野球指導の現場で時々「体を大きく使って投げなさい」という言葉を耳にすることがあります。しかし体を大きく使う投げ方というのは、実はそれほど大きなメリットがないばかりか、ポジション問わず肩を痛める原因になることが非常に多いんです。野球指導者は決して混同してはならないんです、体を大きく使う投げ方と、体全体を使う投げ方を。
理想の投げ方というのは、体全体を使ってコンパクトに腕を振る投げ方です。プロやメジャーのエース級のピッチャーたちをよく観察してみてください。腕を目一杯大きく使って投げている投手はほとんどいないと思います。日本人投手で言えばダルビッシュ投手や大谷翔平投手ら、身長が高くてもコンパクトでとても良い投げ方をしています。
肩関節は内旋・外旋という回す動作を行うことができるのですが、この内外旋を適切な順序で使わなければ怪我をするリスクが大きくなってしまいます。言い方を変えると、内外旋させるのが肩関節にとって自然な動き方となります。しかし体(特に腕)を大きく使って投げてしまうと肩関節が内外旋しなくなり、肩関節の一箇所だけが消耗してしまい野球肩を引き起こしてしまいます。
逆に腕をコンパクトに振ることができると、肩関節を内外旋させやすくなり、投球時の負荷を肩周辺の複数の筋肉に分散させることができ、怪我のリスクを軽減させられるようになります。とは言え、内外旋の順番を間違ってしまうと意味がないため、投球動作の中で適切な順番で内外旋動作を入れていく必要があります。
野球をする上で何よりも重要なのは、怪我をしないということです。しかし「体を大きく使いなさい」という指導をしてしまうと、遠心力に肩関節を引っ張られてしまう怪我をしやすいフォームで投げるようになってしまいます。上述した通り「体全体を使い、コンパクトに腕を振る」が怪我をしないフォームを身につけるための正しい指導ということになります。
そしてもう一つ付け加えておきますと、腕をコンパクトに振った方がストレートのバックスピンの角度が良くなり、回転数も増え、伸びのあるストレートを投げられるようになります。
体を大きく使うと、バッターを威嚇・威圧できると考えている指導者もいるようですが、そんな小手先のやり方などしなくても、質の良いボールを投げられるフォームを身につけられれば、怪我なく勝てる投手を育てることができるのです。