野球肘になる原因のすべては「悪い投げ方にある」とこれまで何度も書いてきましたが、では悪い投げ方とは具体的にはどのような投げ方のことを言うのでしょうか。今回のコラムではそれをまとめてみたいと思います。
① 投球時に肘が下がっている
② 肘がしなるのではなく、折れた状態で前に突き出ている
③ 肘がロックされた状態で投げている
④ 変化球を投げる際、不自然に肘を捻っている
⑤ フォロースルーが途中で止まっている
細かく言えば切りがないですし、これだけがすべてではないのですが、主な原因としてはこれらがもっとポピュラーだと思います。まずは①の肘が下がっていることから見ていきましょう。肘が下がるということは、上腕骨と肩甲棘の関係が0ポジションから外れてしまっているということになります(0ポジションに関しては後日別の記事にて解説します)。0ポジションではないということは、ローテーターカフの一部分だけが大きく引っ張られることになり、その部分を痛めやすくなります。そして肘に関しては、投球時に肘が下がってしまうとまず、リリース時に腕が伸びにくくなります。肘が曲がった状態でリリースしてしまうと、下半身で生み出したエネルギーが肘に滞留してしまい、それが肘に過度なストレスを与えてしまいます。この場合、野球肘というよりは靭帯損傷などの可能性が高くなります。
肘が下がることでリリース時に腕を伸ばせないと、エネルギーが上手くボールに伝わりません。リリース時に肘が折れているということは、つまりは上腕と前腕のベクトルの方向が違うということです。この場合エネルギーは上腕の延長線上へと進もうとします。すると肘の外側にストレスがかかり、剥離性骨軟骨炎などのいわゆるネズミと呼ばれる症状を引き起こしてしまいます。
時速100kmで走っている自動車を想像してみてください。直線距離であれば、何のストレスもなく100kmで走り続けることができます。しかしもし途中で急な曲がり角(肘に相当)があったらどうでしょうか?そもそも100kmものスピードで角を曲がることは困難ですよね。減速しなければ角は曲がれませんし(エネルギーのロス)、曲がるにしても車には大きなストレスがかかってしまい、タイヤはあっという間に磨り減ってしまいます。腕が伸び切らずにリリースを迎えるということは、100kmで走る車で角を曲がるようなものです。タイヤが磨り減るように、肘も磨り減っていってしまいます。
続いて②の肘を前に突き出すことについてですが、この場合ローテーターカフに非常に大きなストレスがかかります。つまりこの場合も肩痛になりやすい。さらにこの投げ方は、前腕がバネで挟むネズミ捕りのような動きで投げることになるため、腕がまっすぐ伸び切った時に肘関節が衝突(過度な急停止)してしまいます。これは当然肘に大きなストレスを与え、野球肘の原因となります。
③の肘がロックされた状態で投げているということは、これは力んで投げているという何よりの証となります。力んで投げればボールに切れは出ず、初速と終速は大きくなり、いくら初速が速くてもバッターには簡単に対応されてしまいます。するとさらに力んでしまうという悪循環に陥ります。そしてボールを投げるためのエネルギーと、力むことによって生まれる余分なエネルギーの2つが同時に肘にストレスを与え、野球肘という状態を引き起こしてしまいます。
④の不自然に肘を捻るという状態も野球肘の大きな原因となります。変化球は、基本的にはストレートと同じ投げ方で投げる必要があります。ですがボールの回転を手先で動かすことによって変化球を投げようとすると、肘が捻られた状態でリリースを迎えてしまいます。ピッチングに於いて最も大きなエネルギーが働くのはリリースの瞬間です。この瞬間に肘が捻られてしまうと、想像以上に大きなストレスが肘にかかってしまうことになります。近年少年野球では変化球を投げるのが禁止されてしますが、それはこれが理由です。ですが勘違いして欲しくないのは、変化球を投げることが肘痛に繋がるわけではありません。良くない投げ方で変化球を投げることが、肘痛に繋がるのです。これだけは間違えないでください。
さて、最後は⑤のフォロースルーで肘が止まってしまう動作についてです。フォロースルーとは、ボールを投げた後に余ってしまったエネルギーを体内から開放してあげるための動作です。もしフォロースルーをしなければ、投球後に余ってしまったエネルギーがすべて身体に滞留してしまうことになり、その余剰エネルギーは肩や肘に大きなストレスを与えてしまい、このストレスが野球肘を引き起こしてしまいます。ですのでフォロースルーに於いても手を抜いてはいけません。せっかく良い投球動作でボールを投げることができても、フォロースルーが雑であればすべてはここで無駄になってしまいます。投球動作にとっては、フォロースルーという最後の詰が重要になるというわけです。
さて、野球肘を引き起こす5つの主な動きをザッとおさらいしてみました。ですが先述した通り、これだけがすべてではありません。野球肘の選手が100人いたら、100通りの症状があると言っても過言ではありません。ですがこの5つはある程度の目安とはなります。もし自身の投球モーションがどれが1つにでも該当するようなら、今日から早速改善に取り掛かってください。明日からではなく、今日から始めることが大切です!