
軸は工藤公康さんも間違っている投球動作の支点
野球肩になってしまう原因として多いのが、投球モーション内での支点の位置を間違っているケースです。実はこれ、工藤公康さんもテレビで間違ったことを仰っていました。
工藤公康さんはスローイングアームの軸を支点にすると仰っていましたが、実際的に軸を支点にして投げてしまうと肩関節を水平内転(腕を真横に伸ばした状態から、前ならえの形になるよう肩を動かす動作)させないとボールを投げられなくなってしまうんです。
野球肩になってしまう原因として多いのが、投球モーション内での支点の位置を間違っているケースです。実はこれ、工藤公康さんもテレビで間違ったことを仰っていました。
工藤公康さんはスローイングアームの軸を支点にすると仰っていましたが、実際的に軸を支点にして投げてしまうと肩関節を水平内転(腕を真横に伸ばした状態から、前ならえの形になるよう肩を動かす動作)させないとボールを投げられなくなってしまうんです。
野球肩野球肘は自分で治すことができます。ただし、それをするのはお医者さんにしっかりと治療をしてもらい、「完治」と言われてからにしてください。
完治する前に無理して動いてしまうようなことがあると、治せるものも治せなくなってしまいますし、それどころか悪化してしまうことだってあります。
ですので「完治」と言われるまでは、動作改善をするにしてもスローモーションで、絶対に患部に負荷がかからない状態で行うようにしましょう。
「腕を振れ」という指導はプロでも少年野球でも普通に行われる指導だと思います。でもこの指導法は今すぐやめるべきです。この指導を受けて、子どもたちが文字通り腕を振るようになると、かなり高い確率で肩肘を痛めるようになってしまいます。特に野球肩の発症リスクが高くなります。
「腕を振れ」という指導をすると、子どもたちは肩関節を曲げることによって腕を一生懸命振ろうとしてしまいます。もちろんこれはプロ野球選手でも同様です。しかしこれをやってしまうと、下半身を上手く使って投げることが物理的にできなくなってしまうんです。
リトルリーグショルダーなどの野球肩にすごくなりやすいポジションの兼任があります。それはピッチャーとキャッチャーを兼任する形です。この2つのポジションを兼任する選手が肩を痛めるリスクというのは本当に高いので、野球指導者としてはできるだけ避けたいところです。
ピッチャーとキャッチャーというのはそもそも投げ方が違います。ピッチャーはテイクバックをするフルアームスローで、キャッチャーはテイクバックをしないスナップスローで投げます。根本的に投げ方が異なるポジションに同時に入ることにより、投げ方が崩れやすくなり、肘も下がりやすく、肩への負荷も大きくなってしまうんです。
時々、野球肩野球肘はピッチャー以外は心配いらないと勘違いされている親御さんがいらっしゃいます。「肩肘を痛めないようにうちの子にはピッチャーはやらせない」と考えている親御さんも一定数いらっしゃるようですが、これは間違いです。
確かに球数という面を考えればピッチャーが一番肩肘を痛めるリスクが高いわけですが、しかし他のポジションであってもキャッチボールからノック、ボール回しなどの練習をトータルで考えると、かなりの球数になっていきます。
僕は高校の入学式の前日に肩関節胞を損傷するという酷い野球肩になり、ボールを投げられなくなってしまったわけですが、これは本当に痛かった。右手では歯磨きさえもできないくらい痛かった😭
僕の場合は、痛みに関しては急に出ました。肩関節胞の損傷そのものはすでに中学時代からあったはずなのですが、それが痛みとなって出てきたのは高校の入学式の前日が初めてでした。そして僕の場合に関しては、痛みが出た時はもう手遅れで、手術をしてもまたちゃんとボールを投げられるようになるかは分からない、という診断でした。
もう5年前の話です。ある中学生投手とお父さんが僕のレッスンを受けるために連絡して来てくださいました。この子はまだ中学2年生でしたが185cmあり、公式戦での最高球速も124kmで、将来を嘱望されたシニアリーグのエースピッチャーでした。
しかし中学に入ってからは2年続けて肩を痛めてしまい、2年続けて3〜5ヵ月の間ノースローで過ごすことを強いられていました。お父さんのお話によると、シニアリーグの監督に投げ方を直されてから痛むようになったとのことでした。
中学生になると、少しずつ野球肩の兆候が出始めました。
