ジャイロボールとは本当に存在するのだろうか?僕自身、ジャイロボールの提唱者である手塚一志現楽天コーチの著書は何度も繰り返し読んできました。そして実際にジャイロボールを投げることにチャレンジしたこともあります。その結果至った答えは、ジャイロボールは存在するというものです。さらに正確な表現をすれば、ジャイロ回転を持つストレートを投げることは可能であると言うことができます。
僕も投手コーチをしていると、やはり「ジャイロボールを投げたい」という相談をよく受けます。しかしその度に僕は言います。「ジャイロボールを投げることを目的にしてはいけないよ」と。ジャイロ回転を持つボールであれば誰でも練習をすれば投げることは可能です。しかし試合で通じるレベルのジャイロボールを投げることは、非常に難しいと僕は考えています。
そもそもジャイロボールとはジャイロ回転を持ったストレートのことですが、ジャイロ回転とはドリルや弾丸のようなスパイラル回転のことです。通常のストレートはバックスピン回転がかかっています。自動車のタイヤの回転を思い浮かべてみてください。バックする時のタイヤの回転で前方へ飛んでいくのがバックスピンストレートです。そして同じタイヤの回転で、真横に飛んでいくのがジャイロボールです。
ジャイロボールの魅力は何と言ってもボールが受ける空気抵抗の小ささです。バックスピンストレートの場合、ボールの上部の空気抵抗は小さくなりますが、下部の空気抵抗は大きくなります。そのためスピンが弱いと、ボールはすぐにお辞儀してしまいます。しかしジャイロ回転の場合、ボールの進行面に対する空気抵抗が均等になり、一ヵ所だけ大きな抵抗を受けるということがなくなります。その結果バックスピンストレートと比べると、ボールがお辞儀しにくくなるというわけです。
ジャイロ回転のボールを投げることはとても簡単です。Xジャイロを使ってジャイロリリースを身体に覚えさせ、それができたらXジャイロをボールに握りかえれば良いわけです。しかしやってみると良く分かると思うのですが、Xジャイロの投げ方でボールを投げても、速いボールは投げることができません。投げられるのはあくまでもジャイロ回転を持ったボールです。これでは試合では通用しません。
上記の2枚の写真を見てください。これは両方ともストレートの握り方です。違うのは親指の関節が伸びているか曲がっているか。ほとんどのピッチャーは左の握り方でストレートを投げているはずです。しかしこの握り方ではリリース時に親指がボールのリリースを安定させてしまい、バックスピンにしかなりません。ジャイロボールを投げるためには右のように、親指を収納した状態でボールを投げる必要があります。しかしXジャイロは、右の握り方では投げられません。
ジャイロボールを投げるにあたり必要になるのは、リリース時に指でボールを握りつぶすような動作です。そのためにはリリース時に人差し指と中指が力強く曲がってくる必要があります。しかしこれは、左のように親指がまっすぐな状態では困難です。逆に親指を曲げることにより起こる連合反応を利用すれば、2本の指は力強く曲がりやすくなります。ですがやってみると分かるのですが、右の握り方でボールを投げるのは困難極まります。この握り方でボールを投げるためには、それこそ小学校低学年からの癖付けが必要になるでしょう。もし左に慣れているピッチャーが、いきなり右の握り方で強いボールを投げようとすれば、間違いなく肩を痛めます。
もし、右の投げ方でも力強いボールが投げられるピッチャーは、ジャイロボールを投げる資質は十分です。しかし普段左の握り方でボールを投げているピッチャーは、どんな一流投手であっても試合で通用するジャイロボールを投げることはできないでしょう(1シームジャイロなどの遅球は別です)。ちなみに僕は子どものころから左の握り方で投げているため、右の握り方ではいくら練習しても良いボールを投げることはできませんでした。
試合で通用するジャイロボールを投げることは、物理的に可能です。しかしそのためには、右写真の握り方で強いボールを投げられることが前提になると僕は考えています。そしてジャイロボールという概念に対し僕が思うことは、ジャイロボールを投げるということを目指すのではなく、ジャイロボールを投げられる可能性のある、良い投球モーションを作り上げるということです。ジャイロボールは、腕に力が入っていては投げられないボールです。いかに腕をリラックスした状態でボールを投げられるか、これが何よりも重要なことです。ボールを投げるにあたり力を入れるべくポイントは、リリースするその瞬間のみなのです。
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