今回の投手育成コラムでは、野球選手と走り込みの必要性について書き進めてみたいと思います。近年野球界では、走り込み不要論に対する支持が高まっているように感じられます。確かに走り込みを有酸素運動と捉えるのであれば、エアロバイクなどを利用すれば走り込みは必要ない、という理論になるとは思います。しかし僕個人としては、走り込みは必要だと考えています。
有酸素運動以上の効果がある走り込み
走り込みを有酸素運動としか捉えていない方ももしかしたら多いのかもしれませんが、野球選手にとっての走り込みは有酸素運動というだけではありません。上半身と下半身の連動を整えるための大切なトレーニングでもあります。走るという動作は、すべてのスポーツにとっての基本となります。上手に走れない選手が、アスリートとして大成するケースはほとんどありません。
僕は野球選手に走り方のコーチングも行なっているのですが、脚力を中心にして走ろうとする選手ばかりです。しかしそれは間違いで、走るという動作は腕を使って行うものなのです。腕を速く大きく振ることによって、股関節という歯車を介して脚を前へ前へと出していきます。ちなみにスピードダウンさせたい時は、腕の振りを遅くしていくことによってスピードを調整していきます。足でブレーキをかけて止まろうとすると怪我のリスクが高まりますので要注意です。
有酸素運動と盗塁とでは走るフォームが異なる!
僕は走り込みというメニューは必要だと思っていますが、しかし無闇にただ長い距離を走るだけでは意味はありません。走る速度を変えたり、心拍数の回復具合を計測しながら走ったり、上下の連動を意識して走ったりと、いろいろなバリエーションで走っていくことが大切です。走り込みとは有酸素運動兼、運動能力を高めるためのトレーニングだと思ってください。
ちなみに有酸素運動としてのフォームと、盗塁を決めるためのフォームとではまた違ってきます。有酸素運動であれば、両足が同時に地面から離れる時間があっても良いのですが、スタートした瞬間にトップスピードに持っていきたい盗塁時には、できるだけどちらかの足が地面についていて、常に反力を得られるフォームで走る必要があります。
中3以上ならまずはサブ5ペースの5キロ走から始めよう
さて、続いてペースについてですが、中学3年生以上であればサブ5ペース(1キロ/7分6秒未満)で5〜10キロを走れるくらいから始めるのが良いと思います。高校生ならサブ4以上(1キロ/5分41秒未満)のスピードを目指して良いかもしれません。ちなみにサブ3になると1キロ/4分15秒ペースになります。つまり走り込みと言っても、ただ長時間・長距離を走るだけでは無意味なんです。しっかりと心拍数を制御しながら、常にある程度の息切れをする速度で走る必要があります。ただし、ゼェゼェ言ってしまうほどの速度じゃなくても大丈夫です。
すでに上述しましたが、ポイントは腕を振って股関節という歯車を介して脚を前に出していくということです。腕で走る、と考えながら腕を振ってください。ボールは下半身を使って投げます。バットも下半身を使って振ります。しかし走る動作は上半身によって行います。投げる、打つ、走るで、この上下が逆になってしまうとパフォーマンスが向上することはありませんので、走り込みをする際には腕を使って走ることを意識しながら走り込むようにしてください。