「ピッチングモーション」と一致するもの

投手は何千回、何万回もピッチングやシャドーピッチングをすることにより、投球フォームを作り、そして固めていきます。人間の体には運動習熟能力というものが備わっており、通常は2000回以上同じ動作を繰り返すことにより、その動作が体に染み込むようになります。ですがもし間違った形で運動習熟してしまうと、それを修正するためには2000回以上の反復により改善していかなくてはなりません。

例えば週末だけ野球をやっている選手の場合、週に100球投げているとします。すると20週間(約5ヵ月)で2000球に到達し、もしこの間ずっと同じ投げ方を続けていれば、その動作が20週間かけて体に染み込むことになります。つまり繰り返した運動動作を習熟するということになります。これはもちろん投球だけではなく、送球、守備、打撃、走塁すべてに言い換えることができます。

投球フォームを固める、とはよく言われることです。では運動習熟能力を使って投球フォームを固めるとは、具体的にはどのようなことを言うのだと思いますか?その答えは、「せざるをえない状況」を作る作業ということになります。これが上手くできた投手ほど、制球力や球威がアップしやすくなります。

「せざるをえない状況」とは、例えば腕の内旋・外旋を見た場合。テイクバックの最深部ではスローイングアームは最大内旋状態にあることが望ましく、そのためにはテイクバックの過程では腕を少しずつ内旋させていく必要があります。この時、テイクバックの前の段階の動作であるセット、もしくはワインドアップで両腕がしっかりと最大外旋状態にされていれば、テイクバックでは腕は内旋するしかなくなるわけです。

セットで最大外旋状態にされた腕を、そこからリラックスさせれば反動により放っておいても内旋するしかなくなります。この状況と、投球動作の動きを絡めていくと、セットで最大外旋状態にしておけば、テイクバックでは腕は内旋するしかなくなるわけなのです。この状況を作り出し、安定させることこそが、投球フォームを固める最大の目的なのです。

投球フォームを固める作業とは、ただ単に同じ動作をいつでも繰り返せるようになる、ということではありません。適切な動作最適な動作をいつでも体現し、ボールを投げられるようになることこそが投球フォームを固める、ということなのです。

並進移動に関してもそうです。ストライドレッグ(軸足ではない方の脚)を振り上げたら、そこから体を捕手方向に向けて並進移動させていくわけですが、オフバランスという状態を作り出すことにより、ストライドレッグを振り上げたら並進移動をせざるをえない状況にしてしまうわけです。そうすれば余計な力(二段モーションなど)を使ったり、不必要なオンバランス状態を作り出さなくても、並進移動せざるをえないだけに、脚を振り上げれば体が勝手に並進移動を始めるようになるのです。

投球動作にとって大切なのは、ひとつ前の動作です。フォロースルーの前はリリース、リリースの前はアクセラレーション、その前はコッキング、その前はテイクバック、その前はワインドアップ。前の段階の動作により、しっかりとせざるをえない状況を作ってあげられれば、投球動作は楽に進めていくことができるのです。投球動作を楽に進めることができれば、当然力む必要もなくなり、リラックスをした腕の振りで伸びのあるストレートを投げられるようになります。つまり先発完投タイプになれるということです。

ですので投球フォームを固めていく際は適切な動作、最適な動作を見つけ、その動作が発生せざるをえない状況を作るという意識で行ってみてください。そうすれば必ず、今まで以上にパフォーマンスが向上する投球動作を作り上げることができるはずです。

ワインドアップモーションやノーワインドアップから投げる際、軸足を最初からプレートと平行に置いてしまっている投手がいます。しかしこれは投球動作上は、決して良い足の置き方とは言えません。その理由は、軸足がベタ足状態になってしまうためです。

それでは、なぜベタ足が良くないのでしょうか?その理由は並進移動にあります。投手にとっての並進移動とは、ベタ足ではスムーズには行かないのです。そしてベタ足になるということは、軸脚だけで立った際にオンバランスになりやすくなります。するとワインドアップモーションと並進運動との繋ぎ目が上手く行かず、投球動作が何段階かに分離してしまうようになります。

投球動作は一連の動きである必要があります。投球動作は数々の動作が繋がり、一つの動作となるわけですが、その数々の動作はすべて滑らかに繋がっている状態でなくてはいけません。

しかしワインドアップした際、はじめから軸足をプレートと平行にしてしまうと、ベタ足になり、オンバランスになり、並進運動への移行がスムーズに行われなくなってしまいます。そしてこれをスムーズにするためには二段モーションにより動作のきっかけを与えてあげるしかありません。ですが現在二段モーションはルール上禁止されています。

ワインドアップ時、軸足のつま先は捕手方向にまっすぐ向けるようにしましょう。そしてステップする脚の振り上げが開始されるか否かというタイミングで、つま先を90°回転させるようにしてください。さらにこの時ベタ足にするのではなく、体重が足の裏の内側(親指側の側面全体)に乗るようにし、内転筋で立っているという状態にしましょう。すると並進運動への移行がスムーズになり、ボールの勢いも増していくはずです。