実は中学二年生の秋に体育の授業で踵にヒビが入るという怪我をしてしまったのですが、その完治から少しずつ投球フォームが崩れて行きました。すると学年が上がっても思いのほか球速が伸びなくなり、中三での最速は124kmでした。
子どもの頃、僕は同級生の多くと同じようにプロ野球選手を夢見ていました。当時僕は西武ライオンズの渡辺久信投手に憧れていて、球場でサインをしてもらったり、投げ方を教えてもらったこともありました。いつか自分もライオンズに入って、渡辺久信投手とチームメイトになることが小学生の頃の僕の夢でした。
野球肩の原因は、野球肘よりも複雑だと言えます。例えばどんなに良い投球フォームで投げていたとしても、使っているボールの質や球数という外的要素によって痛めてしまうことも多いんです。
NPBとMLBのボールを比べるだけでも、MLBの公式球はNPBの公式球よりも僅かに大きくて僅かに重く、革のなめしも甘いため滑りやすいんです。NPBの滑りにくい公式球に慣れている選手がMLBのボールを投げるとすごく滑りやすく感じるため、ボールを握る力を僅かに強くしてしまいます。すると肩関節の内外旋が僅かに浅くなってしまい、肩関節のどこか1ヵ所に負荷が集中してしまうことがあるんです。そしてもちろん肘への負荷も高まってしまいます。
はじめまして。僕のことは気軽にカズコーチと呼んでください。僕は2010年1月から野球専門のプロフェッショナルコーチとして、プロ野球選手の動作改善や自主トレサポート、データ分析をしたり、野球選手を支えるスポーツ外科の先生、理学療法士、トレーナーへの動作改善に関するテクニカルサポート、そして子どもたちが肩肘を痛めないように投げ方の個別レッスンを行っています。
よく「野球が好きで空いた時間でコーチをしている」と思われることもあるんですが、僕の場合はコーチを100%本業にしています。そして他野球塾のコーチたちよりも、はるかに多く野球動作の科学について勉強・研究をしてきました。
僕は2010年1月以来、プロコーチとしてプロ野球選手のパーソナルコーチングや、小学生から大人まで数え切れないほどのアマチュア選手のレッスンを行ってきたわけですが、球速に関しては「速いに越したことはない」というスタンスで、物凄く速いボールを投げなくても、怪我なく勝てる投手になれればそれで良いと考えています。
プロ野球を目指している選手であれば、高校・大学クラスなら150km前後のボールを投げられるようにするためのレッスンを行なっていきますが、160kmや165kmという、大谷翔平投手クラスの球速は必ずしも投げられなくても良いと考えていきます。その理由はやはり、怪我のリスクが高まるためです。
仮に文句のつけようのない完璧な投球フォームで投げていたとしても、球速が上がれば上がるほど肩肘への負荷は高まり、怪我をするリスクも比例して高くなってしまいます。
165kmを投げられたからといって、100戦100勝できるわけではありません。ロケットの異名をとったロジャー・クレメンス投手でさえも通算勝率は.658なんです。160km以上のボールを投げられても、10試合投げたら3〜4回は敗戦投手になってしまうんです。
それならば体への負荷を減らし、パワーピッチングをしなくても勝てる投手を目指した方がプロ野球には近づくことができます。もちろん球が速いと「球速は天性。コントロールはこれから何とでもなる」と考えるスカウトマンもいるわけですが、そこからドラフトにかかって本当に活躍した投手というのは、数え切れないほどのそのような投手たちの中で、僕の知る限りでは石井一久投手くらいだと思います。
その他の球速だけで制球力がない投手たちは、プロ入り後に怪我をしたり、変化球とのコンビネーションを使えなかったり、ほとんどの投手が鳴かず飛ばずのままユニフォームを脱いでいます。
野球は陸上のような個人種目ではありませんので、170kmを投げられたとしても、チームを勝利に導くピッチングができなければ意味がありません。
もちろん最低限の球速というのは必要だと思います。プロ入りを目指す高校生・大学生であれば、150km前後は必要ですし、小学生であれば90km以上は投げられた方がいいでしょう。
しかしたまに見かける110kmくらいのボールを投げられる小学生投手たち。僕もそのような小学生投手の情報はある程度は追跡調査をしているのですが、多くの子たちが中学・高校で肩肘を痛めてしまい、中には野球を辞めてしまった子もいました。小学生で110kmを投げられたとしても、結局は怪我で甲子園の夢も、プロ野球の夢も潰えてしまったわけです。
