大きな筋肉が投手の故障に繋がる理由

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僕は実際にコーチングを行う際、ピッチャーは大きな筋肉を持つ必要はないということを常々選手には伝えています。ピッチャーに必要な筋肉は大きな筋肉ではなく、強くしなやかな筋肉です。大きくて固い筋肉は、投手生命を縮めてしまいます。昔のピッチャーの写真を見てみてください。エース呼ばれたピッチャーは、ほとんど全員が細身です。それこそ、一般の方とほとんど変わらない体型です。しかしそれでもプロ野球のエースとして活躍できたのは、見た目以上に強い筋肉を持っていたためです。

ではなぜ大きな筋肉はピッチャーには必要ないのでしょうか?その理由は非常に単純で簡単なものです。まず人間の身体を大まかに9等分ほどにしてみましょう。すると、例えば体重80kgのピッチャーの場合の腕1本の重さはだいたい8.8kgです(目安)。僕に言わせれば、これでも十分に重い状態です。しかしこれが体重90kgのピッチャーだと、腕の重さは10kgにもなります。つまりボールを投げるたびに、10kgもの負荷が肩にかかっていることになります。いえ、厳密に言えばさらにボールの重さや遠心力などが加わってきますので、実際に肩にかかっている負荷は10kgなんてものではないわけです。

筋肉を増やすほど故障が多くなる1つの要因には、このことが挙げられます。1試合で100球投げるとすれば、10kg以上もの負荷が100回かかっていることになりますので、それだけでも肩にとってどれだけ負担になるかが良く分かっていただけると思います。

しかしこの考え方も、すべてのピッチャーに当てはまるわけではありません。そのピッチャーの身長であったり、体型によっても異なってきます。例えば170cmのピッチャーと190cmのピッチャーとでは、腕の長さ・重さが異なります。当然より重く長い腕を持った190cmのピッチャーの方が肩への負荷は大きくなります。これが、長身投手が肩を痛めやすい理由です。

さて、196cmという長身であっても例外的なピッチャーがいます。それは北海道日本ハムファイターズのダルビッシュ有投手です。ダルビッシュ投手は非常に特殊な体型をしています。196cmという長身でありながらも、175cmの僕と腕の長さがほとんど同じなのです。手の大きさに限って言えば、僕とまったく同じサイズなのです(指の太さは1mmくらいダルビッシュ投手の方が太い)。

つまりダルビッシュ投手のように、身長に対して腕の長さが短い場合、肩にかかる遠心力もその分小さくなります。それゆえに、筋肉を大きくしても負荷を小さく抑えることができているのです。ダルビッシュ投手の、身長1cmに対する体重は0.51kgです。ですがこの割合はダルビッシュ投手の特殊な体型だからこそ成り立つ割合です。一般的な日本人体型の選手であれば、この割合ではかなり高い確率で肩を痛めてしまうでしょう。

僕の身長は175cmですが、この身長で1cmあたり0.51kgにするには、89kgの体重が必要になります。175cmで89kgというのは、ピッチャーとしてはかなり無茶な体型になってしまいます。ちなみに楽天の田中将大投手が1cmあたり0.5kg、西武の涌井秀章投手が1cmあたり0.46kgとなっています。僕は、涌井投手くらいの0.46kgという数字が日本人ピッチャーにとっては理想の最大値なのかな、と考えています。1cmあたり0.46kgという数字を目指すなら、175cmの僕の場合は体重80kgということになります。

ただし、これらの考察はあくまでも目安です。ただ漠然とこの体重を目指しても意味はないわけです。つまり175cmで80kgを達成したとしても、体脂肪率が20%もあったり、上肢ばかりが筋肉質で下肢が痩身であれば、それはピッチャーにとっては無意味な数字となってしまいます。ですのであくまでも大切なのは、上記の数字を目安にし、バランスの良いボディメイクを行なうということです。そしてピッチャーにとって最も必要な筋肉は、腕でも肩でもなく、ふくらはぎです。僕の経験上、ふくらはぎが太く見えるピッチャーには良いピッチャーが多いんです。例えば180cmで65kgというスレンダーなピッチャーであっても、ふくらはぎが太く見えるピッチャーは活躍します。

つまり上肢は強くしなやかな筋肉、下肢は大きくて強くしなやかな筋肉、このバランスがピッチャーにとっては理想なのです。この理想の体型のことを、僕は「Aスタイル」と呼んでいます。試合で勝てるピッチャーになるためには、ぜひAスタイルを目指してトレーニングに励んでください!

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