Yahoo!ニュースで特集されていた監督の指導法に対する疑問
2023年4月から5月くらいにかけて、Yahoo!ニュースである中学硬式野球チームの監督が、「最新の指導法を学んでいる指導者」として特集されていました。しかしその監督のコメントを読んでいくと、とても最新指導法を学んでいるようには思えないことを話されていました。
結論から言うとその監督は、体重を軸足に乗せて打つとアウトサイドインになり、必ず手打ちになるという趣旨のことを仰っていました。そしてその監督曰く、しっかりと体重移動をして打つとインサイドアウトのスウィングになるのだそうです。しかしこれはまったく理論的ではありませんし、理論的には完全に間違いだと言えます。
このチームはこれまでに三回全国大会で優勝しているそうですが、監督が名将だからなのか、それとも集まった選手が最初から抜群のセンスを持っていたからなのかは僕には分かりません。
さて、この監督に言わせれば体重を軸足に乗せて打つとアウトサイドインになるとのことでしたが、毎年安定して成績を残しているプロ野球選手やメジャーリーガーたちのインパクトの瞬間の体の形をよく観察してみてください。体重をしっかりと軸足に乗せ切り、捕手側に上半身を傾けて打っている打者ばかりのはずです。大谷翔平選手ももちろんそうですね。
つまりこの監督は、このように軸足に体重を乗せて打っているプロの打者たちは手打ちであり、スウィングはアウトサイドインだと仰っているわけです。ちなみに体重を軸足に乗せて、上半身を捕手側に傾けてインパクトを迎える技術をステイバックと言います。
もちろん一流打者たちだって投手のボールに崩されれば体重が非軸足に流れて、スウェーしながら振ってしまうこともあります。しかしよほど崩されていなければ、体重をしっかりと軸足に乗せて打っているプロ野球選手やメジャーリーガーたちばかりです。
問題はこの監督がどのような方法で最新の野球指導法を学んでいるのかということ
この中学野球の監督は、上述した通り最新の指導法を学んでいる方として特集されていましたが、この監督はステイバックという技術をご存知の上でこのようなお話をされているのでしょうか?記事を読む限りではこの監督がステイバックを理解しているようには感じなかったのですが、もし本当にそうだとしたら、この監督は最新指導法など学んでおらず、自分自身の経験則において自己判断で最新だと思い込んでいるだけなのではないでしょうか。
この監督はしっかりと体重移動をすることによってスウィングがインサイドアウトになり、ヘッドも利いてくると仰っています。しかしインサイドアウトそのものに関しては、体重移動をしようがしまいが、インサイドアウトでバットを振ることは可能です。現に僕のマンツーマンレッスンで上達して打率.400以上をマークしている小中学生は全員、体重を軸足に乗せるステイバックという形でバットを振っています。
体重移動をフォームの中にインストールするかどうかは選手自身の判断であるため、体重移動をした方がヒットが増えるのであれば、体重移動をするウェイトシフト打法で打っていくべきだと思います。しかし打率が.300にも満たないのであれば、なぜ.300に届かないのか、どうすれば.400にしていけるのかを考え、それを可能にするステイバックなどのモーションをフォームの中にインストールしていくべきです。
ちなみに体重移動をするとバットスウィングが水平になりやすく、物理的に重力を使ってバットを振ることができず、腕力に頼ったスウィングになりやすいので注意が必要です。レベルスウィングに関しては、こちらの『レベルスウィングを徹底解説-メリットデメリットを学ぼう』をご覧になってみてください。
10年前の最新野球指導法は現代ではもはや最新とは言わない
最新の野球指導法というのは、常に科学的根拠を以って説明されるべきです。指導者個人の感覚や経験則で語るべきものではありません。例えば今まで昭和のやり方しか知らなかった方が、今から10年前に確立された技術をどこかで学び、それを選手たちに教えたとすれば、その指導者にとってその技術は最新となります。しかし僕らのように現段階での最新指導法を学んでいるプロコーチからすると、10年前に確立された技術はもはや新しくも何ともありません。
ちなみに近年新しく技術として確立されつつあるのが体幹主導型のスウィングです。例えば大谷翔平選手らのフォームがそうですね。もちろん体幹主導で振っていた選手は以前からいたわけですが、これがスポーツ科学として理論的に説明されるようになり、技術として確立されてきたのは近年のことです。
ただし体幹主導型のスウィングは鍛え抜かれた体幹力が必須となりますので、小中学生はもちろん、高校生や大学生でもマスターすることは困難です。そのため現段階では僕は、アマチュア選手には「体幹主導型のスウィングというものも存在する」という説明程度に留めており、実際にアマチュア選手たちにそれを指導することはありません。僕が現段階で体幹主導型のスウィングをコーチングするのはプロ野球選手のみです。
さて、日本のアマチュアチームの指導者たちの中にも、僕らプロコーチが学ぶようなことを頑張って学ぼうとしている方はたくさんいらっしゃいます。現に僕自身、これまでに多数のアマチュアチームの指導者の方に、子どもたちが怪我することなくピッチングやバッティングのパフォーマンスを上げていける指導法をレッスンしてきました。
そのような勉強熱心な指導者の皆さんは、全国大会に行けていなかったとしても、子どもたちに伸び伸びと怪我なく野球を楽しんでもらうことができています。そしてもちろん子どもたちはどんどん上達していき、中学や高校では名門チームのレギュラーになれた子も数多くいます。
子どもたちの肩肘を守るために本当に大切なこととは?