ちなみにつま先を90°回転させる際は、90°という角度が重要になります。必ずプレートと平行になるように、90°のポジションが取れるように練習を重ねてください。これが90°以上であったり、90°未満である場合、体が開いたり、逆にクロスステップになってしまうことがあり、球威をばらつかせるだけではなく、制球力の低下にも繋がってしまいます。

ですのでワインドアップやノーワインドアップで投げる際の軸足は、まずはまっすぐ捕手に向け、そこから90°回転させるようにしてください。この動作は投球動作のまさにスタート地点となり、想像以上に投球動作に影響を与えることがあります。頭ではなく体が覚えていくように、繰り返し何度もトレーニングするようにしてください。

2012年、埼玉西武ライオンズの大石達也投手のテイクバックが一時期注目を浴びていました。その理由はテイクバックをした右腕が、通常よりも大きく一塁側に入ってしまっていたからです。一見するとテイクバックが深過ぎるように見えてしまいます。野球中継の解説者のコメントを聞いていても、ほとんどの解説者はこのテイクバックの深さにダメ出しをしていました。ですが投球理論という観点から言えば、テイクバックが深過ぎるように見えること=悪い、という図式は成り立たないのです。

テイクバックというのは、ピッチングモーションにおいては助走ということになります。テイクバックからの反動を受けて、時速0kmのボールにエネルギーを与えていくことになります。ここで結論を言うと、テイクバックとしての機能がしっかり表れているのならば、テイクバック位置の深さはそれほど問題にはならないのです。

しかしテイクバックとしてそれほど機能せず、ただ遠回りしているだけの状態であるならば、やはり深さに関わらずそのテイクバックは改善する必要があると言えます。TeamKazオンライン野球塾では大石投手の細かい動作分析は行っていないため、ここでは詳細を書くことはしません。ですが深いテイクバック=悪い、ということではないということだけは明記しておきたいと思います。

深いテイクバックをした場合、そのスローイングアームをアクセラレーションの軌道に戻すのに大きなエネルギーを必要とします。肩甲骨と体幹それぞれに強さと柔軟性がなければ、深いテイクバックからストレスの少ない投球動作を実現させることは難しくなります。つまり肩甲骨と体幹に自信のない投手はテイクバックは深くせず、一般的な軌道でテイクバックした方が良いということになります。

肩甲骨と体幹が弱いのにテイクバックを深くしてしまうと、コッキング動作が窮屈になってしまいます。コッキング動作が窮屈になってしまうと肘がしっかりと上がらなくなり、ボールに伸びがなくなるどころか、最悪の場合肩や肘を痛めてしまうことにもなります。

反面肩甲骨と体幹に強さと柔軟性を兼ね揃えた状態でテイクバックを深くすれば、ストレートの軌道を高さ・横それぞれを水平に近付けることができます。まるで弾丸のような真っ直ぐな軌道で来るストレートは、打者からするとまったく距離感を計ることができず、タイミングを合わせることができなくなってしまうのです。つまり、非常に打ちづらいボールということになります。

深い位置まで持ってくるテイクバックは、使いようによっては大きな武器となりますが、使い方を間違ってしまうと怪我に繋がってしまうこともありますので、十分な注意が必要となります。テイクバックを含め、投球動作に不安のある投手は、TeamKazオンライン野球塾のビデオコーチングをご利用されてみてはいかがでしょうか。

投手にとってロードワーク(走り込み)というのは非常に重要なトレーニングとなります。特に長いイニングを投げることになる先発投手は、他の投手よりも多くの距離を走る必要があります。ですがここで間違ってはいけないのは、ただ長い距離を走ればいいということではない、ということです。つまり、毎日10kmずつ走っていたとしても、走り方を間違ってしまっては最良のトレーニング効果は得られないということです。では投手にとってロードワークの意味とは何だと思いますか?

まず第一に挙げられるのはスタミナです。しかしこれは以前の投手育成コラムでも書いた通り、ボールを投げるためのスタミナ強化ではありません。いくら走り込みをしたところで、投球スタミナをアップさせることはできないのです。では何のためのスタミナかと言うと、それはより多くの練習をするためのスタミナとなります。ロードワークで得られるのは基礎体力です。これは練習をこなすために必要なスタミナであり、投球スタミナとは別のものとなります。

そしてこのスタミナですが、週に1~2回走る程度では高い効果は得られません。スタミナというものを非常に簡潔に解説をすると、これは体内の毛細血管を増やすということになります。長距離を走ればたくさんの毛細血管が切れてしまいます。一度切れた毛細血管が再び繋がることはありませんが、ロードワークを毎日継続することで、毛細血管はどんどん新しく増えていきます。毛細血管は増えれば増えるだけ、基礎体力をアップさせてくれるのです。

基礎体力がアップすると、投球練習やバッティングピッチャーをしていても、そう簡単にばてなくなります。野球を上手くなるためには、反復練習が非常に大切です。その反復練習を数多くこなすために必要なのが、ロードワークによって得られる基礎体力というわけなのです。そういう意味で、投手にとってロードワークは欠かすことのできないトレーニングと言えるわけなのです。

