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三度の野球肩を克服して甲子園の舞台に立った僕の生徒さん

2年連続で野球肩を経験した中二のシニアリーグ選手

もう5年前の話です。ある中学生投手とお父さんが僕のレッスンを受けるために連絡して来てくださいました。この子はまだ中学2年生でしたが185cmあり、公式戦での最高球速も124kmで、将来を嘱望されたシニアリーグのエースピッチャーでした。

しかし中学に入ってからは2年続けて肩を痛めてしまい、2年続けて3〜5ヵ月の間ノースローで過ごすことを強いられていました。お父さんのお話によると、シニアリーグの監督に投げ方を直されてから痛むようになったとのことでした。

プロ野球選手の夢を諦め歩んだプロコーチへの道

踵の怪我が野球肩につながった可能性

僕は中学生になると、少しずつ野球肩の兆候が出始めました。

実は中学二年生の秋に体育の授業で踵にヒビが入るという怪我をしてしまったのですが、その完治から少しずつ投球フォームが崩れて行きました。すると学年が上がっても思いのほか球速が伸びなくなり、中三での最速は124km(練習中の最速は127km)でした。

野球肩になるとは露知らず毎日練習を続けた小学生時代

プロ野球選手を夢見て毎日練習を続けた小学生時代

子どもの頃、僕は同級生の多くと同じようにプロ野球選手を夢見ていました。当時僕は西武ライオンズの渡辺久信投手に憧れていて、球場でサインをしてもらったり、投げ方を教えてもらったこともありました。いつか自分もライオンズに入って、渡辺久信投手とチームメイトになることが小学生の頃の僕の夢でした。

その夢を叶えるため、僕は雨の日も風の日も毎日毎日ボールを投げ続けました。キャッチボールの相手がいない時は近所の壁に向かってボールを投げ続けました。すると毎日毎日練習を頑張っているのを見てくれていたその壁のお宅のおじさんが、時々おやつや飲み物をくれるようになりました。東京の下町の温かさです。

野球肩を生み出しているのは勉強不足の無知な野球指導者たち

野球肩は野球肘よりも原因が複雑

野球肩の原因は、野球肘よりも複雑だと言えます。例えばどんなに良い投球フォームで投げていたとしても、使っているボールの質や球数という外的要素によって痛めてしまうことも多いんです。

NPBとMLBのボールを比べるだけでも、MLBの公式球はNPBの公式球よりも僅かに大きくて僅かに重く、革のなめしも甘いため滑りやすいんです。NPBの滑りにくい公式球に慣れている選手がMLBのボールを投げるとすごく滑りやすく感じるため、ボールを握る力を僅かに強くしてしまいます。すると肩関節の内外旋が僅かに浅くなってしまい、肩関節のどこか1ヵ所に負荷が集中してしまうことがあるんです。そしてもちろん肘への負荷も高まってしまいます。

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軸は工藤公康さんも間違っている投球動作の支点

野球肩になってしまう原因として多いのが、投球モーション内での支点の位置を間違っているケースです。実はこれ、工藤公康さんもテレビで間違ったことを仰っていました。

工藤公康さんはスローイングアームの軸を支点にすると仰っていましたが、実際的に軸を支点にして投げてしまうと肩関節を水平内転(腕を真横に伸ばした状態から、前ならえの形になるよう肩を動かす動作)させないとボールを投げられなくなってしまうんです。

野球肩野球肘を自分で治す

野球肩野球肘を自分で治すのは、完治と言われた後で!

野球肩野球肘は自分で治すことができます。ただし、それをするのはお医者さんにしっかりと治療をしてもらい、「完治」と言われてからにしてください。

完治する前に無理して動いてしまうようなことがあると、治せるものも治せなくなってしまいますし、それどころか悪化してしまうことだってあります。

ですので「完治」と言われるまでは、動作改善をするにしてもスローモーションで、絶対に患部に負荷がかからない状態で行うようにしましょう。

「腕を振れ」という指導は今すぐやめよう!

文字通り腕を振って投げると肩が支点になってしまう

「腕を振れ」という指導はプロでも少年野球でも普通に行われる指導だと思います。でもこの指導法は今すぐやめるべきです。この指導を受けて、子どもたちが文字通り腕を振るようになると、かなり高い確率で肩肘を痛めるようになってしまいます。特に野球肩の発症リスクが高くなります。

「腕を振れ」という指導をすると、子どもたちは肩関節を曲げることによって腕を一生懸命振ろうとしてしまいます。もちろんこれはプロ野球選手でも同様です。しかしこれをやってしまうと、下半身を上手く使って投げることが物理的にできなくなってしまうんです。

ピッチャーとキャッチャーを兼務

野球肩にならないようにこの併用は避けたい!

