球速アップとは現在最速120キロを、最速130キロにすること。この考え方は間違いです。もちろん数字的に、もしくは言葉的には間違っていません。しかし野球のスキルアップという観点からすると、この「考え方」は間違いです。正しくは、現在全力で投げて120キロの球速を、80%の力で投げられるようにすること。これこそが球速アップの正しい考え方であり、当野球塾でも変わらずに貫いている点でもあります。
ダルビッシュ有投手の言葉を借りるならば、筋肉量を増やし、少ないエネルギー量で筋出力を上げて球速アップを図る。これも球速アップの一つの方法ではありますが、当野球塾に於いては筋肉には頼らず、あくまでも技術向上により小さい出力でも球速をアップさせられる流れでコーチングを行なっています。
ストレートというのは数ある球種の中で、肩肘にかかる負荷は最も大きくなります。その理由は単純に、球速が一番速いからです。例えばストレートを100球投げるとかなり疲れますが、セーフティカーヴとも呼ばれるドロップを100球投げてもそれほど疲れません。体の構造に乗っ取った適切な動作でボールを投げられれば、実は変化球を投げても肩肘にかかる負荷は大きくならないのです。逆に体の構造に反した動作で投げてしまうと、変化球を一切投げていなくても簡単に肩肘を痛めるようになってしまいます。
肩関節は上下内外転、水平内外転、屈曲・伸展、内外旋と様々な動きができるわけですが、この中で投球時に使うのは内外旋のみです。セット(もしくはワインドアップ)からテイクバックに向かう際に、肘を肩線分上に入れるために少しだけ外転動作が入りますが、これは慣性(振り子の原理)によって行います。それ以降ボールを握っている間は内外旋動作しか使いません。
そしてこの内外旋には正しい順番があります。セットポジションから数えていくと外→内→外→内という順番になります。ですが少年野球の指導現場のほとんど99%は、2つめの外、つまりトップポジションを外旋ではなく内旋させるように教えてしまっているんです。本屋さんで売られている一般的な野球教則本の多くにも、体の構造に反した動き方が説明されてしまっています。
結論として何を言いたいのか?それはいくら筋肉量を増やしたところで、そこに技術がなければ意味はないということです。いくら筋肉を増やして球速をアップさせたとしても、怪我をしやすい投げ方をしていてはまったく意味がありません。
逆に体の構造に則った投げ方ができれば、球速をアップさせられる多数の技術を身につけられるようになり、筋肉に頼らなくても球速をアップさせられるようになります。ただし筋力トレーニングは必要です。良い投げ方で球速がアップしてきたら、筋肉を増やすことによって速球からの負荷を軽減させる必要があります。つまり筋肉は球速アップの道具ではなく、アップした球速からの負荷に耐えるためのプロテクターというわけですね。
球速が目に見えてアップしてきたら、高校以降で本格的な筋トレを始めれば良いと思います。中学生のうちは体育の授業でやるような基本的な筋トレのみにし、体の成長を筋肉で縛りつけないことが大切です。そして小学生に関しては筋トレは必要ありません。小学生のうちは敏捷性がアップしやすいので、それに関連したトレーニングをメニューに加えていくと良いと思います。
当野球塾に通っている選手たちも、プロアマ問わず95%以上もの選手が肩関節の内外旋が逆、もしくは一部間違っています。そして内外旋以外の不必要な動作を多く入れてしまっていることで怪我のリスクを高め、パフォーマンスを低下させてしまっています。プロもアマも同様ということを考えると、やはり小学生のうちから正しい投げ方を身につけることが大切だと言えます。いえ、違いますね。小学生のうちに大人が誤った投げ方を教えないということが何よりも大切です。