さらにもう1点、ロードワークには大きな意味があります。投手はマラソン選手ではありません。ですのでタイムは計測する程度で、タイム自体を気にする必要はありません。気にするべくは、走っている時のフォームです。腕の振りと脚の動きがしっかり連動しているかどうか、これが非常に重要なのです。上半身と下半身の連動は、ピッチングモーションに於いては非常に重要な要素です。上半身と下半身が上手く連動していないモーションでは、伸びのある良いストレートを投げることはできないからです。

そこで意識して欲しいのが、走っている最中の肩甲骨と股関節(骨盤)の動きです。この2ヵ所を柔軟かつスムーズに動かし、動作が連動するように意識して走るようにしてください。走るという運動は、どのようなスポーツにとっても基礎の基礎となるものです。その基礎を大切にすることこそが、上達への第一歩となります。

言い方を変えると、走るというシンプルな動作で上半身と下半身を連動させることができなければ、ピッチングモーションという複雑な動作で上半身と下半身を連動させることはできないのです。

最後にまとめておきましょう。投手にとってロードワークをする際気を付けるべく点は、ほとんど毎日継続的に走ることと、上半身と下半身を連動させて走るということです。このポイントをクリアしてこそ、ロードワークで高い効果を得られるようになるのです。

ページ更新日:2022年10月15日

アーリーワークと早出練習は似て非なるもの

近年日本の野球界でもアーリーワークという言葉が定着してきました。しかしこのアーリーワークというものを、正確に理解して取り組んでいる選手、チームは少ないようです。先日僕は、埼玉西武ライオンズの1軍打撃コーチだった熊澤とおるコーチ(松井稼頭央監督のメジャーリーグ時代のパーソナルコーチ)にもお話を伺ってきたのですが、アーリーワークと早出練習は似ているようで、実はまったくの別物なんです。ちなみに日本球界で最初に本格的にアーリーワークを導入したのは、2008年に埼玉西武ライオンズで打撃コーチを務められたデーブ大久保コーチと熊澤とおるコーチでした。

現状では多くのチームで早出練習のことをアーリーワークと呼んでいます。チーム練習よりも数時間早くグラウンドに入り、ティーバッティングや特守で汗を流す、それをアーリーワークを呼んでいることがプロでもアマチュアでも多いようです。しかしこれは、厳密な意味ではアーリーワークではありません。純粋に早出練習というのは、英語ではアーリートレーニング、アーリープラクティスとでも呼ぶべきでしょうか。でもこのような言葉はあまり耳にはしません。ではアーリーワークとは本来何を意味するのでしょうか?!

アーリーワークはどう理解すべきなのか?!

僕自身、熊澤コーチにお話を伺い、自らでも学んだことなのですが、本来のアーリーワークとはコアトレ、つまり体幹トレーニングをするための時間のことなんです。チーム練習の開始時間よりも早くグラウンドに入り、チーム練習や試合で良い形で軸運動(投げたり打ったり走ったり)ができるように、コア(体幹)をしっかりとコンディショニングしたり、コアを起こしたりする作業、これが本来のアーリーワークの意味なんです。

コアトレーニングに関しては本屋を覗くと数え切れないほどの書籍が出版されていますし、プロのトレーナーの方が配信しているYouTube動画もたくさんあります。しかしその中で本格的に練習を頑張っているプロアマの野球選手が、コアトレーニングへの理解を正しく深められる情報量の多い本や動画は少ないようです。僕自身コアトレに関する本は何冊も読み漁りましたが、その中でも何度も読んで学びたいと感じた本は1~2冊程度でした。つまり何が言いたいかというと、正しい形でアーリーワークをこなしていくためには、アーリーワークという言葉の意味だけではなく、コアトレーニング法に関しても正しい理解が必要、ということです。

アーリーワークに取り入れたいアウフバウ

アーリーワークについてもう少し話を進めていきましょう。トレーニングに少なからず興味を持っている選手であれば、アウフバウトレーニングというドイツのリハビリ系トレーニングメニューについて聞いたことがあると思います。これを導入していくのもアーリーワークの時間帯が望ましいのです。

アウフバウとは簡単に言えば股関節のコンディショニング&強化トレーニング法です。これは動きそのものは静かで地味なのですが、本格的に取り組むとウェイトトレーニングよりもはるかにきついトレーニングとなります。日本の野球界では現役時代の工藤公康投手がアウフバウにより選手寿命を延ばし、さらには熊澤コーチのアドバイスによりアウフバウを取り入れたことで、メジャー時代の松井稼頭央選手は復調することができました。

アーリーワークでは肩甲骨、股関節、コアをしっかりと整えよう!