リトルリーグショルダーなどの野球肩にすごくなりやすいポジションの兼任があります。それはピッチャーとキャッチャーを兼任する形です。この2つのポジションを兼任する選手が肩を痛めるリスクというのは本当に高いので、野球指導者としてはできるだけ避けたいところです。

ピッチャーとキャッチャーというのはそもそも投げ方が違います。ピッチャーはテイクバックをするフルアームスローで、キャッチャーはテイクバックをしないスナップスローで投げます。根本的に投げ方が異なるポジションに同時に入ることにより、投げ方が崩れやすくなり、肘も下がりやすく、肩への負荷も大きくなってしまうんです。

球速が速くても勝ち投手になれなければ意味はない!

僕は2010年1月以来、プロコーチとしてプロ野球選手のパーソナルコーチングや、小学生から大人まで数え切れないほどのアマチュア選手のレッスンを行ってきたわけですが、球速に関しては「速いに越したことはない」というスタンスで、物凄く速いボールを投げなくても、怪我なく勝てる投手になれればそれで良いと考えています。

プロ野球を目指している選手であれば、高校・大学クラスなら150km前後のボールを投げられるようにするためのレッスンを行なっていきますが、160kmや165kmという、大谷翔平投手クラスの球速は必ずしも投げられなくても良いと考えていきます。その理由はやはり、怪我のリスクが高まるためです。

仮に文句のつけようのない完璧な投球フォームで投げていたとしても、球速が上がれば上がるほど肩肘への負荷は高まり、怪我をするリスクも比例して高くなってしまいます。

165kmを投げられたからといって、100戦100勝できるわけではありません。ロケットの異名をとったロジャー・クレメンス投手でさえも通算勝率は.658なんです。160km以上のボールを投げられても、10試合投げたら3〜4回は敗戦投手になってしまうんです。

それならば体への負荷を減らし、パワーピッチングをしなくても勝てる投手を目指した方がプロ野球には近づくことができます。もちろん球が速いと「球速は天性。コントロールはこれから何とでもなる」と考えるスカウトマンもいるわけですが、そこからドラフトにかかって本当に活躍した投手というのは、数え切れないほどのそのような投手たちの中で、僕の知る限りでは石井一久投手くらいだと思います。

その他の球速だけで制球力がない投手たちは、プロ入り後に怪我をしたり、変化球とのコンビネーションを使えなかったり、ほとんどの投手が鳴かず飛ばずのままユニフォームを脱いでいます。

野球は陸上のような個人種目ではありませんので、170kmを投げられたとしても、チームを勝利に導くピッチングができなければ意味がありません。

110kmを投げられたとしても、小学生は投げるべきではない!

もちろん最低限の球速というのは必要だと思います。プロ入りを目指す高校生・大学生であれば、150km前後は必要ですし、小学生であれば90km以上は投げられた方がいいでしょう。

しかしたまに見かける110kmくらいのボールを投げられる小学生投手たち。僕もそのような小学生投手の情報はある程度は追跡調査をしているのですが、多くの子たちが中学・高校で肩肘を痛めてしまい、中には野球を辞めてしまった子もいました。小学生で110kmを投げられたとしても、結局は怪我で甲子園の夢も、プロ野球の夢も潰えてしまったわけです。

いくら110kmを投げられたとしても、小学生は小学生です。まだ体は出来上がっていないし、その球速を投げた際の衝撃に耐えられる体の強度もありません。ですのでいくら良い投げ方をしていたとしても、その後肩肘を痛めてしまったとしても不思議はないわけです。

千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手の育成方法は素晴らしいと思います。プロ入り前は超高校級のストレートを投げていたわけですが、プロ入り後は球速は抑えさせ、5年後に165kmの球速を投げても怪我をしない体づくり、フォーム作りを徹底させています。

プロコーチとしての僕の考えは、小学生には、いくら110kmを投げられたとしても投げさせるべきではないということです。110kmを投げさせるのは、体が強くなり始める中学生に入ってからで十分です。

一般的な目安としては、6年生で90〜100km、中三で120〜130km、高三で140〜150kmという感じでステップアップさせていけば、十分プロ野球のスカウトマンの目に留まっていきます。プロ野球選手になりたいのであれば、体を壊すようなピッチングをさせてはいけません。高卒でプロ入りするのか、大卒でプロ入りするのかということを逆算しながら、体の強さに合わせてストレートのアヴェレージを調整していく必要があります。

近年は小中学生でもガンガン筋トレをして目先の球速を追い求めてしまっていますが、怪我をせずに勝てる投手を目指すということを目的にするのであれば、そのやり方は間違いだと断言できます。

やはり一番は、まずは科学的に怪我をしにくい理想的な体の使い方を覚えるべきです。球速はそのフォームと体の強さを手にすれば自然とアップしていきます。逆に球速がアップしないということは、フォームのどこかにおかしな部分があるということです。

小学生の時はボールが速かったのに、中学生になって体が大きくなったら球速が低下してしまったという多数の選手が僕のレッスンを受けにきます。その場合、小学生時代のフォームの動画を見させてもらうと、腕っ節だけで投げているケースが大半です。すると中学生になって手足が長くなると、腕っ節が扱いにくくなってしまい、フォームを崩して球速が低下してしまうケースが多々あります。

