プロ野球選手も悩まされる試合中に体をつる症状
脚や手、背中などを一度もつったことのない人はほとんどいないと思います。誰もが一度はつった経験があるのではないでしょうか。野球選手の中にも、このつるという症状に悩んでいる選手がいます。少し前の話になりますが、2011年、当時埼玉西武ライオンズの涌井秀章投手が2010年に続き、試合中に脚をつる症状に悩まされました。
つるという症状は非常に一般的な症状ではありますが、ではつるとは具体的にはどのような状態のことを言うのか、また回避する方法はあるのか。今回の投手育成コラムでは、ここに焦点を当てて書き進めたいと思います。
つった時のけいれんは自発的に抑えることができない?!
まずつるという状態は、正確には「筋けいれん」と呼びます。ただし、ただけいれんをしているだけではなく、非自発的かつ強い痛みを伴うけいれんのことを言います。「こむら返り」と呼ぶこともありますね(こむら=ふくらはぎ)。
なぜ筋けいれんは非自発的に起こり、また意図的に抑えることができないかと言うと、それは脳を中心とした上位中枢を介さない症状だからです。上位中枢を介さず、脊髄を中心とした反射中枢において起こされる症状であるため、脳で考えた「けいれんする!」「痛みを抑えろ!」という意思を症状に反映させることができないわけなのです。
怪我、筋けいれん、それぞれの痛むまでの流れ
通常の怪我などの痛みの反応までの流れ
刺激 → 感覚器(末梢神経) → 反射中枢(脊髄・脳) → 上位中枢(脳) → 反射中枢 → 運動器(骨格系・骨・靭帯・腱) → 反応
筋けいれん反応までの流れ(反射弓)
刺激 → 感覚器 → 反射中枢 → 運動器 → 反応
筋けいれんなどの、上位中枢(脳)を介さない反応の流れを、生物学では反射弓(はんしゃきゅう)と呼びます。この反射弓によって引き起こされる症状は、自分でコントロールすることができません。
例えば真冬に足の小指をぶつけると強い痛みを感じますよね?しかしこの場合は上位中枢にも刺激情報が届いているため、さすったりするなど、自発的に痛みを抑えようとすれば、痛みはすぐに収まります。ですが寝ている間に脚をつり、それを自発的に抑えようとしても、上位中枢を介しての痛みではないため、「痛みをやわらげろ!」という脳からの指令も患部まで届かないわけなのです。実際につってしまったらどうすればいいの?
つっている状態である時は、α運動神経(脊髄から骨格筋に伸びている太い神経)が過敏になっていると考えられています。ふくらはぎをつった時は、ゆっくりと足首を背屈(爪先を上に向けるような動き)させ、膝を伸ばしていきますよね?これは、つった部位をゆっくりとストレッチしてあげることで、過敏になっているα運動神経を沈静化させてあげている、ということなんです。つまりつった時はただストレッチをすればいいのではなく、ゆっくりとゆっくりと徐々に伸ばしてあげる必要があるわけなのです。
2つの種類が存在する筋けいれん
筋けいれんの原因には大きく分けて2種類あります。体調的原因と、病的原因です。体調的原因は疲労、脱水症状、睡眠不足、妊娠後期などです。一方病的原因は糖尿病、肝硬変、血液透析、甲状腺機能の低下、運動神経(αアルファ運動神経、γガンマ運動神経)の疾患などです。
例えばアスリートの中には疲労度も低いし、脱水状態でもないのに筋けいれんを繰り返し起こす選手がいます。そういう選手の場合は、どこかに疾患を抱えている可能性もあるため、しっかりとした検査をする必要があるでしょう。ちなみにアルコール摂取でも、アルコールの高い利尿作用により脱水状態となり、α運動神経が過敏になり、筋けいれんを引き起こすことがあります。ですのでアスリートの日常的な飲酒は厳禁とも言えます。
どうやってつるのを防げばいいの?!
筋けいれんをよく起こす選手は、2%の食塩水の運動中飲用が効果的だと言われています。本来人間の体液は9%の塩分で、9%の食塩水を生理食塩水と呼びます。ですが9%の食塩水では飲料用としてはあまりにもしょっぱ過ぎるので、2%がベストとされています。
塩分から摂れる栄養分の欠乏も筋けいれんに大きく影響することがあるため、日々極端に薄口の味付けでしか食事を取らない選手も、筋けいれんを起こしやすくなります。その場合は、ほんの少しだけ味付けを濃くすると、筋けいれんの頻発を防ぐことができます。
熱中症は夏だけではなく、冬にも起こることを忘れずに!
アスリートの筋けいれんは熱中症の一部として発症することが多くなります。つまり急激な体温上昇や、脱水症状ですね。ですが熱中症は夏だけの注意事項ではありません。真冬にも熱中症になる可能性はあります。例えば朝方は気温が0℃近くで、昼過ぎには10℃以上になった場合、この寒暖差は体温に大きな影響を与えます。この場合、真冬での熱中症の症状を発症する場合があります。真冬の熱中症を防ぐためにも、冬場の練習でも水分補給は小まめにするように注意してください。
なお体内に水分が足りているか不足しているかは、練習前後の尿の色を確認するようにしましょう。体の状態が良い時の尿の色に比べ、色が濃ければ水分不足で、色が薄過ぎる場合(ほぼ透明)は水分の摂取過多と目安をつけることが出来ます。尿の色をしっかりとチェックしていけば、アスリートとして尿の色だけで自分の見えない部分の体調を確認することができます。
とにかく体をつらないために第一に注意すべきなのは、脱水状態と体温の急激な上昇を防ぐということです。そのためにも運動中の小まめな水分補給、そして体温の上昇を抑えてくれる汗の拭き取りが重要なのです。汗もかきっぱなしにしてしまうと汗腺がふさがれて汗が出にくくなります。発汗しやすい状態を保持するためにも、汗は小まめに拭き取るようにしましょう。