長年野球を続けていると、どんな年代であっても必ず野球に対するモチベーションが下がってしまう時期があります。プロ野球選手であっても、多くの選手は一度は野球をやめたいと考えたことがあると言います。せっかく資質があるのに、モチベーションが下がってしまうことで野球をやめてしまっては、本人のためにもプラスにはなりません。ですのでコーチだけではなく、親御さんも選手のモチベーションが上がるように支えてあげることが大切です。
モチベーションには大きく分けて4つの種類があります。今日はその中でも「ホメオスタシス性動機」についてコラムを書き進めてみようと思います。ホメオスタシスとは、心理学用語で「恒常性」という意味です。つまり、生命を維持するために必要な生理的安定を求める、人間が持つ本能によるモチベーションということになります。かんたんに言えば、本能が「生きたい!」と願うことにより生まれるモチベーションというわけです。
ホメオスタシス性動機は、さらに以下の3つに細分化させることができます。
① 空腹動機
② 呼吸動機
③ 苦痛回避動機
まず①の空腹動機ですが、これはハングリー精神と言い換えると分かりやすいかもしれません。例えば昭和初期中期に活躍したプロ野球選手たちは、誰もがこの空腹動機を持っていました。戦争により日本は貧困にあえいでいた時代で、プロ野球選手になって大金を稼ぎ、お腹いっぱい白いご飯を食べたいという欲求がそれです。お腹いっぱい白いご飯を食べたいという欲求が、野球に対するモチベーションを高めていたのです。
しかし現代人に白いお米と言ってもあまりピンと来ないかもしれませんね。今では白いお米を食べるのが当たり前の時代ですが、戦後日本の一般家庭では白いお米など滅多に食べられるものではありませでした。白いお米は、当時は贅沢な食べ物だったのです。そして現代では食べ物に困ることもありません。食べ物が少ないばかりか、飽和している状態です。ですので日本の現代っ子に空腹動機が働くことはほとんどありません。このハングリー精神の逓減(ていげん)は、日本人アスリート最大の弱点だと言われることもあります。
続いて②の呼吸動機ですが、人間は呼吸をしなければ生きてはいけません。呼吸が妨げられてしまうと、すべてのエネルギーが呼吸をするためだけに使われることになります。例えばピッチャーに10km走らせるラントレーニングをさせるとします。しかしいきなり10kmを走らせて呼吸が困難な状態で走らせてしまうと、それは体力強化には繋がりません。ラントレーニングを効果的に行なうためには、選手の肺活量をしっかりと把握し、その肺活量に則した量を走らせる必要があります。そうしなければ呼吸をすることばかりにエネルギーは消費され、体力そのものの向上が望めなくなります。
最後に③の苦痛回避動機ですが、これは野球をすることで感じられる苦痛を回避しようとするものです。例えば野球のボールは体に当たると非常に痛いですよね。するとその痛みを回避するために、野球というスポーツを避けるための動機が働いてしまうのです。苦痛回避動機の反対語は接近動機です。つまり野球というスポーツが自分にメリットを生じさせると感じられることで、野球というスポーツに接近していく動機として働くものです。
選手の苦痛回避動機を強めないためにも、コーチは選手の接近動機を高めてあげることが必要になります。苦痛回避動機は特に初心者に働きやすい動機となりますので、特に小学生や中学生の世代では、苦痛回避動機を上回る接近動機が必要になります。例えば「コーチは自分を理解してくれている」という感情は、接近動機として働きます。接近動機が働いている選手は、もっともっと野球が好きになり、もっともっと野球を頑張ろうとします。これは上達に対しても大きな影響を与える要素となりますので、ぜひ注意深く選手の動機がどの方向を向いているかを理解する努力をしてあげてください。