近年は筋肉トレーニングに関する情報が多く共有されるようになり、筋肉トレーニングによって球威球速をアップさせようとする投手も多くいます。これはプロアマ同様に言えることですが、この手法によって球威球速をアップさせる手段はベストではないと当野球塾では考えています。ではベストな方法とは?
まず筋トレに関して考えてみましょう。筋トレによって腕が太くなれば、出力できるエネルギーを増やすことができます。それによって確かに球威球速をアップさせることはできます。ですが本当に必要な技術の習得がなければ、ただ初速だけが速くなるだけで、バックスピンの質が低い分打者の手元で失速するボールになってしまいます。
また、筋肉は鍛えることによって強く太くすることができます。しかし筋肉と骨、関節を繋いでいる靭帯や腱は鍛えることはできないんです。野球選手がよく痛めてしまうのは内側側副靱帯という、肘関節の内側の靭帯です。トミー・ジョン手術で修復を目指すのは主にこの靭帯です。
靭帯は関節を繋ぐ役目をしていて、関節の過剰動作(動くべきではない方向に関節が動かないようにする)を防ぐ役割をしています。筋肉を大きくするということは、過剰動作に対するエネルギー出力も大きくなるということで、靭帯への負荷は想像以上に大きくなります。でも靭帯は上述した通り鍛えて強くすることができません。つまりいくら筋肉を大きくしたところで靭帯はそのままですので、筋肉を大きくすることによって球威球速アップを目指してしまうと、それだけで靭帯に対し非常に大きな負荷をかけてしまうことになるのです。
球速アップは、投球動作の連動性によって目指すべきものです。例えばプロ野球では西口文也投手や岸孝之投手という非常に細身の、体重も70キロあるかないかの投手が活躍しています。西口投手の全盛期はそんな細身でも150km/hのボールを投げていましたし、岸投手だって短いイニングであれば150km/hを投げることがあります。つまりしっかりとした技術、連動性のある投球動作を身につけていれば、必要以上に筋肉を増やさなくても球威球速をアップさせることができるということです。
西口投手に関して言えば、現役時代に肩や肘を痛めた経験はほとんどありません。岸投手に関しては肩甲骨からの可動性が広いため、少し肩に負担がかかるタイプではありますが、それでも選手生命を左右するような肩肘の故障はまだありません。適切な投球動作によって球威球速をアップさせた場合、西口投手のように肩肘の故障なくいつまでも投げ続けられるということなのです。
さらに言うと、投球動作が崩れるのを嫌い遠投をしない選手もいますが、遠投練習はするべきです。短い距離、そして遠投をバランス良く組み合わせていくことにより、バランスの良い投げるための筋肉を作っていくことができます。これは筋トレでは絶対に作ることのできない筋肉です。
筋トレももちろん必要不可欠なトレーニングです。しかし筋トレによって球威球速アップを目指すというのは、故障のリスクを高めるだけの間違った考え方です。球威球速のアップは、動作の連動性によって目指していくべきです。そして連動を高めるためには投球動作内に無駄な動作が多いようではいけません。制球力も安定させられる無駄のない投球動作だからこそ連動性が高まり、連動性が高まれば球速は自然とアップしていくんです。