そうならないように、やはり投球フォームは科学的に野球動作を学んだ指導者に見てもらうべきです。身近にそのようなコーチがいるのがベストですが、実際にはほとんどいないと思いますので、そのような場合は僕のようなプロコーチから、科学的根拠のあるレッスンを受けていただくのがベストです。

僕の動作改善に関するレッスン内容のすべてには、科学的根拠があります。科学的根拠なしに、経験則だけで生徒さんをレッスンすることは100%ありません。そして科学的根拠があるからこそ、本気でレッスンを受けていただければ誰でも必ず上達することができるわけなのです。

アーム式で投げると野球肘になりにくい、という嘘

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肘を先行させると野球肘になりやすいという考えは間違い

近頃アーム式の投げ方(カタパルト投法)が見直されているという話をよく耳にします。その理由としては、肘を先行させて投げると肘を痛めるリスクが高くなるからだそうです。しかしこの考え方は完全に間違いで、野球動作を科学的に勉強したことがない人たちの思い込みです。

肘を先行させて投げると肘への負荷が高まる、とだけ書くとこれは正しいとは言えませんが、確かに間違いではありません。しかし言い方を変えると、正しい肘の先行のさせ方をすれば肘に負荷はかからない、と言えます。肘を先行させると野球肘になりやすいと話す指導者は、間違った肘の先行のさせ方しか教えることができない人である、と判断して間違いないと思います。

肘を先行させないためにあえてアーム式で投げる、もしくはアーム式を直さない、というのは非常に危険なことです。肩関節や肩甲骨の可動域が広ければ広いほど、アーム式の投げ方では肩にかかる負荷が大きくなります。また、肩関節の内外旋の順番が間違っていれば、同時に肘へのストレスも高まります。

じゃあ可動域が狭ければアーム式でも良いのか、となると、体が硬ければそれはそれで怪我につながりますので、アーム式云々ではなく、野球をされるのであればスポーツを楽しむのに最低限必要な柔軟性は身に付けておくべきです。

アーム式では正しいオーバーハンドスローはできない?!

そしてアーム式の投げ方でオーバーハンドスローで投げようとすると、多くのケースで肘が高くなり過ぎてしまいます。投球時に肘が下がるのは良くない、ということはみなさんよくご存知だと思いますが、上がり過ぎても同じように良くないんです。

右投げであれば左肩・右肩・右肘を結んだ線分が一直線になっている必要があります。左投げなら右肩・左肩・左肘です。アーム式のオーバーハンドスローでこれを実現させようとすると、上半身をグラブ側にほぼ90度傾けていかなければ、純粋なオーバーハンドスローにはなりません。しかしこのような投げ方は物理的にはほとんど不可能です。

となると、どうしても肘を必要以上に高く上げることにより、上述の線分を上へ折り曲げていかなければ、アーム式の投げ方ではオーバーハンドスローにならなくなります。すると肩への負荷は、肘が下がっている時と同様に大きくなります。

「アーム式は野球肘になりにくい」という間違った思い込み

もちろんオーバーハンドスローではなく、スリークォーター以下の腕の高さであれば、アーム式でも肘を上げ過ぎずに投げることは可能です。しかし基本的には、ボールを投げる動作では肘が伸ばされている時間が短ければ短いほど、肩肘への負荷を抑えられるようになります。

もし子どもたちが「アーム式にすれば野球肘にならない」という話を聞き、アーム式で投げるようになってしまえば、必ず多くの子どもたちが野球肩になってしまうでしょう。そうならないためにも、野球に携わる大人たちは無責任に思い込みで情報発信をすることは避けなければなりません。

情報発信をするなら思い込みや経験則は一旦横に置いて、その情報が理論的に本当に正しいのか、理論的に説明がつくのか、ということを確認してからアウトプットしていくべきです。

「アーム式なら野球肘になりにくい」という考え方は100%間違いです。「内外旋の順番が正しい肘を先行させる投げ方なら野球肘になりにくい」なら、理論的に説明することができます。しかし「アーム式=野球肘になりにくい」という言葉は、理論的には間違いです。

エビデンスがまったくないアーム式に関する情報発信

代表的な選手1〜2名がアーム式で1〜2年怪我せずに活躍できた、というのはエビデンス(論拠)にはなりません。100名以上の選手を数年間観察し、それでもほとんどの選手がパフォーマンスがアップし、肩肘を痛めることもなかった、という状況であればそれはエビデンスになるかもしれません。

しかし近頃情報発信されることが増えた「アーム式=肘を痛めにくい」という考え方にはエビデンスが存在しておらず、無責任な情報発信だと言い切ることができます。アーム式で投げたい選手は投げれば良いと思います。しかし「野球肘にならないようにアーム式にする」という考え方は、絶対にしないように気をつけてください。