野球選手は比較的、肩に関しては神経質に考えたりしますが、しかし同じ臼関節である股関節に関しては無頓着な選手がプロでもまだ多いようです。肩関節と股関節は無数にある人体の関節の中で、この2つだけが回旋運動(内旋・外旋)をすることができます。言い方を変えると、肩と股関節に関しては回旋運動が加えられていることが、本来のメカニズムに則した動作だと言うことができます。

つまり、回旋運動のない肩関節・股関節の使い方は、本来人間が持っている体の構造を無視した使い方である言うことができ、これは故障を引き起こす大きな要因ともなります。現に野球肩・野球肘になってしまう選手のほとんどは、肩関節と股関節の内外旋を適切な順番で行うことができていません。

肩関節(厳密には肩甲骨)、股関節、コアを、しっかりと運動ができる状態にコンディショニング&強化する時間が、アーリーワークなのです。アーリーワークとは早出特打ちをする時間ではないわけなのです。本来のアーリーワークは、グラウンドに選手が寝そべって、リラックスをしながらコアトレをしたり、臼関節の可動性を高めることを目的とします。

これは切れないのこぎりと丸太の話によく似ています。切れないのこぎりで一生懸命丸太を切ろうとするよりも、切れないのこぎりを一度研いでから丸太を切った方が、はるかに効率良くしかもきれいに丸太を切ることができます。アーリーワークとはピッチングやバッティングのパフォーマンスを高めるための、のこぎりを研ぐ時間であると考えてください。

実は早出練習ではなかったアーリーワークの本当の意味

メジャーリーガーは上半身の強さだけでプレーしているという嘘

メジャーリーガーは筋肉が凄いからみんな上半身投げをしている、と考えている方は意外と多いのかもしれませんが、それは間違いです。中には元プロ野球選手である野球解説者であってもテレビやラジオでそう言い切っている方がいますが、その認識は完全に間違いであると断言できます。

MLBでは「日本プロ野球はAAAよりは上かもしれないけど、MLBには敵わない」と考えられています。実際そうだと思います。日本にやってくる助っ人選手のほとんどはメジャーに昇格できないマイナー選手で、中には韓国や台湾を経由してやってくる助っ人選手もいます。この現実を考えると、確かにNPBとMLBが本気でぶつかり合えば、NPBがMLBに勝つことは難しいでしょう。

なぜこのような話をするのかと言うと、日本では上述したように野球解説者であっても「メジャーリーガーは上半身のパワーでプレーをしている」と考えているからです。ですが冷静に考えれば、いくらパワーがあったとしても本当に下半身を使っていなければ、軸運動が安定することはないため、ピッチングでもバッティングでもパフォーマンスが向上することはありません。そのため上半身だけでプレーしているという認識は間違いだと言えるんです。

日米で下半身の使い方が違うのはマウンドの硬さが影響している?!

確かに下半身の使い方は、日本人投手とメジャーリーガーとでは異なります。それはマウンドの形状も関係しており、日本のマウンドは比較的柔らかいため、重心を下げられるだけ下げても足部に残ったエネルギーを解放しやすいんです。一方アメリカのマウンドは粘土質で、日本のマウンドよりもずっと硬いんです。そのため重心を下げ過ぎてしまうと足首への負荷が大きくなり、捻挫してしまうこともあります。一つの理由として、捻挫しないためにメジャーリーガーは重心を高くして、自然と足首に負荷のかからない投げ方を身に付けてきたわけなんです。

日本人の元メジャーリーガーで言えば、松坂大輔投手や和田毅投手は重心が低い投げ方をしていました。一方上原浩治投手や岩隈久志投手は重心をそれほど低くはしないタイプです(勝負球の種類の違いもありますが)。このタイプ分けも、メジャーで活躍できる日本人投手を探す一つのポイントになるのではないでしょうか。

では重心が高いのに下半身を使えていると言えるのか?はい、言えるんです。メジャーリーガーは、ボディスピンを鋭く作ろうとします。つまり体幹を使うということですね。メジャーリーガーは上半身と体幹を、日本人選手以上に使います。そのため上半身投げだと勘違いされるわけですが、しかしそれだけ上半身と体幹を強く使っても、軸がブレてしまっては意味がありません。つまり上半身と体幹を強く使ってもブレないようにする役割を、メジャーリーガーは下半身に課しているのです。メジャーリーガーだって、ほとんどの選手はしっかりと下半身をt使ってプレーしているんです。

一方日本人投手の場合は、外国人選手に比べると上半身や体幹は強くありません。日本のプロ野球で腹筋がきれいなシックスパックになっている投手はメジャーリーガーほど多くはありません。しかしメジャーリーグではシックスパックなど珍しくもなんともありません。

このような日米の違いからも、メジャーリーガーの体幹は、日本人選手にはないほど強くしなやかに鍛えられているケースが多いんです。だからこそボディースピンによって鋭く腕を振り、それによって強烈なボールを投げることができるようになります。メジャーリーガーが投げるあの強烈なボールは、決して腕力だけで生み出しているものではないんです。そもそも腕の太さだけでメジャーリーグで通用するボールを投げられるのならば、日本人投手だってもっと簡単にメジャーで活躍できるはずです。

欧米人は上腕三頭筋、日本人は上腕二頭筋が鍛えられやすい

さて、もう一点。上腕には上腕二頭筋と上腕三頭筋という大きな筋肉があります。日本人は上腕二頭筋を大きくしやすいのですが、上腕三頭筋は大きくしにくい人種なのです。欧米人はこの逆で、上腕二頭筋は鍛えにくく上腕三頭筋はよく鍛えられます。ちなみにアフリカ系選手は腸腰筋群を鍛えやすい人種だと、スポーツ科学の世界では言われています。

