「心技体」という言葉は、スポーツをする方なら誰もが聞いたことがあると思います。横書きで書くとあまりピンと来ないのですが、これを縦書きにしてみると、
心
技
体
となります。僕はこれを、一番上がピラミッドの頂点となり、最も難易度が高いと考えています。スポーツを極めるためにはまず、土台となる健康な体、病気や怪我をしない体が必要です。土台がしっかりしていない状態では、いくら練習をしても技を習得することはできません。そして最も難易度の高い心は、健康な体と確かな技術があってこそ、初めてピラミッドの頂点として成り立つものなのです。
近ごろはこのようなテーマに対し、間違った解釈をしている選手が非常に多いように思います。つまり、試合で結果が出せないことをメンタル(心)のせいにしてしまうのです。そして一生懸命メンタルトレーニングをしてしまう。しかしこれは僕に言わせれば、明らかに間違った取り組み方です。もちろんメンタルトレーニングや、イップスなどの心理療法を否定しているわけではありません。あくまでも、順番を間違ってはいけない、ということを僕は伝えたいのです。
例えば、ある試合に於いては良いピッチングができたのに、次の試合では四球で自滅してしまったというケース。これを、メンタルに弱さがあると考えてはならないわけです。例え両試合が予選と決勝ほどの意味の違いがあったとしても、それはメンタルに問題があるのではなく、単に技術が足りないだけです。別の例えとしては、練習でできることが試合ではできないというのも、これもメンタルではなく技術の問題です。
小学生の選手に対し親が、「お前は気持ちが弱いから試合で実力を発揮できない」などと言ってしまうと、子どもの脳裏にはその言葉が延々と残ってしまいます。すると「自分は気持ちが弱い」と思い込んでしまい、本当に気持ちの弱い選手になっていってしまいます。
特に小中学生の野球選手を抱える親御さんは注意してください。まずしっかりとご飯を食べ、健康な体を作り上げ、野球の楽しさを覚え、一生懸命練習し、上手くなることでさらに野球の楽しさを知り、技術はどんどん向上し、その確かな技術1つ1つが自分の中に自信を育み、試合においても安定したメンタルを保てるようになるのです。
つまりメンタルとは、健康な体と確かな技術があってこそ、初めて成り立つものなのです。言い方を変えれば、健康な体と技術のどちらかが欠けてしまっても、強いメンタルは成り立ちません。メンタルトレーニングや心理療法に時間を割く前に、まずは体が健康で、練習内容と技術向上のスピードが比例しているかをしっかり見直しましょう。
健康体、技術がない状態でメンタルトレーニングを行なっても、恐らく高い効果は望めないはずです。メンタルトレーニングは近年ますます充実してきています。その素晴しいトレーニングを最大限活かすためにも、健康体、そして一生懸命練習して身に付けた技術があるということを前提に取り組んでいくようにしましょう。
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