ですが、これはあくまでも僕個人の感想でしかないのですが、上でご紹介した中学硬式チームの監督は、最新の野球指導法などご存知ないように見えるのです。コメントを読んでいても、この監督の言葉には科学的根拠がまったくないからです。
全国大会に行っているから、元プロ野球選手だったから、社会人野球までずっと野球を続けていたから優れた指導者というわけではありません。優れた指導者とは、どんなレベルの選手であっても怪我させることなく上達させられる指導者のことです。
ちなみにこの監督のチームでは子どもたちの野球肘を防ぐために投球練習を少なめの球数に設定しているそうです。しかしこれは野球肘の予防とは言い切れません。なぜなら球数が多かろうと少なかろうと、肘が痛くなる投げ方をしていれば痛くなる子はすぐに痛くなってしまうからです。
野球肘の予防はもちろん無茶な球数を投げさせないことが大切ですが、しかしそれ以上に大切なことは、指導者が子どもたちに肘を痛めにくい科学的に本当に正しい投げ方を指導することです。ですが僕が調べた限り、この監督のチームに所属していた選手や保護者の方にお話を伺っても、そのような指導は見たことないと仰っていました。ちなみに僕の生徒さんの中にはこのチームに所属していた選手が数名います。そのため実際にお話を聞くことができたわけです。
このコラムのまとめ
ただし、もちろん記事の中には含まれていないこの監督の優れた指導法はたくさんあるはずです。ですのでこの記事はこの監督を全否定するためのコラムではありません。あくまでもバッティングの体重移動の有無とインサイドアウトに関するこの監督の説明が、まったく理論的ではないことを指摘しているだけです。
僕自身は、この監督が指導する中学硬式野球に所属していた選手たちを生徒さんに持っていますが、この監督自身とは面識はありません。ただしYahoo!ニュースで紹介されていたこと以外のこの監督の指導法を聞いていても、硬式野球なのに軟式野球の打ち方を教えているようだという印象を僕は持ちました。
この監督は野球教則本も執筆されている方なのですが、この方が自らの指導法を科学的にファクトチェックされているのかどうかは、僕には分かりません。しかし僕が知る限り4冊くらいは本を書かれている方なので、さすがに野球科学や物理は理解していると思いたいのですが、Yahoo!ニュースでのご本人のコメントを拝見する限りでは、僕個人はこの監督が野球科学を理解しているようには感じられませんでした。
しかしこれはあくまでも僕個人が感じたことですので、もしこの監督が普段、科学的根拠満載の指導をチームでされているのだとしたら本当にゴメンなさい!僕が間違っているようでしたら、このコラムはすぐに撤回いたします!
⚾️ カズコーチのオンデマンド野球塾
⚾️ カズコーチのオンデマンド野球塾を選ぶ3つのメリットとは?!
カズコーチの動作改善法は野球指導者、野球をするお子さんをお持ちのお父さんお母さん、 野球選手を治療するスポーツ外科の先生、理学療法士、柔道整復師、プロ野球選手など、多くの方にお役立ていただいてます!
【カズコーチのSNS】
Threads/ Instagram/ YouTube
カズコーチの最新レッスン動画
2024年12月10日公開『体全体を使ってボールを投げるフォームの教え方』