げるボールの迫力です。

重要なのは見た目の迫力ではなく、投げるボールの迫力!

ピッチングフォーム(見た目)にいくら迫力があっても、右打者の内角にズバッと決められるボールがなければ意味はありません。逆に見た目の迫力が減ったとしても、内角に速球をズバッと決められれば、打者はダルビッシュ投手に迫力を感じずにはいられません。

腕の使い方が大きいピッチャーは、えてして内角に投げ切る制球力が不十分です。逆に身体をコンパクトに使えているピッチャーは、臆することなく内角に投げ切るコントロールを持つことができます。こう考えた時、あなたは見た目とボール、どちらに迫力が欲しいですか?もちろんボールですよね!

投げている時の肘の高さをチェックする簡単な方法

ピッチャーは投げる際、肘を下げてはいけないということは誰もが知っている事実です。でも自分で投げている時、肘が下がっているか上がっているかというのは、なかなかわかりませんよね?そんな時に役立つ、簡単な目安があるんです。これさえ覚えていれば、自分は肘が下がっているのか上がっているのか丁度良いのかが、いつでもチェックすることができます。

まず投げる手にタオルなどを持ち、シャドーピッチングの準備をしましょう。そしてグラブ手は「気をつけ」の姿勢で、体側に軽くくっつけておいてください。そしてその状態で、キャッチボールの動きをしてみましょう。

このシャドーピッチングでフォロースルーさせた手が、グラブ手の肘の位置に来れば合格です。1つの目安として、肘は正しい高さになっていると思って良いでしょう。でもフォロースルーさせた手がグラブ手の肘より低い場合、投球送球時に肘が下がっている可能性が高いと思ってください。また、グラブ手の肘より高い位置に行った場合は、肘が上がり過ぎている可能性があります。

肘が下がっているって具体的にはどういうこと?!

でも肘が下がっているとか上がっているとか言っても、なかなかピンと来ませんよね?まず肘の適切な高さですが、両肩を線で結び、その延長線上に投球腕の肘があるか、ないかです。アクセラレーションフェイス(握ったボールを加速させる、トップポジションからボールリリースまでの段階)にこの延長線上よりも肘の位置が低い場合、肘が下がっていると表現します。

この肘の高さを簡単にチェックできるのが、上述したシャドーピッチングというわけです。ですがこのシャドーピッチングは、あくまでも目安です。なぜなら、ピッチングにはグラブ手の先導が欠かせないためです。グラブ手は「リーディング・アーム」と呼ばれ、ピッチングモーションを先導するという重要な役割を担っています。

では早速、実際にシャドーピッチングをして、自分の肘の位置が適正かどうかをチェックしてみてください。ちなみに、シャドーピッチングは絶対にタオルなどを持って行ってください。何も持たずに行うシャドーピッチング(空投げ)は、お風呂の空焚きと同じで、故障の原因となってしまうため要注意です。