まず上達できない選手、もしくは上達速度が非常に遅い選手(年代問わず初心者は除く)の特徴として、(1)メモを取らない、(2)復習をしない、(3)コーチングを受けていることで頑張っていると思っている、という主に3つの特徴を挙げることができます。
テスト勉強を思い出してみてください。暗記物にしろ、数式にしろ、一度答え合わせをしただけで頭に入った、と言うことはできませんよね?何回も見直して、復習して、そうしてようやく頭に知識が定着していくんです。野球も同じです。適切な内容で復習をできるようにしっかりとメモを取り、そして質の高い復習をする。これができない選手はなかなか上達することはできません。特に筋肉に動作を覚え込ませるためには、運動習熟と言って2000回以上の同動作による反復練習が必要になります。
さて、コーチングとは塾や家庭教師と同じです。塾に通ったからといって、それだけで志望校に受かることはありません。塾に行き、さらに家で復習をしなければ、合格することはできません。
また、少年野球の一部では野球ノートを付けることを義務化しているところもあるようです。これは非常に良いことです。その日コーチから教わったこと、練習していて分からなかったこと、自主トレした内容、食事、体重、野球中継を見ていて参考になったことなどなど、何でもいいのです。野球ノートとは、書いた選手専用の教科書になるのです。
Loftus and Kechamが1994年に発表した論文に「記憶は図書館の本ではなく、水に溶けたミルクのようなものである」という言葉があります。つまり人の記憶力とは、それほどまでに曖昧なものなのです。だからこそ短期記憶をメモし、復習することによって長期記憶に変換し、明確な記憶として定着させていく必要があるのです。
コーチを務めているわたしの場合、現場ではまず手書きでメモを取ります。それをスマートフォンのEvernoteアプリでコーチング日誌として清書していきます。さらに重要なことはアナログの手帳にどんどん書き込んでいき、タスク管理であったり、スケジュール確認であったり、コーチング内容チェックなどを行います。
さて、逆の見方をしていくと、上達速度の速い選手は年代を問わず、コーチング中に一生懸命メモを取ってくれます。それは小学生、硬式野球、草野球、プロ選手問わずです。もしくはコーチング風景を録画し、自宅で録画を見ながらノートを作っている選手もいます。そして復習にも一生懸命取り組み、週に1〜2度は「この動作で合っていますか?」と10秒程度の動作映像を送ってきてくれます。送ってきていただければそれを見て、正しい動作を取れているかをアドバイスすることもできるのです。
上達が速い選手、なかなか上達できない選手の間には、このような明確な差があることがほとんどです。これまでコーチングをしてきて、メモを取るように言っても取らない選手は過去5年で7〜8人いましたが、いずれの選手も思うような上達を遂げられずにコーチングを終了しています。もちろんそのような選手であっても上達に導くのがコーチの務めであるわけですが、しかしコーチングしている内容をメモもせず覚えてくれない、すぐに忘れる選手を上達に導くことには限界があります。
繰り返しますが野球ノートは、その選手専用の教科書なのです。いつか困った時、必ずその教科書が助けになってくれるはずです。毎日同じことができず、同じことが分からなければ、毎日同じことができなかったと書いておけばいいのです。そうすればいつかそれができるようになった時「これができるようになるまで、ずいぶん苦労したんだな」と振り返り、技術習得の難しさを改めて認識できるようになるはずです。
年代問わず、レベルを問わず、プロアマも問わず、上達できる選手とできない選手の間には、上述したような明確な差があることがほとんどです。ぜひ今日からは、上達できる選手の真摯な野球への取り組み方を目指してみてください。