コーチとして研究し続けたイチロー選手の打撃モーション

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イチロー選手が引退される日がついにやってきてしまいました。僕自身大好きな選手で、コーチになって以来、ずっとイチロー選手の打撃フォームや送球フォームの動作解析を続けてきました。ですが僕のコーチングの受講生たちにはいつも「イチロー選手の打撃モーションは真似しない方がいい」と言い続けてきました。

イチロー選手のモーションは非常に難易度が高いんです。イチロー選手のようなフォームで打つことはできても、普通の野球選手にはイチロー選手のようなモーションで打つことは難しくてできないと思います。体の柔軟性、幅広く使いこなせる筋肉、抜群の動体視力と鍛え抜かれた反射神経。それらがなければイチロー選手のモーションを真似することはできません。

背番号51は、きっと近い将来マリナーズの永久欠番になるのでしょう。ちなみにマリナーズで51番を背負った選手は2人しかいません。イチロー選手とランディ・ジョンソン投手です。

仮に、もし昨年も1年間プレーし続けていたら、もう少し長く現役を続けられたかもしれませんね。やはりほぼ1年間試合に出ないというブランクは、プロ選手にとってはまさに致命的だったと思います。生きたボールを打つための勘が鈍ってしまったのだろうなと、この春のイチロー選手のバッティングを見ていて僕はそう感じていました。

風邪をひいて1日休んだら、完全に元に戻すまでには3日はかかると言われているのがスポーツ選手です。でもイチロー選手は1日どころか、1年間試合に出ることができませんでした。決して体が衰えたわけではなく、打席で投手のボールを捕らえるための勘や感覚を元に戻せなかったのだと思います。体の衰えを引退の理由として語っている解説者の方も多くいらっしゃいますが、イチロー選手の体は30歳前後の一般的なプロ野球選手よりも、なお良い状態を維持できています。

個人的にはやはり51歳までプレーして欲しかった。でもイチロー選手の頭の中には、マイナー調整や日本復帰という言葉は一切なかったようです。僕はこのイチロー選手の哲学が好きです。一番上まで上り詰めたら、もう難易度を下げてまで野球を続けたくはないというプライド。

仮にイチロー選手が日本球界に復帰したら、打率3割前後は普通に打っていたと思います。日本人投手の平均球速はこの20年でほとんど変わっていません。しかしメジャーリーガーの平均球速は20年前と比べると10kph以上アップしているんです。目に見えた進化を続けているメジャーリーグと、明確に捉えられる大幅な進歩をあまり遂げていない日本のプロ野球。例えば高校球児が中学生チームに戻ってプレーをしたとしても、まったく面白くないわけです。高校生になったら大学野球やプロ野球を目指してこそ野球を本当の意味で楽しむことができます。

美学は人それぞれですが、僕は決して階段を降りなかったイチロー選手の哲学が本当に好きです。

僕がイチロー選手を初めて生で見たのは、西武ドームで初めて松坂大輔投手と対戦したあの伝説の試合でした。僕もその時西武ドームにいました。そして二度目はセーフコフィールド(現T-モバイルパーク)でした。

イチロー選手のバットを苦労して入手し、そのバットの研究をした日々が懐かしく感じられます。普通イチロー選手のバットをもらったら宝物にすると思うのですが、僕は自分で使うことによってそのバットの研究をすることにしました。コーチとしてのサガですね。今まで数え切れないほどのバットを試してきましたが、イチロー選手のバットほど芯が細いバットは振ったことがありませんでした。あのバットだからこそ、あの細身の体で軽々とスタンドインさせることができていたのだと思います。

バット1本取っても、イチロー選手のバットは普通の選手には使いこなすことは難しいと思います。イチロー選手のバットは篠塚選手のバットがベースになっているそうですが、非常に取っつきにくい性格を持ったバットなのですが、でも一度懐いてくれると完全な親友になれるタイプのバットです。ピアノでいうとYAMAHAではなく、Steinwayがまさにイチロー選手のバットのような性格を持っています。

イチロー選手のモーションは中途半端に真似すべきではないと冒頭で書きました。しかしイチロー選手の野球道具の扱い方に関しては、プロアマ問わず、すべての野球選手に見習って欲しいと僕は思っています。

イチロー選手、今まで本当にお疲れ様でした。そしてたくさんの感動をありがとうございました!!

WBCでの敗戦後、ダッグアウトで悔しさを隠すことなく吠えたイチロー選手の姿を、僕は生涯忘れないと思います。

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