少年野球でトップポジションの形を指導する際、手を上に挙げて手のひらを外側に向ける形を指導している方は今だに多いと思います。しかしこの形でトップポジションを作らせてしまうとパフォーマンスが低下するばかりか、肩肘を痛めてしまうリスクを大幅に高めてしまうことにもなります。
なぜ日本の指導現場では今だに怪我をしやすいこのような形を指導しているのでしょうか?考えられる原因として挙げられるのは唯一、指導者の勉強不足です。指導者が人間の体の構造や解剖学、スポーツ物理学をまったく理解していないために、自分が教わってきた過去の経験則でしか指導できなくなってしまうのです。
もちろん大学に通って本格的に勉強する必要はありません。最低限の知識さえ頭に入れておけば、どのような動き方をすると肩肘を痛めやすいかを判断できるようになるはずです。手のひらを外側に向けるトップポジション、専門的に言い換えると肩関節を内旋させたトップポジションから投げてしまうと、リリースポイントに至るまでの加速期に肩関節が水平外転方向へと引っ張られてしまいます。そしてこれによって肩の中央から前面にかけての部分を故障しやすくなります。
また、内旋状態のトップポジションから投げようとすると、肘を下げなければボールをリリースできなくなってしまいます。その結果インナーマッスルに大きく負荷がかかり、野球肩になってしまいます。また、肘が下がった状態では質の良いボールを投げることもほとんど不可能になり、スライダー回転しやすくなります。よく言われるナチュラルスライダーというのは、実は非常に肩を痛めやすい投げ方によって生み出される球種なのです。
時々他の有料野球塾のコーチの方と交流をすることがあるのですが、過去数十人のコーチの方々とお話をしてきた中で、肩肘を痛めにくい投球動作を解剖学的に理解されているコーチはたった1人しかいらっしゃいませんでした。ちなみに野球選手を専門的に治療しているスポーツドクターでもそういう投げ方を理解されている方はほんの一握りしかいらっしゃいません。実際野球選手の治療を担当されているドクターやスポーツ指導の関係者が集まるセミナーでも、故障しやすい投球動作が推奨動作として指導されていました。
当野球塾のピッチングマスターコースでは、肩肘を痛め難くなおかつパフォーマンスを向上させられるピッチングモーションの指導を2010年1月からずっと続けています。受講生の中で、受講後に肩肘の痛みが出なくなったという選手はポジション問わず数え切れないほどいらっしゃいます。つまりコーチがしっかりと解剖学を理解していれば、肩肘を痛めにくい投げ方を指導することは難しいことではないのです。あとは選手が努力をしてその動作をマスターできるかどうか、という問題のみとなります。
このようなことを考えると、選手よりもコーチたちに当野球塾に通ってもらいたいと強く思うばかりです。コーチが当野球塾でしっかりとした指導スキルを身につけることができれば、そのコーチがいるチームの選手は全員当野球塾同様の指導を無料で受けられるということになります。しかし現段階ではそのようなコーチは少年野球チームではほとんど皆無であるため、高い受講料を払っていただき当野球塾に通っていただくしかないというのが現状です。
子どもたちの肩肘の怪我を大幅に減らすためにも、やはり野球界にもプロアマ問わず、指導者ライセンス制度が早急に必要なのではないかと、常々思ってしまうのであります。