時速0kmのボールを、体一つで140kmものスピードまで加速させる動作がピッチングです。約145gの重さを持つ硬式球にこれだけのエネルギーを加えるピッチングという運動は、それだけでも大きな負荷が体に加わることが容易に想像できると思います。さて、時速0kmのボールを140kmまで加速するためには、主に3つのエネルギーが活躍していることをご存知ですか?1つめは反力エネルギー。これは重力のある地球だからこそ得られるエネルギーであり、地面からの反力を利用してエネルギーを生み出します。
2つめは位置エネルギー。これは高さです。右投手なら左脚、左投手なら右脚を振り上げて投げるわけですが、この時の振り上げた高さが高いほど、大きなエネルギーを生み出すことができます。ちなみにヒールアップ投法の場合、踵を浮かせる分さらに大きな位置エネルギーを得ることができます。そして3つはめ並進エネルギーです。これは二塁方向から、ホームベース方向に向かって体を移動させることによって生み出されるエネルギーです。ピッチングでは主に、この3つのエネルギーが活躍しているわけなのです。
さて、もう一つ回転エネルギーという言葉を聞いたことがあるでしょうか。一昔前は腕を大きく振る(回転させる)、腰を鋭く回転させることにより強いボールを投げると教えられていました。しかしTeamKazオンライン野球塾では回転という言葉は使わないようにしています。なぜならピッチングとは本来、体の回転、すなわち遠心力を使って行うべく運動ではないためです。
「腕をムチのように使ってボールを投げろ」とは今も昔も言われることであり、これは非常に正しいアドバイスです。さて、そのムチですが、これは回転によって使うものではありません。真正面に放ち、それを強く引き戻す前後運動によって強力な打撃を与えることが可能となります。つまりハンマー投げのような遠心力を使ってしまうと、ムチは本来の威力を発揮することができないのです。
ピッチングにおける腕も同様です。遠心力を使って投げようとしても、なかなかボールを思ったところに正確に投げることはできません。それどころから、せっかく反力、位置、並進運動によってたくさんのエネルギーを生み出しているにも関わらず、腕に力みを加えてボールを投げてしまうことにより、それらのエネルギーを上手くボールに伝えることができなくなってしまいます。すると球威を上げるためにさらに上体の筋力(肩や腕、胸の筋力)に頼ってしまうようになり、球威が上がるどころか肩肘を酷使してしまう結果となります。
腕をムチのように使う、という考えは正解です。ではどうすれば腕をムチのように使えるのでしょうか?その方法は簡単です。まず腕を1本の紐だと思ってください。筋肉も骨も何もない紐です。ということは、ただ立っているだけではダラリとぶら下がっている状態になりますよね。その状態から、下半身で体を前後させることにより、先にボールが括り付けられた紐を二塁方向にテイクバックさせてください。
そしてテイクバックが最深部に達した瞬間、やはり下半身を使い体を前後させることにより、今度はホームベース方向へと反動を使うイメージで放ってください。
ピッチングにおける腕は回転運動ではなく、直線運動に近い状態で行うものなのです。テイクバックからコッキングを行うと、ボールはトップの位置に来ますよね。そのトップの位置と、キャッチャーミットを1本の見えない糸で結んでください。そしてその糸を沿っていくようにボールを投げてみてください。
・・・ちょっと難しいですよね。よく公園にあるターザンロープをご存知だと思います。そのターザンロープを、ゴール地点からスタート地点にテイクバックの反動を使って投げる動作をイメージしてみてください。その時の動作こそがピッチングにおける理想形なのです!
もし近所にターザンロープのある公園があれば、ぜひターザンロープを投げることにより、理想の投げ方を体得してください。
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