もっと簡単に0ポジションを理解するための説明があります。それはボールをリリースする瞬間に、①投球する腕の肘、②投球する腕の肩、③反対側の肩の3ポイントが、一直線に繋がる瞬間のことです。この線が前後左右上下に折れ曲がってしまうと、それは0ポジションではなくなります。
そして肘が下がっている状態とはつまり、両肩を結んだ直線の延長線よりも肘の位置が下に来ていることを言います。リリース時の肘は上がり過ぎてしまってもいけないわけですが、しかし上がるよりは下がる方が体への負荷は大きくなります。
ボールをリリースする際に最も体への負荷が大きくなる形は、肘が下がり、更に真上から見たら両肩を結んだラインよりも肘の位置が後方にある状態です(大袈裟に言うと上腕が後ろ斜め下を向いてしまう形)。このように縦でも横でも肘がマイナス位置でボールをリリースしてしまうと、体への負荷は最大限に高まってしまいます。一般的に見ていくと、おおよそ20%の現役投手がこのような形で投げ、そのうちの約50%が肩への痛み(肘は除く)を経験しています。つまり投手が100人いたら、そのうち10人は肩肘を痛めているという計算になります。
ちなみにリリース時に0ポジションを取れている投手は、一般的に見ていくと15%にも満ちません。つまり投手100人中少なくとも85人は0ポジションができていないということになります。
0ポジションというのは、その言葉や理屈を理解することは簡単なのですが、実際に投球動作内に発生させるとなると、これはなかなか意識してできるようなことではありません。適切な知識を持ったコーチに傍に立ってもらい、その上で改善方法のアドバイスを受けるしかありません。トッププロであっても、自ら意識して0ポジションの形を取れる選手はいないのです。
0ポジションとは、その瞬間にこの形を作ろうとしても作れるものではありません。つまり0ポジションを作るためには、それ以前の動作が適切である必要があるのです。それが適切でなければ、0ポジションを実現させることはできません。
ちなみに人体の構造を踏まえた上でこの0ポジションを考えていくと、実は完全に両肩と肘が一直線になるわけではないのです。最も肩への負荷が少ないとされる0ポジションの形は、水平方向に5.5°内転(前へ出る)、垂直方向に2.2°内転(下に下がる)している形だと言われています。
これだけ細かい数字となりますので、実は肘が下がっているかどうかは肉眼ではほとんど正確に知ることはできないのです。もちろん10°や20°下がっていればそれは肉眼でも分かるわけですが、5°程度では投手の真後ろに立ってじっくりと観察しない限り、肉眼では分かりにくいのです。だからこそわたしたちのようなピッチングの専門家であるコーチは、必ずハイスピードカメラを立てながらコーチングを行うのです。ハイスピード映像(スーパースロー映像)であれば、肉眼や通常の映像では確認し切れない動作まで確認できるようになります。
繰り返しますが、0ポジションとは自分で意識して形作れるものではありません。それをしようとしてしまうと投球フォームを崩してしまう危険性が高まりますので、十分ご注意ください。
コラム筆者:カズコーチ(野球動作指導のプロ/2010年〜)
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