球速をアップさせるために上半身を一生懸命鍛える投手も多いと思いますが、それは誤りです。上半身の筋肉は球速をアップさせる意図で鍛えるべきではありません。高い技術を持つ一部のプロ投手を観察してみてください。180〜185cm、70〜80kg程度の体格のピッチャーでも150〜154km/hのボールを投げています。つまり技術があれば、必要以上の腕力を得ずに球速をアップさせることはできるのです。
しかしその技術を得るためには下半身の安定感が必要となります。振り上げてから接地させた非軸足は絶対的に固定されている必要があるわけですが、それを直接的・間接的に可能にしてくれるのが主に上述した部位となるわけなのです。例えば腓腹筋とヒラメ筋(ふくらはぎ)が弱い、もしくは使いこなせていないと、足部接地後、足首が簡単に背屈してしまい、上半身が突っ込みやすい形となります。そして上半身が突っ込んでいては、当然球速を出していくこともできません。
このようなメカニズムを理解せずに、ただひたすら上半身を鍛えたり、上半身の動き方ばかりに目をやっていては、いつまで経っても根本的な球速アップを実現させることはできません。根本的な球速アップとはつまり、いま全力投球をしなければ出せない球速を、8割の力でも投げられるようになる、ということです。
ちなみに上半身の筋力に頼った投げ方をしてしまうと、例えばダルビッシュ有投手のようにレベルの高い技術を持っていない限り、初速と終速の差が開きやすくなります。一方上半身の筋力に頼らず、技術によって投げられるファストボールは初速と終速差が小さくなり、簡単に空振りを取れるボールになっていきます。こうして考えるとレベルの高い技術と質の良い筋力の両方を持ったダルビッシュ投手が、メジャーで活躍し続けられることも納得できるわけです。
なおプロアマ問わず、ほとんどのスポーツ選手は鍛え上げた筋肉の3割程度しか使いこなせていないという科学的研究もあります。一方種目を問わず、トップクラスの選手たちはその割合が他の選手より高いこともよく知られています。ということは筋肉を強化することも大切ですが、それ以上に大切なのは鍛えた筋肉をしっかりと使いこなすということなのです。
ピッチャーであればまずは上述した筋肉の強度と柔軟性を高め、上手く使いこなせるようになってください。上半身はそのあと考え始めても十分なくらいなのです。このように、筋力に頼らず技術によって、適切な投球動作で球速アップを目指したいという方は、ぜひピッチングマスターコースやパスポートコーチングを受講しにいらしてください。