まず斎藤投手の映像を見てみましょう。
この映像は2015年6月26日に、埼玉西武ライオンズの森友哉捕手にホームランを打たれたシーンです。この映像から斎藤投手の投球動作の特徴を挙げるとすれば、
- 右膝がディップしている
- ランディング後(接地後)に左膝が回っている
- フォロースルーを途中で止めてしまっている
- リーディングアーム(グラブ側の腕)をほとんど使っていない
- 左股関節を上手く使えていない分重心が高い
- 投球動作のリズムが一定でタイミングを合わせやすい
悪いところばかりを挙げるとすれば、これらの点がまずパッと目についてきます。本当は良い点も挙げたいのが正直なところではありますが、この映像だけで見ると、なかなか良い点を挙げるのが難しいというのが現状です。投手コーチであるわたしとしては「斎藤祐樹投手をお手本にすると良いです」と言うことはできません。
斎藤投手は両股関節を上手く使えていないように見えます。股関節とは下半身と上半身のつなぎ目ですので、この部位を上手く使うことができなければ、下半身で作り出した大きなエネルギーを上半身に伝えることができなくなり、上半身投げをするしかなくなってしまうのです。あえて厳しい評価をするならば、右腕だけで投げているのが映像の斎藤投手です。
右投手の場合は、右腕よりも左腕を使い、左腕のリードによって右腕を良い形で動かしていく必要があります。そしてその前提として下半身の動作が良くある必要があります。しかし斎藤投手のこの映像の動作は重心が高く、股関節を上手く使えておらず、さらには左腕に力強さがまったくなく、まさに右腕一本で投げているような印象です。
斎藤投手が今後プロで通用するボールを投げていくためには、まずは右膝のディッピングモーションを改善した方が良いと思います。ディップしている映像の動作では、ディップすることによってステップ幅が狭くなってしまい、そのため重心を下げられない状態になっています。さらにはディップした右膝をバネのように使い投手版を蹴ってしまうことにより、ランディング後の左膝がその勢いでブレながら回ってしまっています。左膝は右投手の制球力にとっては命とも言える部位です。ここが不安定ということは、当然厳しいコースに投げ切る制球力を持つことはできなくなります。
そして左股関節も流れてしまっているように見えます。左股関節は、球速をアップさせるために支点としてしっかりと安定させ、深く曲げながら回していく必要があります。
斎藤祐樹投手はクレバーで、さらには多少頑固なところもあるのでしょうか。現時点ではまだ斎藤投手自身が考えているメカニズムが上手くは行っていません。しかし自分で考えながら野球に取り組むセンスを持った選手ですので、考えがはまった時にはついに殻を破ることもできるのではないでしょうか。
野球センス、人気面から考えても、1・2軍を行ったり来たりして終わるような選手ではありません。背番号も18を背負っているのですから、やはり近い将来、できるならば今シーズン中に覚醒してもらいたいとわたし自身は願っています。しかしそのためには、今以上に質の高いボールを投げるための動作改善が必要であると、わたしは投手コーチという職業から強く実感しています。
今季ここまでは14イニングスを投げて自責点は14となっています。ヒットも24本打たれています。斎藤祐樹投手はこのような成績でいて良い投手ではありません。しかしこの成績なのだから、今までと同じ考え方、同じ取り組み方ではいけない、ということも確かです。
右腕主体でボールを投げている点と、フォロースルーが途中でストップしている点を見ても、また肩を痛めはしないだろうかと心配にもなってしまいます。
2006年夏の甲子園決勝、初戦ももちろんテレビ観戦し、引き分け再試合も新幹線の中で携帯電話で見入りました。その時の勇姿をテレビで見続けていたからこそ、わたしは斎藤投手には1日でも早く殻を打ち破ってもらいたいと願っているのです。