バッティングにおいて打球をスライスさせないというのは、けっこう難易度が高い技術なんです。プロ野球選手たちを観察しても、打球をスライスさせない非常に高い技術を持っているのは、ライオンズの中村剛也選手らをはじめとして、本当に数人しか見当たりません。でもこの難易度が高い技術を習得することができると、今までファールになっていた外野への打球がフェアゾーンに落ちるようになり、ヒットの本数を増やすことができます。
コンパクトなスウィングと最短距離スウィングは似て非なるもの
なぜ打球がスライスしてしまうかと言うと理屈は非常にシンプルです。居合のようにバットを投球に対して入れてしまうために、打球に横回転が与えられてしまうんです。物理学的には、どんな時も直角になった時にベストパフォーマンスができるようになることがほとんどです。でも居合のように打ってしまうとバットが投球に対し直角でぶつかることができなくなり、斜めに入ってしまうことによって、レフト線、ライト線のどちらに飛んでも打球がスライスするようになってしまうんです。ゴルフのスライスも同様のメカニズムです
ではなぜ居合のような打ち方になってしまうかと言うと、コンパクトに振るのではなく、最短距離で振ろうとしてしまうからです。コンパクトに振ることと、最短距離で振ることは似て非なるものです。最短距離で振ろうとするとスウィング中にバットがスライドしてしまうようになります。ちなみにコンパクトに振る、というのはスウィングを小さくするという意味ではありません。例えばメジャーリーグのホームランキングであるブライス・ハーパー選手のスウィングは非常にコンパクトです。
コースに逆らわないことがスライスさせないコツ
いつも引っ張る方向にしか打つ練習をしていない選手は、打球がスライスしやすくなります。「コースに逆らわずに打つ」という言葉がありますが、打球をスライスさせないためにはこの基本概念が非常に重要になります。例えば外角のボールを引っ張ろうとすればボールの外側を打つ形になり、ここで打面に角度がついてしまうことによって、大飛球になったとしても引っ張った打球がファールゾーンに逃げていくようになります。
中村剛也選手や中島裕之選手らは、コースに逆らわずに打って、どの方向にも長打を打つことができます。しかし反対方向に打つ時も流し打ちをしてはダメです。しっかりと振り抜いて反対方向に強い打球を打つことが大切です。これを「反対方向に引っ張る」と表現したりするのですが、この技術が最も高いのはダントツで中島裕之選手や、往年の清原和博選手だと思います。
反対方向へのホームランを喜んでいてはダメ
遠心力を使うと、確かに引っ張った方が飛距離は伸びます。しかしこの打ち方ではミート力が低下してしまうため、打率が上がることはありません。例えばメジャーリーグで何度も何度も首位打者に輝いたトニー・グウィン選手は、引っ張って打ったホームランをまったく喜びませんでした。この結果を生む打ち方はフォームを崩しやすいからです。しかし左打者のグウィン選手は、ショート方向に強い打球を打てた時はアウトになったとしてもその結果に満足をしました。この打球は少なくとも3回に1回以上はヒットになると知っていたからです。
グウィン選手の打球もスライスすることが非常に少なかったと思います。あとはイチロー選手のレフト線へのヒットもあまりスライスしないためにファールにならずにヒットになることが多かったですね。中村剛也選手の打球も同様で、大飛球がレフト線に飛んでもライト線に飛んでも、多くの打球でスライスしないためにそのままフェアゾーンでスタンドインしていくんです。中村剛也選手の打撃技術は球界随一です。力任せにホームランを打つことはせず、プロ野球選手としては非常に小柄なのにも関わらず、あれだけ多くのホームランを打つことができます。そしてもちろん僕のコーチングでも、小学生から草野球、そしてトップクラスの選手たちに中村剛也選手が持っている技術のコーチングを日々行なっています。ご興味あれば、ぜひ受講しにいらしてみてください。