プロ野球選手のように2軍に落とされてしまうと給料が減り、生活に関わってくるという場合は痛みを押すこともやむを得ないかもしれません。現に痛み止めの注射を打ちながら、痛みに堪えて投げ続けるピッチャーもいます。ですが学生野球では痛みがある選手は絶対に投げてはいけません。
「短いイニングだけ」と言ってマウンドに送り出す監督もいるようですが、これもありえません。痛みを訴えている時点で投球禁止にすべきです。そうしなければ、子どもの将来を奪ってしまうことになるからです。例えば小学生時代に無理して痛めた肩肘のせいで、中学・高校で野球ができなくなったとしても、少年野球チームの監督は決して責任など取ってはくれません。ある意味、痛みを訴えている選手に投げさせる監督というのは、その子の将来に対し無責任極まりない起用を行っているということなのです。
ちょっとラジカルな表現ではありますが、しかしそのようなチームが1つや2つではないのです。この6年ほどで数百人の選手たちをコーチングしてきましたが、痛みがあっても投げさせられた経験を持つ投手は何十人もいて、そのようなチームも思い出せるだけでも20例以上あります。
もう一度言いますが、中学・高校に入ってから投げられなくなったとしても、少年野球チームの監督は責任など取ってくれません。更には「責任を取ってくれるんですか?」と言うと、「じゃあチームを辞めてもらって構いませんよ」と逆ギレする監督も現に存在しています。
少年野球は往々にして大人の事情で試合を組まれがちです。そして大人の事情で子どもたちを酷使しがちです。先日の5連休の5日間で10試合以上行ったとわたしに伝えて来てくれた親御さんが、実に4名もいらっしゃいました。5日で10試合だったとしても、少年野球の場合は50イニング前後になるのでしょうか。
プロ野球であっても週6試合で54イニングです。小学生がたった5日間で50イニング戦うというのは、これは教育でもなんでもありません。大人のエゴによる子どもの酷使に他なりません。そもそもプロ野球選手であっても6日で6連戦を戦うというのはかなり疲れるものなのです。それを考えていただければ、5日で10試合・50イニング以上というのがどれだけ酷いペースであるかをおわかりいただけると思います。
小学生のうちはとにかく基礎を大切にして野球を楽しみ、野球を好きになってもらうことを最優先にすべきです。すると中学に入ってから「野球が好き」という気持ちから、「もっと上手くなりたい」と本格的な努力をできるようになり、中学で努力をしておくと高校に入ってからグンと伸びていくことができます。しかし逆に、小学生のうちに肩肘を酷使してしまえば、中学・高校でどんどん尻すぼみになってしまいます。
わたしが感じるに、多くの少年野球の監督というのは子どもが好きで、子どもたちを大切に考えているわけではないと思います。ただプロ野球の監督の気分を味わいたいだけなのではないでしょうか。尊敬すべき指導者も多い中で、それ以上に多いのが子どもたちの将来を無視する指導者の存在です。この現状を変えて行かない限り、日本球界の底上げというのは将来的にかなり難しくなるのではないでしょうか。