当野球塾では体重移動をするウェイトシフト打法ではなく、体重移動をしないステイバック打法の指導を中心に打撃コーチングを行なっています。その理由はたくさんあるわけですが、今回はその中でも利き手にフォーカスしてみたいと思います。
まずバットスウィング時の手ですが、右手か左手か、必ずメインで使われる手が存在します。両手でガッチリとバットを握る持ち方もあるわけですが、そうしてしまうとバットスウィングの速度が低下してしまいます。車と同じですね。四駆は踏ん張りは強くなりますが速度は低下し、二駆だと踏ん張りは弱くなっても速度は出やすくなります。ただし人間の場合は手と足が独立していますので、踏ん張りに関しては足に任せてしまえば問題ありません。
バットスウィングを速くさせるためには、右手か左手かのどちらかをメインで使う必要があります。右打者の場合、左手をメインで使うと体重移動をする打ち方になり、右手をメインで使うと体重移動しない打ち方になるんです。
右打者の場合は、ほとんどの選手の利き手は右だと思います。箸や鉛筆は左手なのに、打つのだけが右という選手はほとんどいないのではないでしょうか。箸や鉛筆が右であれば、バッティングも右という選手がほとんどだと思います。
右利きの右打者であれば、当然ですが利き手である右手をメインに使った方が正確性もパワーも高まります。単純に右手の方が器用で力がありますので、それならばバッティングでも右手をメインで使った方が良いというわけです。
わたしのコーチングでは右投げ右打ち選手を、一塁に近いからなど、そのような小さな理由のために右投げ左打ちに変えることはやめるべきだ、と選手には伝えています。その理由は右投げ左打ちの場合、右手メインで打つとウェイトシフトになってしまいますし、ステイバックで打つにしても利き手ではない手をメインで使うことになってしまいます。
例えば松井秀喜選手という偉大な日本人選手がいました。彼は元々右投げ右打ちでしたが、途中である理由から右投げ左打ちに変えているんです。そのためにステイバックで打ちに行く際、利き手ではない左手をメインで使わなければならず、その分パワーが低下してしまい、メジャーではホームランバッターになることができませんでした。もし松井秀喜選手が右投げ右打ちのままであれば、メジャーでも巨人時代同様に3割を打てるホームランバッターとして活躍し続けたのではないでしょうか。
利き手というのは必ず存在するものです。その利き手を利き手として使っていかなければ、バッテイング技術はなかなか向上していきません。右利きの選手が右投げ左打ちに変えてしまうと、体重移動をする打ち方しかできなくなり、ジャストミートすれば飛んで行ったとしても、打率はなかなか上がらない選手になる可能性が高くなります。
確かに、プロ野球の近年の首位打者を観察していると右投げ左打ちの選手は多くいます。ですがこれは日本の野球界がこの10年前後、多くの選手が右投げ左打ちに転向したことも理由の一つだと言えます。20年前より以前の首位打者を観察すると、打者の左右はそれほど大差はありません。また近年のプロ野球のドラフトでは右投げ左打ちの選手は敬遠されがちです。その理由は日本球界が右投げ左打ちの選手が飽和状態であることと、ホームランバッターを育てにくいという点です。
あとは選手の考え方次第だと思います。ボテボテの内野安打を増やしてでも首位打者を目指せる選手になりたいのか、それともアウトになった時でも強い打球を打ってアウトになりたいのか。もちろん後者でも首位打者を目指すことはできますし、実際そのようなタイプの選手が首位打者を獲った例はたくさんあります。
これは個人的な意見ですが、やっている選手からすれば強烈な打球を打てるようになる方が野球が楽しくなると思うんです。ボテボテの内野安打で出塁をしても、確かに打率は上がりますが、そればかりではあまり楽しめないような気がします。結果で勝っても、勝負では投手に負けたことになりますので。
当野球塾で育成しているのは勝負に勝てる選手です。勝負に勝って結果で負けることもありますが、40%くらいの確率で勝負でも結果でも勝てれば良いわけです。もしくは35%くらいは勝負でも結果でも勝ち、5%くらい勝負で負けて結果で勝つ形にできれば、それで十分4割バッターになれるわけです。
強烈な打球を打って、まずは投手との勝負に勝つ。これが当野球塾の考え方であり、ヒットになるかならないかはその結果次第なのです。例えばメジャーリーグの偉大な左打者トニー・グウィンは、投手に打たされて引っ張って打って風に乗ったホームランを嘆き、理想通りの形で強烈なショートライナーを打てると、アウトになっても喜んだと言います。この考え方こそがメジャーリーグで首位打者を8回獲る結果に繋がったのです。まさに、まず投手との勝負に勝つことを考え続けた打者のひとりが故トニー・グウィンでした。