投球動作に於いて、下半身で適切な動作を取るということはとても大切なことです。しかし下半身が適切な動作を取れていたとしても、それがイコール下半身主体の投げ方になるかと言うと、実はそんなことはないのです。下半身主体で投げるためには下半身の適切な動作以外にも必要な要素があるんです。
結論を言うと、それはスローイングアームの脱力です。右投手なら右腕、左投手なら左腕ですね。このスローイングアームを腕力で動かしてしまうと、いくら下半身で適切な動作を取れていたとしても、その動作に右腕が付いてきてくれません。下半身主体で投げるためには下半身の適切な動作とスローイングアームの脱力がセットになっている必要があります。
良い投手というのはトップポジションで腕がしなっているように見えます。もちろん実際に人間の腕はしなることはありませんので、トップポジションで肩関節が最大外旋状態になっているか、ということがポイントとなります。トップポジションで肩関節が最大外旋することにより、アクセラレーションの直前に腕がしなって見えるようなポジションを作れるようになります。そしてこの形もやはり、スローイングアームが脱力されていなければ作ることができません。
スローイングアームに力が入っていては、トップポジション以降、スローイングアームの肘の矢印が二塁を向いたままアクセラレーションに入ってしまいます。すると加速距離そのものが短くなることで球速は低下してしまい、さらにこの形で加速させていくと肘の内側が伸ばされる負荷が発生してしまいます。肘の内側とはつまりは内側側副靭帯であり、最も野球肘になりやすい箇所です。また、トミー・ジョン手術で修復するのもこの内側側副靱帯です。
さて、脱力がポイントと言いましたが、投球時にスローイングアームを脱力するにはコツがあります。まずボールは軽く握ります。ボールを強く握ってしまうほど腕全体に力が入ってしまい、腕を脱力することが体の構造的にできなくなります。そしてもう一つ、テイクバックへの入りで腕力を使わないということです。
腕力を使ってテイクバック動作を取ってしまうと、テイクバック以降でも腕力が使われやすくなります。ではどうすれば良いかというと、腕力ではなく慣性を使います。つまり振り子の原理ですね。スローイングアームを振り子のように振り落とし、慣性だけでテイクバックに入っていくことができれば、テイクバック以降もスローイングアームに力が入りにくくなります。
これができるとテイクバックの最大内旋時にサイレントピリオドを発生させやすくなり、腕をリラックスさせた上でボールの加速をさらに高められるようになります。つまり腕力など使わなくても球速をアップさせることができ、腕力も肩肘もそれほど使うことがないため、球速をアップさせられるのに野球肩や野球肘のリスクが上がることもありません。
下半身を適切な動作で動かし、その上で腕力を使わない慣性テイクバックをを行えるようになると、スローイングアームを完全に下半身でコントロールできるようになります。するとスローイングアームの動作が先走ることもなくなり、しっかりと足で踏ん張った上でボールを投げられるようになります。
逆に腕に力が入っているとスローイングアームがどんどん先走ってしまい、足でしっかりと踏ん張る前にボールを投げ終えてしまい、どれだけ下半身を適切な形で動かしたとしても、結果的に上半身投げになってしまうのです。このようなもったいないパターンに陥らないためにも、テイクバックの入りでは慣性を使い、腕力は使わないように気をつけてみてください。