いくら110kmを投げられたとしても、小学生は小学生です。まだ体は出来上がっていないし、その球速を投げた際の衝撃に耐えられる体の強度もありません。ですのでいくら良い投げ方をしていたとしても、その後肩肘を痛めてしまったとしても不思議はないわけです。
千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手の育成方法は素晴らしいと思います。プロ入り前は超高校級のストレートを投げていたわけですが、プロ入り後は球速は抑えさせ、5年後に165kmの球速を投げても怪我をしない体づくり、フォーム作りを徹底させています。
プロコーチとしての僕の考えは、小学生には、いくら110kmを投げられたとしても投げさせるべきではないということです。110kmを投げさせるのは、体が強くなり始める中学生に入ってからで十分です。
一般的な目安としては、6年生で90〜100km、中三で120〜130km、高三で140〜150kmという感じでステップアップさせていけば、十分プロ野球のスカウトマンの目に留まっていきます。プロ野球選手になりたいのであれば、体を壊すようなピッチングをさせてはいけません。高卒でプロ入りするのか、大卒でプロ入りするのかということを逆算しながら、体の強さに合わせてストレートのアヴェレージを調整していく必要があります。
近年は小中学生でもガンガン筋トレをして目先の球速を追い求めてしまっていますが、怪我をせずに勝てる投手を目指すということを目的にするのであれば、そのやり方は間違いだと断言できます。
やはり一番は、まずは科学的に怪我をしにくい理想的な体の使い方を覚えるべきです。球速はそのフォームと体の強さを手にすれば自然とアップしていきます。逆に球速がアップしないということは、フォームのどこかにおかしな部分があるということです。
小学生の時はボールが速かったのに、中学生になって体が大きくなったら球速が低下してしまったという多数の選手が僕のレッスンを受けにきます。その場合、小学生時代のフォームの動画を見させてもらうと、腕っ節だけで投げているケースが大半です。すると中学生になって手足が長くなると、腕っ節が扱いにくくなってしまい、フォームを崩して球速が低下してしまうケースが多々あります。
そうならないように、やはり投球フォームは科学的に野球動作を学んだ指導者に見てもらうべきです。身近にそのようなコーチがいるのがベストですが、実際にはほとんどいないと思いますので、そのような場合は僕のようなプロコーチから、科学的根拠のあるレッスンを受けていただくのがベストです。
僕の動作改善に関するレッスン内容のすべてには、科学的根拠があります。科学的根拠なしに、経験則だけで生徒さんをレッスンすることは100%ありません。そして科学的根拠があるからこそ、本気でレッスンを受けていただければ誰でも必ず上達することができるわけなのです。
近頃アーム式の投げ方(カタパルト投法)が見直されているという話をよく耳にします。その理由としては、肘を先行させて投げると肘を痛めるリスクが高くなるからだそうです。しかしこの考え方は完全に間違いで、野球動作を科学的に勉強したことがない人たちの思い込みです。
肘を先行させて投げると肘への負荷が高まる、とだけ書くとこれは正しいとは言えませんが、確かに間違いではありません。しかし言い方を変えると、正しい肘の先行のさせ方をすれば肘に負荷はかからない、と言えます。肘を先行させると野球肘になりやすいと話す指導者は、間違った肘の先行のさせ方しか教えることができない人である、と判断して間違いないと思います。
肘を先行させないためにあえてアーム式で投げる、もしくはアーム式を直さない、というのは非常に危険なことです。肩関節や肩甲骨の可動域が広ければ広いほど、アーム式の投げ方では肩にかかる負荷が大きくなります。また、肩関節の内外旋の順番が間違っていれば、同時に肘へのストレスも高まります。
じゃあ可動域が狭ければアーム式でも良いのか、となると、体が硬ければそれはそれで怪我につながりますので、アーム式云々ではなく、野球をされるのであればスポーツを楽しむのに最低限必要な柔軟性は身に付けておくべきです。
そしてアーム式の投げ方でオーバーハンドスローで投げようとすると、多くのケースで肘が高くなり過ぎてしまいます。投球時に肘が下がるのは良くない、ということはみなさんよくご存知だと思いますが、上がり過ぎても同じように良くないんです。
