ピッチャーにとっての制球力、これは練習によって向上させることも可能だし、練習だけではどうしようもない先天的要素が大きく影響している場合もあります。今回のコラムでは、ピッチャーにとっての制球力を運動心理学という観点から探って行きたいと思います。
まず制球力というのは、水平方向(左右)と垂直方向(上下)の2つの要素があります。水平方向と垂直方向、どちらが制球しやすいかと言うと、これは水平方向への制球になります。右側に投げるか、左側に投げるかというのは、これは一次元での判断になり、一次元での判断は、二次元や三次元での判断よりも容易であると言うことができます。
一方垂直方向へのコントロールは、奥行きという距離への対応が必須になるため、これは三次元に近い判断力が求められます。例えば高さ1mの的を狙ってボールを投げるとしましょう。この場合、10mの距離から投げるのと、20mの距離から投げるのとでは対応が大きく異なります。20mの距離で投げた時の力加減と同じように、10mの距離で投げればボールは的よりも上に行ってしまいます。この距離感覚のことを「空間能力」と呼びます。
空間能力は、男性ホルモンが多い選手ほど高くなります。つまり女性よりも男性、小学生の男子よりも成人男性の方が高くなるというわけです。つまりこれは生理学的に、女性よりも男性の方が物を投げるという動きが先天的に得意であるということになります。
垂直方向への制球はこのように先天的要素が大きく影響します。これを克服するのは非常に困難です。しかし訓練によっては改善させることは十分に可能です。以前「試合前の山なりのキャッチボールがオススメ」というコラムを書きましたが、まさにこれが垂直方向への制球を改善するための練習方法なのです。
強く真っ直ぐなボールを投げるためには、後天的技術が非常に重要です。つまりしっかりと練習やトレーニングを積めば、強く真っ直ぐなボールを投げることは十分可能です。しかし同じ距離で、今度は山なりのボールを投げるとすれば話は別です。強く真っ直ぐなボールを投げられるエースピッチャーであっても、空間能力に乏しいと、相手が立っている位置に山なりのボールを上手く投げることはできません。
小学生の選手は男子であっても、まだまだ空間能力に富んでいるとは言えません。そのため小学生レベルでは良いボールを投げられる子であっても、三塁手や遊撃手の場合、一塁までの正確な距離を空間能力で計ることができず、必要以上に強いボールを投げようとしてしまいます。するとそこには力みが生まれ、力みは制球を乱し、肘の高さを下げ、イップスや肘痛、肩痛を誘発してしまう可能性が出てきます。
これを防ぐためにも、小学生チームの指導者の方には強いボールを投げることと同じくらい、山なりのボールで空間能力を高めるということを大切に考えて欲しいと僕は思っています。練習により少しでも空間能力を高めることができれば、肘や肩を痛める少年野球選手を確実に減らしていくことができるはずなのです。