投手にとって大胸筋は、本当に必要ない筋肉なのか?

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「大胸筋は投手にとっては邪魔になるだけ」と書かれた文献は、意外と少なくありません。確かにこれは誤りではありません。でも僕は、これがすべてではないと考えています。例えば大げさな話、大胸筋がまったくなかったらどうでしょうか?当然体はバランスを失ってしまい、強いボールを投げることはできなくなってしまいます。つまり大胸筋は、まったく必要ないのではなく、必要以上の量は必要ないというのが、正確な表現ではないでしょうか。

ではなぜ、大胸筋は投手には必要ないと言われているのでしょうか。その理由は非常にシンプルです。ボールを握った腕を強く振る際、大胸筋が発達し過ぎていると、腕の動きの邪魔になってしまうのです。つまり振ろうとする腕が大胸筋とぶつかってしまうことで、肩関節を支える筋肉が、余分に引っ張られるなどの現象が起こり、肩に炎症を起こしてしまう可能性が出てきます。さらには強過ぎる大胸筋により、テイクバックの可動域が制限される、ということも考えられます。以上のような点から、投手には必要以上の大胸筋は必要ないということが言えるわけなのです。

でもだからと言って、大胸筋をまったく鍛えないという考え方は極端過ぎます。なぜなら、胸郭の動きは投球動作において非常に重要であるからです。右投手の場合、テイクバックでは右胸郭を開き、左胸郭を閉じます。そこからリリースに向かうにつれ、左胸郭を開き、右胸郭を閉じていきます。これが投球動作における、理想的な胸郭の動きとなります。この時胸郭の骨格を支える大胸筋などの胸部の筋肉が弱過ぎると、この胸郭の動きに体が耐えられなくなり、最悪の場合は胸部の骨にヒビが入ってしまったりします。

一般的な動作で大胸筋が使われる場面は、胸の前で重い荷物を持つ時などです。この動作をする際、最も大胸筋が活躍します。これを打者に言い換えると、胸の前で握ったバットで力強くボールを打つという動作に当てはまります。ですが投手の場合は、大胸筋を最大限に活かすための動きは投球動作内にはほとんど見られません。

ですが、肩甲骨を背骨にしっかりと引き寄せるようにして、テイクバック動作を取ってみてください。そして反対の手で、胸を触ってみてください。胸部の筋肉がテイクバック方向に引っ張られているのが分かると思います。つまり投球動作において、胸部の筋肉群がまったく使われていないというわけではないのです。

投手というポジションであれば、外国人スラッガーのような分厚い胸板は必要ありません。しかし力強い投球フォームを実現するためには、ある程度の強さを持つ大胸筋は必要です。目安としては、最低でも腕立て伏せを12回3セット以上できるレベルは必要ではないでしょうか。

その腕立て伏せも、床に手をついて行なう普通の腕立て伏せはお勧めしません。スポーツ用品店に行くと、腕立て伏せ用のバーが1000~2000円で売られています。できる限りこのバーを使って腕立て伏せを行なうようにしましょう。その理由は、バーを使わない腕立て伏せだと運動幅が狭い分、可動域の小さい筋肉になってしまうためです。しかしバーを使い、肩甲骨の筋肉までしっかりと使い、深い運動幅で行なうことで可動域の大きな柔軟性のある筋肉を作ることができます。

そして腕立て伏せを行なった後も、必ずストレッチを行なってください。胸、上腕二頭筋、三頭筋、前腕、手首、指をしっかりとほぐしてください。そうしなければ、いくらバーを使った腕立て伏せをしても、硬い筋肉になってしまうことになります。

筋力トレーニングで大事なことは、局部的に鍛えないということです。腕立て伏せ1つ取っても、腕の幅を変えるだけで色々な箇所を鍛えることができます。胸部にもいくつかの種類の筋肉がありますので、その胸周りの筋肉を、満遍なく刺激し鍛えるようにしてみてください。

コラム筆者:カズコーチ(野球動作指導のプロ/2010年〜)
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