投手はなぜ誰よりも走らなければならないのか

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広島カープの豊田清投手が「投手は走ることが基本。走ることができなくなったということで引退を決断した」という言葉を残し現役を引退されました。投手は走ることが基本とはいつの時代でも言われていることですが、それはまさに事実です。もちろんマラソン選手のように走れる必要はありませんが、しかし走ってもすぐにバテてしまうような投手は、投手として大成することはないでしょう。

アマチュア投手を含め、とにかくたくさん走っている投手は大勢います。しかし走るということを勘違いしている投手が多いこともまた事実のようです。つまり、走ることで投手としてのスタミナがアップするという考えのもと、走っているのです。しかしそれは誤りです。走るだけでは"投手としてのスタミナ"は強化されません。

人間は走ることによりスタミナは間違いなくアップします。しかし人間としてのスタミナと、投手としてのスタミナは別物だと考えてください。まず人間は毎日継続して走る(有酸素運動)ことで、毛細血管を増やすことができます。毛細血管は運動をして、一度切れてしまうと決して元には戻らないわけですが、継続的な有酸素運動により、毛細血管そのものの数を増やすことが可能です。そしてその増えた毛細血管が疲れにくい、代謝の良い体を作り上げるわけなのです。ですがこれだけでは投手のスタミナがアップしたことにはなりません。

投手にとってのスタミナとは、長いイニングを投げても球威が衰えない体力のことを言います。つまり実際にたくさんのボールを投げなければ、投手としてのスタミナは強化されないのです。いくら走ったとしても、投手としてのスタミナはつきません。ではなぜ投手は走らなければいけないのか?それは、たくさんのボールを投げるという練習に耐えうる基礎体力を強化するためです。そうなのです、走ることで身につくスタミナは基礎体力のことなのです。

誰よりも高い基礎体力を持つことで、練習で200球300球(キャッチボールなども含め)を投げても徐々にへこたれない状態となります。そして定期的、継続的に200球300球を投げ続けることで、ボールを投げ続けるという投手としてのスタミナが強化されていくわけなのです。

逆に基礎体力がない状態でたくさんのボールを投げようとしても、100球に満たないうちに体は疲弊し、安定した動作でボールを投げることができなくなります。不安定な動作で不安定なボールを投げ続けても意味はありません。投手としてのスタミナは、安定した動作で安定したボールを投げ続けることで、初めて強化されるものなのです。そのためにも投手は人一倍走り、人一倍高い基礎体力が必要になるというわけなのです。

また、走ることは基礎体力だけではなく、精神的体力も鍛えることができます。やはり10kmも20kmも走るという練習は、精神的にきついものです。そのきつさに耐えていくことで精神的に強くなり、マウンドで打者と対峙しても気持ちで負けないようになります。

練習で300球投げられたとしても、試合で100球投げられるとは限りません。なぜなら試合はいつでも打者と対峙して投げなければならず、時には大ピンチを背負いながらの投球となります。すると精神的疲労が溜まり、それが投手としてのスタミナをどんどん消耗していってしまうからです。精神面から来るスタミナの消耗を軽減するためにも、走って走って精神力を強くすることも、投手には求められているのです。

投手にとって走ることは何よりも重要なトレーニングです。しかしそれも理解の浅いまま惰性的に行なっても高い効果は得られません。なぜ投手は走らなければならないのか?その理由をしっかりと理解した上で、しっかりと目的を持ち、適切な走り方で走るようにしましょう。適切な走り方とはつまり、リズムの良い動きで呼吸を整え、かかとの真ん中から着地し、足の裏の内寄りを経由し、母指球から走行方向に対し平行に足を抜き、またかかとから入れていくという走行フォームです。バタバタ、ドタドタ走ってはいけません。タッタッタッとリズム良く走るようにしましょう。そして最初は5分でも10分でも、1kmでも2kmでも良いのです。そこから徐々に伸ばしていけば良いのです。ぜひ今日から走る意味を理解した上で、目的意識を持って走るようにしてみましょう。

なお余談ですが、風の冷たい日に走り終わった肩を触ってみてください。肩のやや後方が暖かくなっているはずです。ということは走って腕を振っていると、肩の強化もできるということになるわけですね。投手にとって走るというトレーニングは、まさに一石二鳥以上の価値のあるトレーニングになるわけなのです。

コラム筆者:カズコーチ(野球動作指導のプロ/2010年〜)
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