では上腕二頭筋と上腕三頭筋、ボールを強く投げるために活躍する筋肉はどちらだと思いますか?もうすでにおわかりかと思いますが、答えは上腕三頭筋です。投球時には90°程度に曲がった肘をある程度まで伸ばしながらボールを加速させてリリースしていきます。そこで曲がった肘を伸ばしていくのが上腕三頭筋の役割なのです。

上半身の強さでプレーをしている、という視点で見るならば、確かに上腕三頭筋が発達している欧米人の方が、強いボールを投げやすい体質だと評価することはできます。でももう一度言いますが、だからと言ってメジャーリーガーは上半身だけでプレーをしているということはありません。特にメジャーリーグでプレーするレベルにある選手たちは、下半身・体幹・上半身を本当にバランス良く使うことができています。だからこそ160km/hを投げるピッチャーがあんなにたくさんいるんです。そしてその一因になっているのがアーリーワークというわけなんです。

日本人選手も正しいアーリーワークを導入すべき?!

日本のプロ野球を少し穿った目で見ると「中年太りし出していても1軍で活躍できる」と言うこともできます(太っていても力士のように体脂肪率が低い選手は別)。中年太りしているということは、体幹はかなり弱いはずです。下半身で作り出したエネルギーは必ず股関節と体幹を経由して上半身へと伝わっていくため、体幹が弱ければ下半身で作られたエネルギーが上半身に上手く伝わって行かず、ボールは上半身の力で投げるしかなくなります。

僕がプロコーチとしてメジャーリーガーや日本の1軍選手の技術、フィジカルを観察していくと、意外と思われるかもしれませんが、日本の方が上半身主体でプレーしている選手が実際には多いんです。特に体幹の使い方の巧さに関しては、全体的に見えると日本人はメジャーリーガーにはまったく敵わないのではないでしょうか。メジャーでは、メジャーとマイナーを行ったり来たりしているレベルの選手であっても、下半身と上半身をバランス良く使えている選手がほとんどで、それを可能にするためにもアーリーワークに手を抜かない選手がとても多いんです。

日本のプロ野球がメジャーリーグの上を行くために必要なのは、身体を大きくすることではありません。アマチュア時代から、今まで以上に下半身・体幹・上半身をバランス良く連動させて使えるようになることだと僕は考えています。 特にアーリーワークによってコア、股関節、肩甲骨をしっかりと整えておくことは、プレーの質や軸の安定感を向上させるためにはとても重要な要素となります。そしてそれが安定してくれば、怪我のリスクを軽減させることにも繋がります。

アメリカに大きくお遅れをとっている日本球界の指導者たち

ワールドシリーズの覇者と日本シリーズの覇者が7戦4先勝のシリーズを戦ったら、日本が勝てる確率はかなり低いのではないでしょうか。もちろん僕も、メジャーリーグがすべて正しいとは考えていません。しかし現時点においては技術、フィジカル共に日本はアメリカよりも大きく遅れを取っています。

特にアマチュア指導者に関しては、日本は未だに30年以上前のやり方で教えている方が大勢います。しかし技術やスポーツ科学は進化し続けています。アメリカの少年野球チーム(リトルリーグ)には、各チームに1人ずつ、僕のようなプロコーチが派遣されているんです。ですので常に最新理論で子どもたちは野球動作を学ぶことができます。この日米の大差を見ると、まずはアマチュア指導者たち(ボランティアのお父さんコーチを含む)がその技術進化に追いつくところから始めるべきなのかもしれませんね。

なぜ夜練よりも朝練の方が練習効果が高まるのか?!

朝練のことをアーリーワークを呼ぶ選手たちもいますが、もちろん認識としてはこれは正しくありません。ですが気分を盛り上げるために朝練のことを格好良くアーリーワークと呼ぶのはありだと思います。そして野球を上手くなりたいのなら、絶対に朝練はすべきです。といってもこれは、根性論から言っているわけではありません。「朝練をしないような選手は上手くなれない!」と言いたいわけではありません。あくまでも科学的理論に基づいてのアプローチです。

なぜ朝練が良いのか?それはですね、寝起きというのは筋肉や関節がニュートラルな状態になっているからです。地球上で暮らす限り、人間の動きには常に重力が伴います。そしてその重力は朝起きて、時間が経てば経つほど身体への影響を積算させていきます。つまり、寝起きと寝る前とでは、筋肉や関節の状態はまるで違うということです。人間の一生に例えるならば、寝起きの筋肉が生まれたての赤ちゃんで、寝る直前の筋肉はお年寄りと表現することもできます。

その日のお年寄り状態である時間帯の筋肉は、寝起きと比べるとかなり硬くなってしまっています。それに伴い関節も詰まってしまっています。それは丸一日身体が重力にさらされることで、重力に対抗し終えた状態になっているからです。逆に寝起きの筋肉は、まだ重力にさらされていません。そのために一日の中で、筋肉や関節は最もほぐれた状態にあるわけです(ただし運動前には必ずウォームアップは必要です)。

関節が詰まった状態でのみ練習しても、最高の結果は得られない

このほぐれた状態で例えばシャドーピッチングをすることで、身体はスムーズに良いピッチングモーションを覚えていきます(マッスルメモリー)。逆に重力に対抗し終えた、関節が詰まってしまった状態でシャドーピッチングを繰り返しても、練習の効果は得られますが、最高の効果を得ることはできません。

