投球時のリリースポイントを少しでも打者寄りにしたいという思いは、すべてのピッチャーの共通点だと思います。しかしリリースポイントを打者寄りに持っていくための動き方を間違ってしまうと、ボールの回転数が減って打者を刺し込ませることができないだけではなく、肩を痛めやすい投げ方になってしまうため注意が必要です。
投球動作に関して何の知識もなく、ただ漠然とリリースポイントを打者寄りにしようとすると、どうしても肩関節を動かすことによって手部を打者に近付けようとしてしまいます。すると投球時、肩関節が水平内転する幅が必要以上に大きくなってしまい、肩関節の中心〜後方にかけての負荷が高まり、野球肩になりやすい投げ方になってしまいます。
また、肩関節の水平内転によってリリースポイントを打者に近付けようとすると、ストレートをリリースする際、手のひらが捕手と正対せず、少し内旋気味となってしまい、ボールにシュート回転がかかってしまいます。
ではどうやってリリースポイントを打者よりに近付ければいいのか?!
投手育成コラムを毎回お読みいただいている方であれば、もしかしたらもうお気付きになられたかもしれません。答えは股関節の内旋動作です。右投手ならば左股関節、左投手ならば右股関節を深く内旋させていくことにより、リリースポイントを打者寄りに近付けていきます。
踏み出す足が着地する際、同じ側の股関節を最大外旋させられると、そこからその股関節は最大限内旋して行きやすくなります。すると肩関節はほとんど動かすことなくボールを握った手部を捕手方向へと動かしていくことができます。肩関節をほとんど動かさなくて良いということは、肩にかかる負荷もほとんどなくなるということです。
非軸脚側の股関節をランディング以降(非軸足の着地以降)深く内旋していけると、右投手の場合であれば、胸が少し一塁側ベンチを向いた状態でストレートのボールリリースを迎えることができます。胸が一塁側ベンチを向いて、少し斜めになっている分右肩の位置は、胸が真っ直ぐ捕手方向を向いている時と比べると打者に近い場所に置けるようになります。
そして右肩の位置が打者に近付くということは、同時にボールをリリースしていく手部の位置も打者寄りになっていくことになります。逆に股関節を深く内旋させられず、胸が真っ直ぐ捕手方向を向いて、肩関節の水平内転動作によって手部を打者に近付けようとしても、実はリリースポイントはほとんど打者寄りになっていかないんです。非軸脚側の股関節が内旋され、ボールリリースでの胸の向きが少し斜めになってきて初めて、リリースポイントが打者寄りになっていくんです。
プロ野球選手で言えば楽天イーグルスの岸孝之投手や、埼玉西武ライオンズの今井達也投手らが良い例だと思います。本コラムを書いている時点で今井投手はまだプロのマウンドには立っていませんが、今井投手の投球モーションは、プロ入り2〜3年以内で10勝前後勝てる投手の典型的な好例だと言えます。それだけ非軸脚側の股関節を深く使うことができ、リリースポイントを打者寄りにすることができていて、それほど速いストレートを投げなくても打者を刺し込んでいくことができるモーションだと見ることができます。
プロアマ問わず、全力投球をしなくても打者を刺し込んでいけるのは、非軸脚側の股関節を上手に使えている投手です。この股関節の内旋を深く使っていくことができると、リリースポイントは10〜20センチ打者寄りになります。これはメジャーリーグでも同様のことが言えます。メジャーで勝てる投手の多くは股関節の使い方が上手く、リリースポイントを打者寄りに近付けることができています。
リリースポイントを打者寄りに近付けることは非常に重要なことです。ですがそのやり方を間違えてしまうとパフォーマンスが低下するだけではなく、故障の原因を作ってしまうことにもなりますので、特に投手を指導されている方は注意が必要です。