トミー・ジョン手術を受けると、最短でもマウンド復帰までは1年かかってしまいます。そして実際にパフォーマンスが安定するまでには2年かかるとも言われています。つまりこの手術を受けてしまえば、少なくとも1年間はプレーできなくなってしまうのです。それでもこの手術を受ける投手が後を絶たないほど、メジャーリーグでは肘痛を抱える投手が多いということなのです。
ではなぜメジャーではこれだけ肘を痛めてしまう投手が多いのでしょうか?それはメジャー球界の指導方法に理由があるのです。一般的にまだ複数年の結果を残せていない投手の場合、投手コーチからはとにかくスピードボールで打者のバットを押し返すようにと指導されます。つまりストレートを全力で投げて、力には力で勝て、ということです。これだけの全力投球を続けてしまえば、どんなに良い形で投げられていても肘は痛めてしまうでしょう。
日本の学生野球でも未だに、制球力が良い投手よりもスピードが速い投手の方がエースナンバーをもらいやすいという傾向があります。選手たちもそれを理解しているために、少しでも速いボールを投げようとし、全力投球を繰り返すようになります。するとそれが成長期の投手の体にとって大きな負担となってしまい、肩肘に疲労やダメージが蓄積され、例え中学生までは何ともなくても、高校・大学に進んだ時に一気に痛みが出てきてしまうようになります。
先日のコラムでは球数制限の目安を書きました。しかし球数制限だけで肩痛や肘痛を防ぐことはできません。投手個々の体に適した運動強度・運動量を監督・コーチがしっかりと見極め、その上で指導をしていく必要があります。全力投球というものも、これはいざという時だけ行うべきものです。例えば絶対に抑えなくてはならない場面の勝負球などですね。それ以外は8~9割程度の力で投げるのがベストです。もっと言えば7~8割で常時投げられればそれは更にベストです。
そして監督・コーチは、その力配分でも抑えられるような技術を子どもたちに指導していく必要があります。ちなみに、「スピードボールを投げられる投球動作=体に必要以上の負荷のかからない投げ方」という図式はほとんど成り立ちませんが、「制球力が良くなる投球動作=体に必要以上の負荷のかからない投げ方」という図式はほとんどの場合で成り立ちます。このような点も、特に成長期の子どもを預かっている監督・コーチは、しっかりと考えながら指導に当たる必要があるとTeamKazオンライン野球塾では考えています。
そもそも投手の役割とは、まず第一に走者を出さないことであり、第二に出した走者をホームインさせないことにあります。スピードボールを投げられたとしても、この役割を果たせなければ意味はないわけです。久しぶりに書きますが投手にとって大切なのは、「制球力>変化>球速」という図式です。これを忘れてしまうと、スピードばかりを追い求める故障のリスクを高めやすい投げ方になってしまいます。ぜひご注意ください。
コラム筆者:カズコーチ(野球動作指導のプロ/2010年〜)
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