そして朝は、一日の中で最も酸素濃度の薄い時間帯です。逆に夜は、最も酸素濃度の高い時間帯です。朝30分ジョギングするのと、夜30分ジョギングするのとでは、まったく効果が変わってきてしまいます。もちろん酸素の薄い朝に走った方が、心肺機能は高くなります。

早起きは三文の得とはよく言いますが、しかし野球選手にとっての早起きは三文どころか、もっともっと価値があるものなのです。ですので本気で野球を上手くなりたければ、朝練をする習慣を付けていただきたいのです。

そして土日にしか野球チームの練習がないような場合では、チーム練習前の早朝にアーリーワークによって体幹の強化やコンディショニングを行っておくと、午前中や午後の試合で良いプレーをしやすくなります。

腕や脚の筋肉に比べるとやや見落とされがちな体幹ではありますが、アーリーワークを継続的に行うことによって、下半身と上半身の連動性をさらに高めることができ、ピッチングでもバッティングでもパフォーマンスが向上しやすくなります。

逆にアーリーワークによって体幹が鍛えられていないと、せっかく下半身を使って大きなエネルギーを作り出しても、それが上手くボールやバットに伝わらなくなってしまいます。そうならないためにも、練習や試合前に行う本当の意味でのアーリーワークを継続していく必要があるんです。

野球動作はピッチングもバッティングも軸運動であり、ボディスピンの鋭さが球速アップやバットスウィングの速度アップに繋がっていきます。そしてその鋭さはよく鍛えられ、よくコンディショニングされた体幹なくして実現させることはできません。

ですのでもしアーリーワークを早出練習と勘違いしてしまっていた選手やチームは、ぜひここで正しいアーリーワークの行い方を知ってもらい、コアトレやアウフバウを行う時間としてアーリーワークを取り入れて行ってみてください。

試合の日は、例え試合開始時間が朝早かったとしても、遅くとも試合開始の4時間前には起きるようにしましょう。その理由は、体中のすべての神経が目覚めるのに、起床から3~4時間かかるためです。投手がマウンド上でベストパフォーマンスを発揮するためにも、体中の神経がすべて目覚めている状態でマウンドに登る必要があり、それがチームのエースとしての、最低限の義務でもあります。体が完全に目覚めていない状態でマウンドに登るという行為は、エースとしてはあまりにも無責任だと言えます。

アマチュア野球の場合、朝8時にプレーボールする試合も少なくはないと思います。その場合は4時には起きている必要がある、というわけですね。そうしなければ体中の神経が目覚める前にマウンドに登らなければならなくなります。では体中の神経が目覚める前にマウンドに登るとどうなってしまうのでしょうか?まず考えられるのが、コントロールがアバウトになってしまう、ということです。コントロールがアバウトになれば四球が増えるだけではなく、置きに行ったボールを痛打されてしまう可能性も高まります。つまり序盤の大量失点に繋がりかねない、ということですね。

そして次に考えられるのが、マウンド上での調整能力の低下です。強いチームのエースとなれば、マウンド上で微調整ができるようになります。例えば低目への制球が甘い時は、その原因を1イニング間で突き止め、次のイニングには修正することができます。ですがこれも、体がベストコンディションであることが大前提。いくら原因を正確に突き止めることができても、それを体現するために必要な「感覚」、つまり神経が目覚めていなければ、体を思うように動かすことはできません。

投手のコントロールは、リリースアングルが1°ずれただけで、ホームプレート上の通過点が大きく変わってきます。ピッチングモーションとはまさに精密機械で、肉眼では捉え切れないほどの小さな相違が、パフォーマンスに想像以上に大きな影響を与えてしまうのです。投手の制球力とは、「意識力」だと言われることがあります。つまり外角低めに投げるための動作など存在せず、「外角低めに投げる」と強く意識し、いつも通りの動作で投げることにより、ボールは外角低めに決まっていくのです。

ですがこれは高等技術です。いきなり意識だけで外角低めに投げ切ることは出来ません。最初はストライクゾーンを二分割し、外か内かを投げ分けましょう。それができたら今度は四分割し、外角低め、内角低めへと難易度を上げていきます。そしてこの「意識」でコースを投げ分ける高等技術も、体中の神経が完全に目覚めている状態でなければ実現させることはできません。

さて、こんな研究があるのをご存知でしょうか?人間は24時間の内、何時頃がもっともパフォーマンスが高まるのか?という研究です。これはつまり、体中の神経がしっかりと目覚め、それが何時頃パフォーマンスに完全に繋がるのか、ということです。あるアスリートが規則正しく7時に起床した場合、そのアスリートが最も自己記録を達成しやすいのは、23時だと言われています(空気中の酸素量なども影響しています)。つまり目覚めてから19時間後です。この研究結果を見るだけでも、試合開始ギリギリに起きているようではアスリート失格である、ということがよく分かりますね。

野球選手にとって早起きは三文の得などではありません。三文どころか一両、十両以上の価値があると思ってください。朝が弱い選手は、まずは朝に強くなれるような体質改善を心がけていきましょう。

