10年一昔と言われますが、その一昔前、「投手は、打者を圧倒できるように腕を大きく振って、大きな動作で投げなさい」と指導されることがありました。しかしこれは多くのコーチがすでに理解している通り、現代では明らかに間違った指導法となります。腕を大きく振ってもそのエネルギーは投げるボールに反映されることはほとんどなく、それどころか腕を大きく振ることによって、打者にとって打ちやすい投手となってしまうためです。実は一昔前どころか、大昔であっても本当の一流ピッチャーたちは、腕を無用に大きく振って投げることはしていませんでした。
なぜ腕を大きく振ると打者にとって打ちやすい投手になってしまうかと言うと、以前の投手育成コラムでも書いた通り、打者目線で投手がより三次元に近くなってしまうためです。三次元とは縦・横・奥行きとなるわけですが、腕を大きく振ることによって、横の要素がより強くなってしまうのです。しかし腕をコンパクトに振れば打者目線ではより二次元に近い投球動作となり、打者にとって打ちにくい投手となることができます。
腕を大きく振るということは、打者で言うところのアウトサイドインのスウィングに相当します。つまり動作が遠回りしているだけで、投球パフォーマンスに何のプラスも与えられていないということです。さらに言葉を付け加えれば、パフォーマンスにプラスの影響を与えないどころか、無駄な動作をし、無駄なエネルギーを消費しているために、肩・肘を壊しやすい状態となってしまいます。
では腕を遠回りさせないためにはどのようにすればいいのか?それはリーディングアームと呼ばれる、グラブをはめた手をしっかりと使うことです。近ごろアマチュア投手の中にも剛球投手が増えてきました。これはウェイトトレーニングの敷居が低くなったことが考えられます。アマチュア投手でも簡単に強靭な筋肉を得られるようになったため、理に適った投球動作をマスターしていなくても、腕力だけで剛速球を投げることができてしまいます。アマチュア時代には剛球投手として鳴らした投手が、プロ入り後すぐに肩を痛めて実績を残せないままプロ球界を去っていく姿を多々見かけますが、そのほとんどはこのことが原因の1つと考えられます。つまりアマチュア時代に、本当に理に適った投球動作を習得できていなかった、ということです。
ボールを投げる腕の力だけに頼って投球をする癖をつけてしまうと、リーディングアームの使い方がいつまで経っても上達しません。つまり、一度前にグッと突き出したリーディングアームを、勢い良く体側に巻き取ることで、その反動を使い、スローイングアームが遠回りしないようにするのです。埼玉西武ライオンズの岸孝之投手は、リーディングアームの使い方が非常に上手な投手です。だからこそあの細身の体でも140kmを越える切れのあるストレートを投げることができるし、腕が遠回りしない分制球力も高いわけなのです。
スローイングアームが遠回りすることを防ぐためには、スローイングアームの動作そのものを見直すことも大切ですが、それと同じくらい、リーディングアームを上手く使えているかを見直す必要があります。リーディングアームの動作修正だけでスローイングアームの遠回りを防ぐことができれば、スローイングアームに余分な負担をかけずに動作修正を行うことが可能となります。制球力を向上させ、打者から打ちにくいと思われる投手を目指すためにも、もう一度リーディングアームの使い方を見直してみてはいかがでしょうか。