腕は大きく使って投げちゃダメ!
少年野球の練習風景を見ていると、「もっと腕を大きく使って投げろ!」という監督の怒鳴り声をよく耳にすることがあります。しかしこれは指導法としては間違いだと断言できます。ピッチングというものを考えた時、腕はコンパクトに振るほど良いのです。腕を大きく使って投げるピッチャーは、将来必ず肩痛を起こしたり、制球難に苦しむことになります。
なぜ腕を大きく使って投げると肩痛を引き起こすのか?答えは簡単です。身体を大きく使えば使うほど無駄な動きが増え、それが肩への負担になるためです。また、腕を大きく使い過ぎるとどうしても腕が遠回りしてしまいます。腕が遠回りしてしまうと、肩周辺の筋肉(主に外側の筋肉)が一部のみ酷使されることになり、その酷使が故障へと直結してしまいます。
腕を大きく振るほど制球力が悪くなる?!
そして制球難になり得る理由としては、腕を大きく使うことにより、大きな遠心力が生まれてしまうためです。ピッチング動作においての遠心力は、腕を外側に飛ばそうとするエネルギーを持っています。このエネルギーの指向は、ボールを投げる方向とは異なります。この指向の差異により、制球が乱れてしまうのです。
そして遠心力によって腕が外側に引っ張られてしまうことにより、インナーマッスルを痛めやすくなります。肩関節にある4つのインナーマッスルは、腕が肩から抜けてしまわないように(脱臼しないように)引き寄せる役割を担っています。このインナーマッスルの力よりも、外側に引っ張ろうとする遠心力が大きくなることにより、肩痛のリスクを大幅に高めてしまうんです。
身長196cmのダルビッシュ投手の腕の使い方はとてもコンパクト!
さて、2011年の現時点の日本のエースピッチャーといえば、もちろんダルビッシュ有投手だと思います。彼は本当に素晴しいピッチャーで、メジャーリーグのスカウトマンたちはポスティングで60億円を動かした松坂大輔投手以上の評価をしているほどです。でもダルビッシュ投手は196cmの長身です。これだけ身体が大きいと、どうしても腕を大きく使ってしまいがちです。ですのでダルビッシュ投手はプロ入り2年目に肩を痛めています。ですがその肩痛から復帰してくると、ピッチングモーションは大きく変わっていました。
高校時代からプロ入り1年目までは、まだまだ無駄な動きの多かったダルビッシュ投手のピッチングモーションでしたが、肩痛から戻ってくるとそのモーションはかなりコンパクトになっていました。つまり、無駄な動きがほとんどそぎ落とされていたのです。
ピッチングモーションから無駄な動きが省かれ、腕の振りもコンパクトになったことで肩への負担は軽減され、制球も良くなり、ボールの切れもアップしました。「若い頃に比べるとフォームに迫力がない」と評するプロ野球解説者もいらっしゃいますが、しかし重要なのは見た目の迫力よりも投げるボールの迫力です。
重要なのは見た目の迫力ではなく、投げるボールの迫力!
ピッチングフォーム(見た目)にいくら迫力があっても、右打者の内角にズバッと決められるボールがなければ意味はありません。逆に見た目の迫力が減ったとしても、内角に速球をズバッと決められれば、打者はダルビッシュ投手に迫力を感じずにはいられません。
腕の使い方が大きいピッチャーは、えてして内角に投げ切る制球力が不十分です。逆に身体をコンパクトに使えているピッチャーは、臆することなく内角に投げ切るコントロールを持つことができます。こう考えた時、あなたは見た目とボール、どちらに迫力が欲しいですか?もちろんボールですよね!