アーリーワークと早出練習は似て非なるもの
ここ数年、日本の野球界でもアーリーワークという言葉が定着してきました。しかしこのアーリーワークというものを、正確に理解して取り組んでいる選手、チームは少ないようです。先日僕は、埼玉西武ライオンズの1軍打撃コーチだった熊澤コーチにお話を伺ってきたのですが、アーリーワークと早出練習というものは似て非なるものなのです。
現状では多くのチームで早出練習のことをアーリーワークと呼んでいます。本練習よりも数時間早くグラウンドに入り、ティーバッティングや特守で汗を流す、それをアーリーワークを呼んでいます。しかしこれは、厳密な意味ではアーリーワークではないのです。純粋に早出練習というのは、英語ならばアーリートレーニング、アーリープラクティスとでも呼ぶべきでしょうか。ではアーリーワークとは本来何を意味するのか?!
アーリーワークはどう理解すべきなのか?!
僕自身、熊澤コーチにお話を伺い、自らでも学んだことなのですが、本来のアーリーワークとはコア、つまり体幹トレーニングをするための時間なのです。本練習よりも早くグラウンドに入り、コアをしっかりとコンディショニングしておく、これが本来のアーリーワークの意味です。
コアトレーニングに関しては本屋を覗くと数え切れないほどの書籍が出されています。しかしその中で本格的に練習を頑張っている野球選手が、コアトレーニングへの理解を正しく深められる情報量の多い本は少ないようです。僕自身コアに関する本は何冊も読み漁りましたが、その中でも何度も読んで学びたいと感じた本は1~2冊程度でした。つまり何が言いたいかというと、アーリーワークだけではなく、コアトレーニングに関しても正しい理解が必要、ということです。
アーリーワークに取り入れたいアウフバウ
コアトレーニングに関してはまた後日詳しく解説をするとして、今回はアーリーワークについてもう少し話を進めていきます。トレーニングに少なからず興味を持っている選手であれば、アウフバウトレーニングというドイツのリハビリ系トレーニングメニューについて聞いたことがあると思います。これを導入していくのもアーリーワークの時間帯が望ましいのです。
アウフバウとは簡単に言えば股関節のトレーニングです。これは動きそのものは静かで地味なのですが、本格的に取り組むとウェイトトレーニングよりもはるかにきついトレーニングとなります。日本の野球界では工藤公康投手がアウフバウにより選手寿命を延ばし、さらには熊澤コーチのアドバイスによりアウフバウを取り入れたことで、メジャー時代の松井稼頭央選手は復調することができました。
アーリーワークでは肩甲骨、股関節、コアをしっかりと鍛えよう!
野球選手は比較的、肩に関しては神経質に考えたりしますが、しかし同じ臼関節である股関節に関しては無頓着な選手もまだ多いようです。肩関節と股関節は無数ある人体の関節の中で、この2つだけが回旋運動をすることができます。言い方を変えると、肩と股関節に関しては回旋運動が加えられていることが、本来のメカニズムに則した動作だと言うことができます。
つまり、回旋運動のない肩・股関節の使い方は、本来人間が持っているメカニズムを無視した使い方である言うことができ、これは故障を引き起こす大きな要因ともなります。
肩関節(厳密に肩甲骨)、股関節、コアを、しっかりと運動ができる状態にウォームアップ&トレーニングする時間が、アーリーワークなのです。アーリーワークとは早出特打ちをする時間ではないわけなのです。本来のアーリーワークは、グラウンドに選手が寝そべって、リラックスをしながらコアをトレーニングしたり、臼関節の可動性を高めることを目的とします。
これは、切れないのこぎりと丸太の話そのままです。切れないのこぎりで一生懸命丸太を切ろうとするよりも、切れないのこぎりを一度研いでから丸太を切った方が、はるかに効率よく丸太を切ることができます。アーリーワークとはパフォーマンスを高めるための、のこぎりを研ぐ時間であると考えてください。