ピッチャーが良いピッチングをするためには、しっかりと腕を振ることが何よりも大切です。しかしこれがなかなかできないピッチャーが非常に多いのが現実です。腕を振るためには、腕の力を抜いておく必要があります。腕の力を抜くからこそ、腕を振ることができるのです。逆に腕に力が入っていると、それは振っているのではなく、腕を回していることになり、肩痛・肘痛の大きな要因となります。

ピッチングの場合、力を抜いてただ振れば良いというものでもありまえん。いかにして遠心力をかけずに腕を振るかということが重要です。遠心力を軽減させるためには、腕をコンパクトに振る必要があります。腕を大きく振ろうとしてしまうと大きな遠心力がかかり、インナーマッスルに余分な負荷がかかってしまい、肩痛を引き起こしてしまいます。

ピッチング時の腕は、リリースの瞬間を迎えて初めて真っ直ぐ伸びます。そしてリリース後、再び肘が内旋しながら曲がりはじめます。腕に力が入っているかどうかの1つの目安がこれです。つまり、テイクバックからアクセラレーションにかけて腕が伸びてしまっている場合、それは腕に力が入っていると考えてほぼ間違いありません。

ピッチャーの肩は消耗品であるとはよく言われますが、それは腕に力が入ってしまっている場合の話です。腕の力を抜いて投げられていれば、よほど無理な投げ方をしない限りはかんたんに肩を壊すようなことはありません。

ピッチングはランニング同様、全身運動です。左右の腕、左右の脚、体幹、すべてを使って行なうべき運動です。にも関わらず上半身の力に頼ってボールを投げてしまうから、故障を引き起こしてしまうわけなのです。

ピッチャーは、ボールを握る側の腕は紐だと思い込んでください。紐には筋力も関節もありません。その紐をしっかりと振るためには、全身を使ってまずは紐を後ろ側に振り(テイクバック)、そこから骨盤で誘導するように前方へと引き戻します。大切なのは、後ろに振った紐を、前へと引き戻すようにして振ることです。これを鞭のように振り下ろしてしまうと、紐である腕は遠回りをしてしまい、肩関節に余分な負荷がかかってしまいます。

ピッチングの基本は、とにかく無駄な動きをできるだけ省くということです。ピッチングモーションから無駄な動き、余分な力みが減っていくほど、ボールには安定した切れが出てきます。つまり調子が良い時と悪い時の差が小さくなり、常時安定したパフォーマンスを発揮できるようになるわけです。

プロ野球のピッチャーでも、腕に力が入っている選手は大勢います。例えば150kmの剛速球を投げられても、力みがあるためにボールに切れが出ずに打たれてしまう、そんなピッチャーがプロにも大勢います。逆に130km台のストレートしか投げられなくても、力みがなければ切れのある良いボールを投げることができ、勝てる投手へと成長していくことができます。あなたが勝てる投手になるためにも、腕の力をしっかりと抜いて投球することを心がけてください。

右ピッチャーの場合「投げる時に左肩を開いてはいけない」とはよく言われることです。ではなぜ左肩を開いてはいけないのでしょうか?投げる時に左肩(左投げなら右肩)が開いてしまうと、まず右腕の動きが遅れ気味になってしまいます。つまり、肘がしっかりと肩線分(両肩を結んだラインの延長線上)に上がる前に投球をしてしまうため、肘が下がった状態でボールを投げなければならなくなります。

そしてデメリットはそれだけではなく、左肩が開いてしまうとボールがバッターから丸見えになってしまいます。するとどんなに速いボールを投げたとしても、対応されてしまいます。さらにはボールが引っかかりやすくなり、内角に投げたつもりのボールも外角に流れるようになり、制球力がつかなくなります。

ではどうすれば左肩を閉じることができるのか?

他の記事でも似たようなことを書きましたが、左肩を閉じるためには左肩をいじってはいけません。左肩の動きを修正するために左肩をいじってしまうと、フォームが崩れてしまい、長いスランプに突入してしまうことにも繋がります。ですので左肩を閉じるためには、胸郭を意識するようにしましょう。

胸郭とは、胸部にある骨のことです。胸郭にも僅かな可動性があります。胸を張れば胸郭は開き、胸をすぼめれば胸郭は閉じます。肩や肘関節のように目に見えた動きをすることはありませんが、意識をすることで小さな動きを制御できるようになります。ですがこれは難しいんです。できる人はすぐにできることもあるのですが、できない人は本当に3~4ヵ月かけてやっと意識できるようになります。

なぜ難しいかと言うと、ピッチングモーションの場合は左右の胸郭を同じようには動かさないからです。つまり、左を閉じている時は右を開き、右を開いている時は左を閉じなければならないためです。

テイクバックが最深部にある時点では左胸郭と閉じ、右胸郭を開きます。この時点でこの形を作れていれば、左肩は開きにくくなります。つまり左肩を開かないで投げるためには、この形を目指す、ということになるわけです。

ここからグラヴをはめた左腕を脇に巻き取り、右腕を振っていくわけですが、この動作に移行する流れの中で今度は左胸郭開き、右胸郭を閉じていくわけです。この形ができると、右腕が遠回りしにくくなり、不必要な遠心力により肩痛・肘痛を起こすリスクが低くなります。