右投げであれば左肩・右肩・右肘を結んだ線分が一直線になっている必要があります。左投げなら右肩・左肩・左肘です。アーム式のオーバーハンドスローでこれを実現させようとすると、上半身をグラブ側にほぼ90度傾けていかなければ、純粋なオーバーハンドスローにはなりません。しかしこのような投げ方は物理的にはほとんど不可能です。
となると、どうしても肘を必要以上に高く上げることにより、上述の線分を上へ折り曲げていかなければ、アーム式の投げ方ではオーバーハンドスローにならなくなります。すると肩への負荷は、肘が下がっている時と同様に大きくなります。
もちろんオーバーハンドスローではなく、スリークォーター以下の腕の高さであれば、アーム式でも肘を上げ過ぎずに投げることは可能です。しかし基本的には、ボールを投げる動作では肘が伸ばされている時間が短ければ短いほど、肩肘への負荷を抑えられるようになります。
もし子どもたちが「アーム式にすれば野球肘にならない」という話を聞き、アーム式で投げるようになってしまえば、必ず多くの子どもたちが野球肩になってしまうでしょう。そうならないためにも、野球に携わる大人たちは無責任に思い込みで情報発信をすることは避けなければなりません。
情報発信をするなら思い込みや経験則は一旦横に置いて、その情報が理論的に本当に正しいのか、理論的に説明がつくのか、ということを確認してからアウトプットしていくべきです。
「アーム式なら野球肘になりにくい」という考え方は100%間違いです。「内外旋の順番が正しい肘を先行させる投げ方なら野球肘になりにくい」なら、理論的に説明することができます。しかし「アーム式=野球肘になりにくい」という言葉は、理論的には間違いです。
代表的な選手1〜2名がアーム式で1〜2年怪我せずに活躍できた、というのはエビデンス(論拠)にはなりません。100名以上の選手を数年間観察し、それでもほとんどの選手がパフォーマンスがアップし、肩肘を痛めることもなかった、という状況であればそれはエビデンスになるかもしれません。
しかし近頃情報発信されることが増えた「アーム式=肘を痛めにくい」という考え方にはエビデンスが存在しておらず、無責任な情報発信だと言い切ることができます。アーム式で投げたい選手は投げれば良いと思います。しかし「野球肘にならないようにアーム式にする」という考え方は、絶対にしないように気をつけてください。
2010年1月にプロコーチデビューして以来、1500人以上の選手たちを個人レッスンしてきました。が、プロアマ合わせても、「この選手にコーチングは必要ない!」と思えるほど良い形で投げていた選手は、アメリカで担当した2投手だけです。確率的に0.13%です。日本では、僕がコーチングを担当した選手に限って言えば、完璧な投げ方をしていた選手は0%です。
僕らのようなプロコーチは目視だけでもある程度正確に、そしてハイスピードカメラを使うとかなり正確に、その選手が今後どこを怪我しやすいか、もしくは怪我したことがありそうな部位を数分で見抜くことができます。例えばスローイングアームだけを見ても、肘の内側、真ん中、外側、肩の前方、真ん中、後方、上腕二頭筋、上腕三頭筋など、これだけ野球選手が痛めやすい部位があるんです。
それらの部位を、ボールを投げている最中にどう使ってしまうと痛めやすいのか、ということは、解剖学が頭に入っていなければ判断することができません。解剖学とは、ただ筋肉や関節の名前を覚えるだけの話ではなく、どのように動くとその筋肉が働くのか、もしくはその筋肉を使うとどのような動作を行えるのか、など、筋肉それぞれの特性まで理解しておく必要があります。
筒香嘉智選手はかなり柔らかい表現で言ってくれていますが、しかし実際には日本の学童野球の指導内容は酷いレベルです。コーチングしている横では、週末はいくつもの少年野球チームが練習をしているのですが、ちらちら覗いたり盗み聞ぎ(笑)をしていると、あえて肩肘を痛めてしまうような投げ方を教えていることが多々あります。
筒香選手は「大人たちが正しいことを指導できなければならない」というようなことを仰っていますが、本当にその通りだと思います。高校野球の球数制限週500球に関してもナンセンスです。先発して100球程度なら、週5回先発できるという話になってしまいます。重要なのはそれほど意味のない球数による制限ではなく、指導者が、怪我をしにくい適切な投げ方の指導法を学ぶことではないでしょうか。
