左ピッチャーはクロスファイアーで投げるのが良い、とは昔から言われていることです。確かにクロスファイアーは打ちにくさはありますが、しかしわたしのコーチングではクロスファイアーは推奨していません。なぜなのか?繰り返しますが、確かに打ちにくくなります。しかし肩への負担が大き過ぎるのです!
野球選手にとって一番大切なことは、勝つことよりも、負けないことよりも、まずは怪我をしないということです。それ以上に大切なことなどあるはずないのです。怪我を我慢して試合に出て勝つ、これは時に美談として語られますが、これは怪我をしっかりと理解し、できる限りのサポートをしてくれるトレーナーが付いているプロ選手のみに当てはまることです。
では左ピッチャーのクロスファイアーはなぜ肩への負担が大きくなるのか?まずボールは右股関節(右投手なら左股関節)を使って投げるものです。しかしクロスファイアー(大きなクロス・インステップ)で投げてしまうと、ランディング後に右股関節を最大内旋させていくことができなくなり、体重移動も最後まで終えられなくなります。
では股関節を使えないとどこを使って投げるようになると思いますか?答えは簡単ですね、肩です。肩の水平内転を使って投げるようになってしまうため、肩の中心から後方にかけての筋肉、特にインナーマッスルが必要以上に伸ばされてしまい、肩を痛めてしまうリスクが大幅に高まってしまうんです。
もしクロスファイアーで投げるのならば、もしくはクロスファイアーで投げるように選手に指導するならば、この肩に対するリスクをしっかりと選手、もしくは親御さんに説明をしてから取り組むべきです。「打者が打ちにくくなるから」という理由だけでクロスファイアーで投げさせるのは、指導者としてはあまりにも無責任です。これでは「勝てれば選手の怪我なんて知ったことじゃない」と言っているようなものです。
ある野球強豪校は、左ピッチャーにはキャッチボールの段階からクロスファイアーで投げさせているそうです。その高校からプロ入りした左投手はプロ入り後、調子が良いと活躍できるのですが、ほとんど毎年のように肩の不調に悩まされています。もしかしたらクロスファイアーで投げさせられていた頃の肩関節の動き方を、筋肉がまだ忘れ切れていないのかもしれませんね。
大切なのでもう一度言いますが、野球選手にとって最も大切なことは怪我をしないことです。怪我をすれば練習ができず、練習ができなければ上手くなることはありません。しかし怪我さえしなければ地道な練習を続けることができ、上達速度こそ人それぞれではありますが、着実に上手くなっていくことができます。
ちなみに体の負担が少ない良い形で投げれば、質の良いボールを投げられるようになり、質の良いボールを投げられれば、クロスファイアーなど採用しなくても勝てる投手になれるんです。プロ野球で長年ほとんど怪我をすることなく1軍で活躍し続けた、もしくは活躍し続けている左投手の中に明らかなクロスファイアーで投げている投手はいません。この事実を決して忘れないでください。