かなりガッカリしたとある有料野球塾のレッスン内容
先日、都内のとある有名野球塾のレッスン内容を拝見させていただきました。もちろん有料の野球塾で、グループレッスンを主に行なっている野球塾です。けっこう良いレッスン料金なのですが、その内容に少々驚いてしまいました。
その日は小学生の硬式野球選手たちがレッスンを受けていたのですが、いわゆる「特打」を行なっていました。もちろん特打が悪い練習というわけではないのですが、しかし驚いたのは、基礎がまったく身に付いていない選手たちに特打をさせていたことです。
足の使い方もまるでできていないし、バットのヘッドも下がっているようなレベルの選手たちに、100球も200球も、まるでバッティングセンターのように打たせていました。その野球塾は非常に広い屋内練習場を持っており、ノックもできるようなところですので、もちろんフリーバッティングをすれば気持ちは良いと思います。
ですがファンダメンタル(基礎動作)がまるでできていない子たちに特打をさせても、その悪いフォームを体に覚え込ませるだけの作業になってしまいます。特打をさせるなら、しっかりとファンダメンタルを身につけさせて、良いフォームを作ってから、その良いフォームを体に覚え込ませるためにやらせるべきです。
悪いフォームのまま特打をさせても、その悪いフォームを体に染み込ませるだけの作業になり、上達までどんどん遠回りするようになってしまいます。フリーバッティングでは打ちやすいボールしか来ませんので、極端な話、基礎がまったくできていなくても器用さと腕力があれば打球を飛ばすことはできます。しかしそんな打ち方では試合でヒットを打つことなどできません。個人的にはかなりガッカリなレッスン内容でした。
打ち込ませる前にファンダメンタルを叩き込むアメリカの野球塾
おそらくそこの野球塾のコーチたちは、野球動作を理論的に学んでいないはずです。その日のレッスンや、受講生に他の日のレッスン内容を詳しく聞かせてもらっても、理論に基づいた指導はまったく行われていないようで、野球部の練習に毛が生えたような感じのものでした。
もちろん中には僕のレッスンように、しっかりとした理論に基づいた指導を受けられる野球塾も東京近辺には多少はあります。しかしこのように、野球部の練習と大差ない根性論的なレッスンを行なっている野球塾の方が多いと言えます。僕が知る限りでは、東京近辺で理論的なレッスンを受けられる有料野球塾は、十分片手の指で足りてしまう程度の数です。
ほとんど野球塾は、ただの野球経験者が経験則を中心に「自分が正しいと思い込んできたこと」を教えるだけのレッスンを行っています。そのような野球塾に通うくらいなら、野球中継を観て野球を勉強していた方が上手くなれるというものです。
アメリカにもベースボール・アカデミーはたくさんあります。しかし上述したように、ファンダメンタルができていない選手に特打をさせることは決してありません。しっかりと理論的なレッスンをし、ファンダメンタルを選手たちに叩き込み、基礎ができた上でそのフォームを固めるための特打を行います。と言っても、100球も200球も打たせるようなことはしません。
しっかりと下半身主導のスウィングをすると、ひとりで100球連続なんてとても打てません。10〜20球程度でも疲れを感じてしまうはずです。ひとりで100球連続打つためには、楽なフォームで打ってこなすしかありません。しかし楽なフォームでヒットを量産できるほど、野球は甘いスポーツではありません。
野球塾は肩書きでは選ばないで!
野球塾を選ぶ際は「元プロ野球選手」や「有名スポーツメーカー」という肩書きで選ぶことは絶対に避けてください。その「元プロ野球選手」がしっかりとバイオメカニクス(スポーツ動作の科学)を学び、経験則ではなく、理論に基づいたレッスンをできる人なのかどうかを確認してください。それができないコーチなら、その野球塾は避けるべきです。
元プロ野球選手だろうが、僕のようなプロ野球選手経験のないパーソナルコーチだろうが、しっかりとバイオメカニクスを学んでいるコーチはたくさんいます。ただ、野球塾でレッスンをしているコーチの中には、まだまだそのような有能なコーチは少ないのが現状ですので、野球塾を選ぶ際には注意が必要です。
例えば肩肘を痛めにくい投げ方、腰や手首を痛めにくい打ち方というものが科学的に存在しているのですが、そのようなフォームを理論的に教えられるのかという質問は、野球塾を選ぶ際の大きな参考事項になると思います。そこで理論的にわかりやすくレクチャーしてくれるコーチなら、安心して受講して大丈夫だと思います。
しかし肩肘を痛めないためには「足腰を鍛えよう!」といった類の話をするコーチは要注意です。もちろん足腰の鍛錬は必要ですが、足腰を鍛えたからといって肩肘の故障を回避することはできません。バッティングで言えばマスコットバットを振らせたり、体力に見合わないスウィング量課すようなコーチは要注意ですね。
ちなみに科学的には、マスコットバット(通常よりも重いバット)を日常的に振ってもスウィング速度は速くなりません。むしろ遅くなると言えます。マスコットバットを普通の重さのバットのように速く振ることはできません。そのマスコットバットを日常的に振り続けてしまうと、遅いスウィング動作を筋肉に覚え込ませる作業になってしまい、打席での瞬発力を養うことはできなくなります。
マスコットバットとスウィング速度に関する研究はすでに科学的に行われており、マスコットバットを日常的に振ってもスウィング速度は速くならないと証明されています。それどころか、マスコットバットの多用により腰椎分離症を多発させているというリサーチもあります。ですのでマスコットバットは、打席に入る前の2〜3スウィングだけにし、普通のバットを軽く感じられるような錯覚を生み出すためにだけ使うようにしてください。
野球塾の選び方に関するまとめ
話は長くなりましたが、せっかく野球塾に通うのであれば、しっかりとスポーツ科学を学んでいるコーチがいる野球塾を選ぶようにしてください。スポーツ科学を学んでいるコーチは、10人の選手がいたら10種類の指導を行うことができます。しかしスポーツ科学を学んでいないコーチは、10人の選手全員に同じレッスンしか行うことができません。
野球塾を選ぶ際は以下のような質問をコーチにぶつけてみてください。
- 肩肘を痛めにくいフォームを理論的に教わることはできますか?
- 筋トレに頼らず動作改善によって、肩肘への負荷を高めずに球速を上げられますか?
- 投げ込みではなく、動作改善によって制球力を向上させられますか?
- 筋力や体格に頼らず、動作改善によって長打力をアップさせられますか?
- 打ち込みではなく、動作改善によって頭が移動しない打率が上がりやすいフォームを身につけられますか?
上記のような質問をコーチにぶつけて、理論的にわかりやすくレクチャーしてくれるかどうかを確認してみてください。もしここで答えが曖昧だったり、話を違う方向へ持っていこうとするコーチであれば、その野球塾は例え元プロ野球選手がコーチだろうが、有名スポーツメーカーの野球塾だろうが、避けるべきです。
上手くなれる選手というのは野球塾に通わなくても、放っておいても上手くなれます。野球塾の役割というのは、その上達速度を速めることと、間違った動作を理論的に正しい動作に改善していくことにあります。根性論や経験則で選手の上達を遠回りさせるようなことがあってはならないわけです。
だからこそ野球塾を選ぶ際は、必ずコーチがバイオメカニクスを学んでいるかどうかを、上記のような質問により確認するようにされてみてください。