肩肘を痛めにく投げ方というのは、僕が指導する野球肩野球肘撲滅クリニックを受講された方ならご存じの通り、理論的に存在しています。僕のコーチングでは、腑に落ちないことは皆無のはずです。つまり「こういう投げ方ができるようになれば怪我はしない」という投げ方があるんです。しかし僕がコーチングをする前からそういう投げ方をしていたのは、上述したように2人だけです。もちろん僕が見たことない選手を含めれば、日本にもたくさんいるのかもしれませんが、僕のコーチング現場に限ってのみで言えば、まだ出会ったことはありません。
試しに僕が指導する内容を一度マスターしてみてください。今まで肩肘が常に痛かった選手であっても、ほとんど痛みなく投げられるようになるはずです。もちろん本格的な治療が必要なレベルではない、という段階においてではありますが。「下半身をしっかり使わないと肩肘を痛める」というのは、野球肩野球肘を防ぐための指導とは呼べません。下半身と上半身を具体的にどう使って投げれば怪我を防げるのかと、そこまで明確に伝えることが「指導(コーチング)」です。選手たちからすれば「もっと下半身を使って投げろ!」と言われても、「え?どうやって?」って戸惑ってしまうだけです。選手から戸惑いを排除させてあげられる人こそ、コーチと呼ぶにふさわしい人だと言えます。しかし日本の学童野球では、選手を戸惑わせる人ばかりのようです。
野球肩や野球肘の予防法を学びたい時はご注意ください。一般書店で市販されている野球教則本では、肩肘を痛めない投げ方を学ぶことはできません。僕自身、数え切れないほどの野球教則本を、新旧問わず拝読させていただきましたが、一般書店で売られているタイプの野球教則本で、解剖学的に肩肘を痛めない投げ方が解説されているものはほとんどありませんでした。
中には、野球選手の治療を専門とするドクターが書かれている本もあるわけですが、その本でさえも「?」がつくようなことが書かれています。ちなみに野球選手の指導を実際にされているトレーナーさんが書かれている本は、解剖学的にも投球動作的にも、エビデンスがある正しい動作が解説されていることがほとんどでした。しかしお医者さんが書かれている一般書店で売られている本には、肩肘を痛めない投げ方を学ぶための本なのに、パワーポジションが推奨されていたりするんです。パワーポジションとはコックアップの終盤付近で肘を90°以上に開くことにより、アクセラレーションの距離を伸ばし、球速をアップさせるためのモーションなのですが、パワーポジションで投げるとあっという間に肩肘を痛めます。
パワーポジションは、アメリカの超有名なパーソナルコーチが提唱しているモーションなのですが、メジャーリーグとマイナーリーグの投手たちを観察していくと、パワーポジションで投げている投手の多くが肩肘の手術を受けています。実は日本にもパワーポジションという言葉が誕生する以前、80年代からすでにパワーポジションで豪速球を投げている投手たちが存在していたのですが、1軍で活躍した投手に関していうと、肩痛で全滅しています。
僕は野球選手を治療する外科の先生やPTさん(リハビリを担当される方々)に野球動作の指導を機会もあり、外科の先生たちが集まる野球肩野球肘予防に関する勉強会に参加させてもらうこともあるのですが、肩肘を痛めない投げ方を理解されている先生やPTは最初は皆無でした。そんな方々が、治療後に投球動作の指導をしてしまっていたのです。
先生やPTさんたちは、痛みを取り除く作業に関してはプロフェッショナルで、そこに僕が口を挟む余地はありません。しかし肩肘を痛めないフォームを知っているかと言うと、まったくそんなことはないわけです。そのため外科の先生が書かれているような予防系の野球教則本にも、間違ったことが書かれていることがあるわけです。もちろんすべて間違っているわけではなく、一部が間違っているというだけです。
もし投手育成コラムを読んでくださっている方で、本気で野球肩野球肘の予防法を学びたいという方は、医学書が並んでいる書店に行ってください。東京でいえば池袋のジュンク堂書店や、新宿の紀伊国屋書店などです。ちなみにスポーツ医学系の本や雑誌を買うと、全国の医学書を取り扱っている書店一覧が載っていたりしますので、そのあたりも書店を探す参考にするといいかもしれません。
