このコラムで以前、「制球力>変化>球速」という図式が最も大切だと書きました。例えば150kmのストレートを投げられたとしても、思ったところに投げることができなければまったく意味はありません。逆に120km台のストレートしか投げられなかったとしても、緩急を付けながら思ったところにしっかり投げることができれば、星野伸之投手のようにプロ野球で176勝を挙げることもできるのです。
打者は力一杯バットを振れば振るほど、ミート力は下がりますよね。投手も同じなのです。力一杯投げれば投げるほど制球力は低下してしまいます。どんなに速いボールを投げられたとしても、ストライクが入らなかったり、ど真ん中に投げてしまうようでは勝てる投手になることはできません。そう考えるとまだ成長期の段階にある小学生~高校生に、全力投球を強いる必要はないということになります。それよりは寧ろ、いつでも思ったところにボールを投げられる技術を磨かせるべきなのです。
球速は良い投球動作で投げることさえできていれば、体が大きくなり、筋肉が発達してくれば自然とアップしてきます。ですのでそれまでは、全力投球を日常的に行わせる必要は全くないとLittlerockheartでは考えています。そもそも人体というものを見た時、人間の肩関節は腕を肩よりも上に上げることを前提にして作られているわけではないのです。人間にとって腕を肩よりも上に上げること自体が、構造的にはじゃっかん不自然な動作となるわけであり、その動作を全力で行ってしまえば、それだけ肩を痛めるリスクも高まるということになるのです。
全力投球を100球行うよりは、70~80%の力で下半身主導の適切な投球動作で100球投げた方が技術をアップさせるためには近道となります。全力投球を行うのは投球練習の最後の1球であったり、絶対に打たれてはいけない場面の最後の1球だけで十分です。ですがそれも、思ったところに投げるということが前提となります。外角低めを狙ったのに内角に行ってしまうようでは、全力投球した意味はなくなってしまいます。それならば70%の力でしっかりと外角低めに投げていた方が、勝てる確率はアップします。
ちなみに全力投球は投手だけではなく、未成年選手の捕手にも当てはめることができます。外野手の場合は大きく助走して投げられるためまだ良いのですが、ほとんど助走を付けられない捕手の場合、投手と同じように全力投球は怪我のリスクを高めると言うことができます。そのため体の小さい小学生や中学大会の一部では、捕手の肩も守るために盗塁を禁止して二塁送球を行わずに済むようにしようとする動きもあるようです。
確かに小学生や中学生捕手が盗塁を刺せることは滅多にないため、それでも良いのかもしれませんね。投手の全力投球や捕手の二塁送球は、野球動作の基礎がしっかりと身に付き、体が大きくなってからでも決して遅くはないと思います。ちなみに捕手の二塁送球に関してですが、プロ野球の捕手を観察すると、大きな送球動作で全力送球する捕手の送球よりも、コンパクトな動作で70~80%の力で投げる捕手の方が、キャッチングからボールを二塁に到達させるまでの時間(Pop to Pop)は短いのです。
球速や送球の鋭さというものは、筋肉で実現させるべきものではありません。あくまでも適切な動作によって実現させるものなのです。こう考えると、もしかしたら子どもだけではなく、大人であっても全力投球する必要というのはないのかもしれませんね。