さらに細かいことを言うと、ここにさらに両腕の内旋・外旋動作も関わってきます。ピッチングモーションは精密な動きがいくつも折り重なって成り立っています。だからこそピッチングモーションを作り上げるには、本当に長い時間を要するというわけですね。

ですのでピッチャーのみなさん、焦らずに少しずつ前進して行ってください。

ピッチングモーションは、いくつかのフェイズ(段階)に分けて考えることができます。例えば大雑把に分けただけでも、以下のように分けることができます。

①ワインドアップ / セットポジション
②レッグレイズ(脚の振り上げ)
③テイクバック
④コッキング(テイクバックした手をトップに持っていく動作)
⑤アクセラレーション(加速)
⑥リリース
⑦フォロースルー

 厳密にはもっと細かく分けて考えていくわけですが、分かりやすいように今回は7段階に分けてみました。この中で最も容易なのは①です。ワインドアップやセットポジションは、前の段階の動作が存在しないため、その分難易度が下がります。そしてフォロースルーに関しても、次の段階の動作が存在しないため、比較的難易度は下がります。

この7つの中で最も難易度が高いのは⑥のリリースです。リリースは、ここにたどり着くまでに最低でも5つの段階を踏まなければなりません。その5つの動きが安定していなければ、安定したリリースでボールを投げることもできなくなってしまいます。

ピッチングモーションを見ていく際、とにかく重要なのは前の段階の動作です。例えば②のレッグレイズならば①のワインドアップが重要になり、③のテイクバックであれば②のレッグレイズが重要になります。ピッチングモーションは動作の連鎖によって作っていくものです。つまり、①のワインドアップがきれいに決まらなければ、②のレッグレイズもきれいに決まりません。そして②のレッグレイズが決まらないということは、当然その悪影響は③のテイクバックに繋がっていきます。

つまり良いリリースでボールを投げるためには、良いアクセラレーションが必要で、良いアクラレーションを実現するためには良いコッキング動作が必要で、良いコッキング動作をするためには良いテイクバックが必要になる、というわけなのです。こうして読んでいただければ、⑥のリリースの難易度の高さを分かっていただけると思います。

例えばボールがどうしてもシュート回転してしまったり、スライダー回転してしまったりするピッチャーは、リリースポイントばかりを気にしてしまいがちになります。しかしリリースという瞬間は、アクセラレーションの結果動作であるため、いくらリリースポイントを気にしたところで、アクセラレーションを改善できなければ、ボールの回転もきれいにはならないということになります。

ピッチングモーションを作り上げる際は、ぜひこの順序を大切にいて、動作を逆算しながら丁寧に作っていくよう心がけてください。

僕は河川敷や公園グラウンドで学生チームの練習を見学するのが好きです。小中学生は元気いっぱいで、すべてが全力プレー。そういう姿を見ていると、こっちも元気付けられます。しかしそんな場面においても僕は職業柄、「そういう指導法は良くないなぁ」と思ってしまうことが多々あります。

ピッチャーにとって最も多い悪いフォームは、投げる時に肘が下がってしまうことです。その指導をされる際に、「肘が下がっているからもっと上げろ!」と指導する監督・コーチが多いように思います。しかしこの指導法は適切とは言えません。一流のプロ野球選手であっても、投げている時の肘の高さを、自らリアルタイムで把握することはできません。コーチに言われて、VTRをチェックして、初めて肘が下がっていることに気付くものなのです。

つまり、肘が下がっているかどうかなんて、投げている本人には分からないのです。その選手に対し「肘を上げろ」という指導をしてしまうと、本当に肘を上げてしまいます。肘は肩線分(両肩を結んだライン)の延長線上にあることが望ましいのですが、「肘を上げろ」という指導をしてしまうと、その肩線分よりも高い位置に肘を上げてしまうようになります。これは、肘が下がること同様に良くない状態ですので、注意が必要です。人間の体は、腕を肩よりも上に上げるようには作られていないのです。

ピッチングモーションは、ある部位の動きを改善させたい時は、他の部位を動かすことによって行うのがベストです。例えば肘が下がっているピッチャーに対しては、肘を上げろ言うのではなく、重心を低くして投げろと指導すると良いと思います。重心が低くなれば、肘の高さは相対的に上がります。つまり下がった肘を上げるには、肘を上げようとするのではなく、重心を下げることで肘の高さを調整するのがベストなんです。

しかし試合中、疲労した状態で下がってきた肘は、なかなか戻すことはできません。と言うのは、重心を下げるためには広いステップ幅が必要です。そしてそのステップを安定させるのは内転筋の役割。その内転筋が疲労した状態では、上手く重心を下げることはできません。先発ピッチャーの場合、これは1つの交代目処だと言えるでしょう。

肘の高さを調整するために肘そのものをいじってしまうと、フォームがぐちゃぐちゃになってしまい、自分のフォームを見失い、長いスランプに突入してしまいます。それを防ぐためにも、肘の高さを調整するためには、肘以外の部位を動かすことにより、肘の高さを調整することが重要になるのです。