投手が投げるボールは、速いよりも伸びがある方が打者を抑えやすくなります。伸びがあるストレートというのは、投げた瞬間の初速と打者の手元での終速の差がほとんどないボールのことです。これにはバックスピンの回転数と、スピンそのものの回転角度が関係してくるのですが、適切なオーバーハンドスローの形で投げることができれば、伸びのあるボールを投げることも決して難しいことではないのです。
時々肘を肩よりも上に上げてボールリリースを迎え、それによってバックスピンをかけようとする投手がいますが、これは間違いです。確かにバックスピンをかけることはできますが、これではスピンの回転数は増やしにくく、さらには肘を肩よりも上に持っていくことで肩肘にかかるストレスも非常に大きくなってしまいます。
伸びのあるボールを投げる利点ですが、膝下いっぱいの低さに投げた場合、打者は「低い」と判断し見逃します。しかしボールがお辞儀しないので審判のコールは「ストライク」となります。逆に高めに投げれば打者の予想以上の高さを通過することになりますので、簡単に空振りを奪えるようになります。
ストレートの伸びは、実は球速が上がれば上がるほど低下しやすいんです。その理由は球速が100km/hだった場合にかかる空気抵抗はボールの半分程度の重さなのですが、150km/hになるとボール1個分の重さが空気抵抗の大きさになってしまうためです。
そしてマグナス力で言えば、110km/hを超えていくとマグナス力はどんどん低下していき、その後再浮上はするのですが、110km/hの時と同等のマグナス力を得られるのは時速200km/hに到達した時となります。ですが現代の人類のパフォーマンスでは200km/hは投げられませんので、伸びのあるボールを投げるためには130〜140km/h程度が実は望ましいと言えるのです。
例えばかつて活躍した星野伸之投手のストレートは120km/h台でしたが、プロでは176勝を挙げています。球速ではなく伸びで抑えるという素晴らしい手本を見せてくれた投手です。
ストレートの伸びを維持するためには、アヴェレージは140km/h程度が望ましいと考えられます(硬式トップレベルの場合)。現役投手で言えば岸孝之投手が投げるボールは、140km/h前後であっても非常に伸びのある空振りを取れるストレートとなっています。140km/h前後であれば、空気抵抗はボールの重さよりも小さく抑えることができますので、伸びの著しい低下も防ぐことができます。
逆に150km/hを超えていくと空気抵抗はボール1個分よりもさらに大きくなっていくため、初速と終速の差は大きくなります。ですが初速が速い分抑えられるという考え方もできますので、150km/h以上のボールを投げるべきではない、ということではありません。
ちなみにホップするストレートを投げることは現実的に可能です。特に軟式球で100〜110km/h程度で、きれいなバックスピンをかけ、スピンの回転数を増やせる投球動作を身につけられれば、本当にホップするストレートを投げることはできます。草野球選手であれば挑戦すべきだと思います。
当野球塾に通われている選手の中でも小中学生、草野球選手でホップするストレートを投げられるようになった投手が多数誕生しています。適切な知識で適切な投球動作を身につけることができれば、そのようなストレートを投げることは決して難しくはない、ということなのです。
しかし体の構造に適していない投げ方をしてしまうと肩肘を壊したり、パフォーマンスが低下してしまうことになります。そうならないためにも、ぜひ適切な基礎、適切な技術を身につけるように心がけてください。そうすれば将来歳を取った時も怪我なくプレーし続けることができるはずです。