投手の肩にとって遠心力は最大の敵

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投手が肩を痛める大きな要因の1つに、遠心力があります。投手にとっての遠心力とは、ボールを投げるために腕をスウィングする際、腕が体から離れていこうとする力ということになります。これが実際に腕が体から離れてしまうと脱臼してしまったり、いわゆる野球肩と呼ばれる症状を引き起こしてしまいます。そして腕が体が離れていかないようにする力、つまり遠心力とは逆の求心力を生み出しているのが、ローテーターカフと呼ばれるインナーマッスルというわけなのです。

投手がインナーマッスルを鍛える意味がここにあります。投手は、時速0kmのボールを次の瞬間には140kmものスピードで投げなければなりません。それだけを考えても、投手の肩にどれだけ大きな負荷がかかっているのかがよく分かると思います。インナーマッスルが弱いと、肩はルーズな状態となり、脱臼もしやすくなります。肩が外れやすい選手は、インナーマッスルが弱いということが1つの大きな原因でしょう。

さて、時速0kmのボールを140kmで投げるということだけでも、肩には大きな負荷がかかります。それに加えさらに遠心力がかかってしまうと、肩はすぐに壊れてしまいます。投球時に遠心力を0にすることはできません。しかし0に近づけることは可能です。いわゆる「動きに無駄のないフォーム」がそれを可能にします。

プロのピッチャーをじっくりと観察するとよく分かるのですが、良い投手であるほど腕をコンパクトにスウィングしています。一昔前は「腕を大きく使って投げろ」という指導が主流でしたが、しかしこの指導は投手生命を縮めてしまうだけです。腕はできるだけこじんまりと振るべきなのです。と言っても、縮こまるばかりでは良いボールを投げることはできません。

腕のスウィングに関して無駄な動きのあるフォームと、無駄な動きの少ないフォームの最大の違いは、腕を弧で振っているか、直線で振っているかということになります。腕を弧で振ってしまうと、それは円運動になってしまうため、大きな遠心力がかかってしまいます。つまり水の入ったバケツを持って、それをグルグルと回し、その動作中にボールをリリースする投げ方です。これでは肩を痛めやすいばかりか、制球力も大きく低下してしまいます。

一方、直線で腕を振る動作というのは、弓矢のような動きです。矢をつがえ、弓を後方に真っ直ぐ引きリリースするような動きです。チョロQを思い浮かべるともっと分かりやすいかもしれません。チョロQを後ろにグッと引いて、パッと離すとチョロQは勢い良く走り出します。これこそが遠心力を最大限省いた、無駄のない動きでの投げ方ということになります。

チョロQ投げのメリットは、遠心力を最大限省くことで肩への負荷を大幅に減らせることです。そしてボールの進行方向に対し真っ直ぐ後ろ側に助走を与えるため、リリースポイントが安定し、制球力が大幅に向上します。ですがこの投げ方は、腕に力が入っていては絶対にできません。投球中に腕に力が入ってしまうと、肩肘を柔らかく使うことができなくなり、腕のしなりも生まれません。力が入り、肩肘がロックされた状態でボールを投げてしまうと、それは故障に直結してしまいます。

腕を体の近くで振れば遠心力を省くことは可能ですが、しかしそのためにはまず、腕の力を抜くことが必要です。投手が力を込めるべきなのは、ボールをリリースするその瞬間のみです。リリースする瞬間、その一瞬だけを指先に力を込めてボールを弾き出します(リストは使わない)。それ以外では、腕は常に脱力している必要があります。これができてこそ初めて力みや無駄の動きのないフォームでボールを投げることができ、切れのあるストレートを投げることが可能になるのです。

コラム筆者:カズコーチ(野球動作指導のプロ/2010年〜)
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