重いストレートと軽いストレートの差はどこにある?!
議論の話題になることも多い、重いストレートと軽いストレートの球質の差。果たしてどうすれば重いストレートを投げることができ、どうなるとボールは軽くなってしまうのでしょうか。僕がレッスンを担当するオンライン野球塾でも同様の質問をよく受けるため、今回の投手育成コラムでは、この球質の差について書き進めていきたいと思います。
サッカーでは可能でも野球では不可能な無回転ストレート
以前テレビ番組で特集されていたこともあるそうですが、マシンを使ってバックスピンをかけたボールと、無回転の同じ球速のボールを打った時、無回転のボールを打った時の方が、打者は遥かに球質が重く感じられたそうです。確かに同じ球速であれば、回転がかけられたボールよりも無回転の方が重いのでしょう。しかし実際の競技に置き換えると、この実験はあまりにも現実的ではないと言えます。サッカーなら可能であっても、野球のピッチャーが無回転のストレートを投げることは不可能です。無回転ストレートとは、野球ではつまりはフォークボールのことだからです。
無回転のボールの方が球質が重くなるのならば、同じ球速であるならばRPS(1秒間あたりのボールの回転数)が40を超えるボールよりも、30のボールの方が重いということになります。ですが実際のパフォーマンスに於いては、30RPSの145km/hのストレートよりも、40RPSの145km/hのストレートの方が遥かに打ち辛く、打者はその球質を重く感じるようになります。
藤川球児投手の火の玉ストレートは最上級の重さ!
例えば全盛期の藤川球児投手の火の玉ストレートのRPSは45(RPMなら2700!)となり、バックスピンの傾きも5°程度の小ささで、このボールの初速は149km。藤川投手は渡米前の阪神タイガース時代、年間で1~2本しかホームランを打たれないシーズンがほとんどでした。つまり藤川投手のボールは、それだけ遠くへ飛ばすことが難しい重いボールだったというわけです。
ちなみにメジャーリーガーでトップクラスの回転数の投手でも平均値は2600RPM台後半です。藤川投手のストレートがいかに凄まじかったのかがよく分かりますね!
回転数が多いとストレートが重く感じる理由
パワーとは、重さ×速度で計算することができます。ですが同じ重さのボールを同じ速度で投げていても、投げる投手によってそのボールの打者が感じる重さは変わってきます。するとやはり影響してくるのは、ボールの回転数ということになります。
ボールをより遠くへ打ち返すためには、硬式野球の場合は打球にバックスピンを与える必要があります。つまり投手が投げたバックスピンストレートの回転方向を、真逆に変えるということですね。
カーブやスライダーなどはトップスピンに近い回転が投球時に与えられているため、打者からすると打球にバックスピンをかけやすくなり、ジャストミートされると長打を打たれやすくなります。だからこそ変化球は打者が打球をコントロールしにくい、バットから遠い低めに投げる必要があるわけです。
一方バックスピンストレートは、回転方向を変えることができない状態のまま打ち返すと、打球はゴロになります。こうして考えると球質の重いストレートというのは、投手が投げたバックスピンストレートを、バットで打って回転方向を真逆に変えにくいストレートである、と定義することができます。
- ピッチャーにとってのバックスピン=バッターにとってのトップスピン
- バッターにとってのバックスピン=ピッチャーにとってのトップスピン
重いストレートはこういう理由で重く感じる
18.44mという距離において実際のパフォーマンスを観察すると、その分かれ道は40RPSより上か、下かということになるのではないでしょうか。ボールがこの距離の間で1秒間に40回転以上するバックスピンストレートだと、打者がバットを使って回転方向を真逆に変えることが難しくなります。すると打球に鋭いバックスピンをかけることができず、マグナス力を使えないために飛距離は短くなり、ボールの回転方向を変えにくい分、打者はその変えにくさを「重い」と感じるようになるのです。
一方18.44mの間で33回転/秒しかしない、一般的な投手が投げる一般的なバックスピンストレートの場合は、打者がバットを使ってボールの回転方向を真逆に変えやすく、打ち返した打球にバックスピンがかかることにより飛距離が伸び、打者はそのボールを、回転方向を変えやすい分「軽い」と感じるようになります。更にバックスピンストレートの回転角度が傾き、サイドスピンに近付くほどボールに働くマグナス力(ボールを浮揚させようとする力)が低下し、伸びのないミートしやすいストレートになってしまいます。
もし150kmのジャイロボールを投げられれば最強!
一時期ジャイロボールが注目されていましたが、ジャイロ回転で150km/h近いストレートを投げられれば、それは最強のボールになるかもしれません。しかし現実的にはその球速でジャイロ回転のストレートを投げている投手は皆無です。つまり投げること自体がほとんど不可能なのです。アンダーハンドスローの投手ではジャイロ回転のボールを投げているプロ投手も実際に存在していますが、しかしその球速は速くても130km/h前後となり、パワーボールと呼べるほどの威力は持っていません。
物理学的に考えるのではなく、現実的に考えた場合、野球のピッチャーが無回転のストレートを投げることはできません。ナックルボールが最も無回転に近いボールとなりますが、ナックルの握りで140kmを超えるストレートを投げることは不可能です。そもそもナックルボールもフォークボール同様、ストレートではありません。これが絶対条件としてある限り、重いボールを投げるために必要なのは18.44mの間に、ストレートに1秒間あたり40回転以上のバックスピンを与えることが必要、という結論に至ります。
物理学的に重いストレートを数値化するためには?!
逆に軽い球質のストレートとは、18.44mの間で35回転/秒を下回るバックスピンしかかかっていないボールということになります。ただしボールを重く感じたり軽く感じたりというのは、これは実際にそのボールを打った打者たちの感覚の話でしかありません。本当の意味で物理的に球質の重さを計算する場合、(1)ボールの重さ、(2)ボールの速度、(3)ボールの回転数、(4)ボールの回転軸の角度、(5)ボールの軌道の縦と横の角度、(6)ボールとバットがぶつかり合う角度など、最低でもこれだけの要素を見ていく必要があります。ですがこのような見方は、プレーをしながら行うことは不可能です。
だからこそ僕がレッスンを行うオンライン野球塾では、18.44mの間に40回転以上バックスピンするストレートを重いストレートだと定義し、35回転を下回るストレートを軽いと定義し、その中間の回転数にあるストレートを一般的なストレートと定義した上で、重いボールを投げられるように毎日レッスンを行なっています。
※ ただし小学生や軟式野球の選手に対しては難易度を下げた、もう少し違うアプローチによるレッスンとなります。
もしこの投手育成コラムを読まれている方が長打を打たれにくい、重い球質のストレートを投げることを目指しているのならば、1秒間で40回転以上バックスピンするストレートを投げられる投球動作を、キネティックチェーンというスポーツ理論(下半身から上半身へと動作を連動させていくためのスキル)を踏まえながら作り上げていってください。
藤川球児投手と松坂大輔投手の直球の差とは?
ちなみに「キネティックチェインが不適切な投球動作+バックスピンの傾きが大きいストレート」である場合、40回転を超えるストレートを投げることはできません。どんなに大きくてもバックスピンの回転軸は10°以内の傾きで抑える必要があります。藤川球児投手は前述した通り5°の傾きで、45RPSのストレートを投げることができますが、10°傾いている松坂大輔投手の場合は41RPSに留まっています。
長打を打たれないボールを投げることは、投手ならば誰もが求めることですよね。そんなボールを投げられるようになる投球動作を作り上げるためにも、ぜひ本気で僕のZOOMレッスン野球塾を受けてみてください。 毎日レッスン中です!