ちなみに、残念ながらAmazonで購入することはできません。一部の医学書はAmazonでも購入できるのですが、少なくとも僕が購読しているスポーツ医学系の雑誌や、野球動作に関する医学書は、Amazonでは売られていませんでした。あ、それとスポーツ医学系の野球動作に関する本はかなり高いです。薄っぺらい月刊誌でも1000円しますし、薄っぺらくない月刊誌でも2500円程度、それが専門書となると4000〜5000円ならまだ安い方。7000円、10000円する本もざらです。なので勉強されたい方は出費に関する覚悟も持たれた方がいいかもしれません。
今回の投手育成コラムでは、ピッチャーの肩にはある程度の「張り」が必要である、ということについて書き進めていきたいと思います。良いボールを投げるためには、肩関節がルーズな状態になっていてはダメなんです。程よい張りを出すため、プロの先発投手は登板2日前にブルペンに入る選手が大半です。
試合直前のスタティックストレッチング(静的ストレッチ)はパフォーマンスを低下させると言われていますが、これは確かなことです。試合当日でも、試合の直前じゃなければもちろん大丈夫です。例えばジョグをして体を温めて、スタティックストレッチングによって関節を少しルーズにした後に、ダイナミックストレッチング(動的ストレッチ)によって関節をタイトにしていけば、試合でのパフォーマンスを低下させることはありません。
ですがプレー直前にスタティックストレッチングを行なって関節をルーズにしてしまうと、動作の中から力強さが失われてしまうことになり、パフォーマンスの質が低下してしまいます。ですので試合直前のスタティックストレッチングは厳禁です。やるならジョグ後の、まだ試合直前ではない段階や試合直後が効果的です。
上述した話と同じように、ピッチャーの肩は投げない日が続くとルーズになっていくんです。まさにスタティックストレッチングをした直後のような状態です。すると腕の振りにかけられる遠心力に肩関節が耐えられなくなり、野球肩になってしまったり、もともとルーズショルダーの場合は脱臼してしまう危険性もあります。そしてもちろんルーズな状態になっている肩関節では、力強いボールを投げることもできなくなります。
そうならないために、プロの先発投手たちは登板日の2日前にブルペンに入り、肩関節をタイトにする作業をしているんです。前日に入ってしまうとブルペンの疲れが登板日までに抜けない恐れもありますので、ほとんどのピッチャーは2日前にブルペンに入り、肩をタイトにし、程よい張りを残した状態で登板日を迎えるようにしています。
小学生の場合、週末にしか野球の練習をしないという選手も多いと思います。この場合もやはり肩がルーズになった状態で週末の練習や試合を迎えることになりますので、しっかりとウォームアップをしたとしても肩を痛めてしまうリスクが伴います。ですのでできれば水曜日か木曜日あたりに、週末まで疲れが残らない30〜40球程度のキャッチボールや壁当てなどをして、週末の試合を迎えるという習慣をつけた方がいいと思います。
「ウォームアップをすれば怪我をしない」という考え方はもちろん正しいわけですが、しかし関節のルーズ/タイトな状態はウォームアップだけでコントロールできるものではありません。試合や練習で投げる日を逆算しながら、その2〜3日に少し投げて、肩関節を程よくタイトにしておくことで、パフォーマンスが向上しやすくなるだけではなく、肩の怪我も防ぎやすくなるんです。
先日、コーチングの合間に30分くらい時間が空いてしまったため、すぐ横で練習をしていた少年野球チームの練習風景を眺めていました。そこでは熱血お父さんコーチが指導されていたのですが、やはりいくら情熱があったとしても、野球動作に関し正しい知識を持っているお父さんコーチは非常に少ないようです。
スライダーを多投すると肘が下がりやすいとよく言われますが、これは本当なのでしょうか?!結論から言うと、イコールではありませんが、そうなる可能性は高いと言えます。特に股関節の使い方が浅く、逆に肩関節の水平内転動作が大きな投手はそうなる可能性が非常に高くなります。
少年野球でトップポジションの形を指導する際、手を上に挙げて手のひらを外側に向ける形を指導している方は今だに多いと思います。しかしこの形でトップポジションを作らせてしまうとパフォーマンスが低下するばかりか、肩肘を痛めてしまうリスクを大幅に高めてしまうことにもなります。
野球指導の現場で時々「体を大きく使って投げなさい」という言葉を耳にすることがあります。しかし体を大きく使う投げ方というのは、実はそれほど大きなメリットがないばかりか、ポジション問わず肩を痛める原因になることが非常に多いんです。野球指導者は決して混同してはならないんです、体を大きく使う投げ方と、体全体を使う投げ方を。