「もっと腕を大きく振って投げなさい」とは、昔から行われている日本の投手指導だと思います。しかしこの指導法に対し、わたしは以前より真っ向から反対意見をアウトプットし続けています。その理由を改めて説明してみたいと思います。
確かに腕の長さを目一杯使って投げると慣性モーメントが大きくなり、小さな出力でも大きなトルクを生み出すことができます。この辺りのお話に関しては、車など工業関係の仕事に就かれている方であれば得意分野だと思います。物理的には確かにこの通りで、腕の長さを目一杯使うと初速をアップさせることができます。ただし、あくまでも初速です。
もしピッチャーがロボットであればこの投げ方でいいと思います。ロボットであれば金属疲労を起こしても、部品を交換すればまた新品同様に動くことができますからね。しかし人間の場合は当然話が異なります。一度肩肘を痛めてしまえば交換などできませんし、手術をするにしても高額な費用やリスクが伴います。
ピッチャーが腕を振り、手に握ったボールを加速させている最中、肩関節はなるべく水平外転しないようにインナーマッスルなどが頑張ってくれています。水平外転とは肩関節が水平方向に動き、腕が背中側にしなるような動きのことです。物理的には、ストップモーションをかける動作が最も負荷が高くなります。
全力疾走しているとしましょう。そこに人が横断してきたら急停止しなければなりません。しかし急停止というのは物理的には非常に大きな負荷がかかりますので、急停止したことにより怪我をしてしまうリスクは非常に高くなります。このリスクが投球ごとに肩にはかけられているのです。
腕を目一杯使って大きく振れば振るほどこの負荷が大きくなり、次第に止めることができなくなり肩の水平内外転はどんどん大きくなり、結果的には野球肩になってしまいます。
わたしのコーチングではとにかく必要のない怪我を抱えないためにも、体に負担の少ない投球動作を指導しています。その上で制球力、球速をアップさせるコーチングを行なっています。現に今まで頻繁に病院などに通っていた投手が、投球動作改善により痛みがほとんどなくなったという投手が当野球塾の受講生には大勢います。そして当然ですがパフォーマンスアップにも成功しています。
「腕を大きく振って威圧感を出せ!」、あまりにも非論理的な指導法です。この論理では体の小さい選手は威圧感を出せないためにピッチャーはできないということになってしまいます。しかしそんなことはありません。男子プロ野球でも170cmに満たないのに1軍で活躍した投手はたくさんいます。改めて言うまでもありませんが、問題は体を大きく見せて相手を威圧することではありません。打者を打ち取れるボールを投げられるかどうかです。
ハッキリ言いますが、投手に威圧されて簡単に打ち取られてしまうような打者からアウトを取ったとしても、まったく自慢できるようなことではありません。そのような自分よりもレベルの低い打者を意識しているようでは、投手として上のレベルに進んでいくことなどできません。
結論を言いますと、スローイングアームはコンパクトに振った方が制球力、バックスピンの回転数、打った瞬間に打者が感じるボールの重さ、終速は確実にアップします。そうです、重要なのは初速をアップさせることではなく、初速と終速の差をなくすことなのです。腕を大きく振れば初速はアップさせられます。しかし終速はアップしないため、打者からすると失速した打ちやすいストレートになってしまうのです。言い方を変えると、終速がアップしなければ、初速をアップさせればされるほど打ちやすいボールになる、ということです。
初速160kph・終速145kphのストレートと、初速130kph・終速128kphのストレート。どちらのボールの方が打者が打ちにくいかと言えば、圧倒的に後者のストレートです。そして後者のストレートを投げられるのが、腕をコンパクトに振って投げる、故障のリスクが少ない投球動作なのです。
投球時の肩肘の痛みがどうしても取れないという選手、もしくはそんな悩みを抱えるお子さんをお持ちの親御さんは、ぜひ一度野球肩野球肘診断コースで痛みを誘発している原因動作をチェックしにいらしてください。