ボールを投げると肘が痛くなって病院に行くと、「野球肘」だと診断された。こんな選手は年齢問わず多いはず。野球肘というのは、基本的には悪いピッチングモーションでボールを投げるために引き起こされる症状です。一部勘違いされやすいのは、11歳くらいの男女に遺伝性による一時的な肘痛が起こりますが、これは無理をせず放っておけば自然と治るため野球肘ではありません。野球肘とは、あくまでも投球作業により肘関節に引き起こされる異常のことを言います。
ひとえに野球肘と言っても、症状は1つではありません。肘関節は内側(内側上顆、滑車)、外側(上腕骨小頭、橈骨頭)、後側(肘頭)の3つに分けることができます。この中でも野球肘と呼ばれる症状で最も多いのは内側上顆の異常になるのですが、内・外・後のどこに異常があるのかを正確に知る必要があります。
例えば病院のレントゲンも、1方向や2方向から撮影するだけでは正確に患部を知ることはできません。最低でも内・外・後の3ヵ所をしっかり調べる必要があります。特に後側を見逃しがちになることが多いのですが、この後側の異常に関してはお医者さんも気づくようになったのはここ数年のことだそうです。
つまり肘の内側にも外側にも異常がないけどボールを投げると肘が痛む場合、後側に異常がある可能性があります。しかしこの可能性は野球肘全体の3%程度でしかないため、本当に野球肘を勉強されているお医者さんでないと、この異常に気付かないというケースも稀に出てきます。野球肘で最も多いのが内側の異常で、最も有名なのがネズミと呼ばれる外側の異常。この2つに気をとられ過ぎてしまうと、野球肘に精通していない場合、後側の異常を見落としてしまうというわけです。
野球肘は、怪我ではありません。怪我というのは例えば、フェンスにぶつかって骨折をしたり、ベースを踏み外して足首を捻挫したりというアクシデントにより引き起こされたものを怪我を呼びます。野球肘の原因のほとんどは悪い形での投げ方。つまり良い投げ方をすれば防げるのが野球肘であり、これは怪我ではなく、故障と呼ぶわけです。
野球肘はある意味では家電製品と同じなのです。家電製品は説明書に書かれた正しい使い方をして、きれいにするなどのメンテナンスを小まめにしてあげることで、より長持ちさせることができます。それこそ同じ洗濯機を30年間使い続けることも可能になります。しかし同じ洗濯機でも、説明書に書かれていること以外の誤った使い方をしてしまえば、買って数ヵ月で壊れてしまうこともあります。野球肘も同じです。ボールを投げるための正しいモーションで投球をし、投げ終わった後はしっかりケアをしてあげることで、野球肘という症状を確実に防ぐことができるのです。野球肘は、指導者に正しい見識があれば撲滅できると僕は考えています。