テンションが低い=冷静、という図式は成り立ちません。つまりカッカしていなかったり、イライラしていない状態が冷静である、という訳ではないのです。冷静さには二段階あり、まず自分がどのような状態・状況であるかを俯瞰できているということが第一段階です。第二段階はさらに、相手(対戦相手や味方野手)のこともしっかりと把握できている状態です。いわゆる孫子の「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という状態のことです。
例えばマウンド上でカッカしていたとしても、「自分はカッカしているしイラついている」と自覚ができれば、その状態は冷静だと言えるのです。チームメイトから見ていつもの状態ではないと感じられている時、それでも「カッカしてなんかいません」と言ってしまうのは、これは完全に冷静さを失っている状態です。
人間がマウンド上で投げている限り、多少なりとも味方の凡ミスにイラついたり、打たれてカッカしてしまうことは絶対にあるものです。人間には強い感情がありますので、これは当たり前のことです。しかしここで「自分は今カッカしている」と冷静に考えられるか否かで、選手としての器には雲泥の差が生じてくるのです。
チームメイトから「落ち着けよ」と言われ、「落ち着いていますよ」などと反論してはいけません。チームメイトが「落ち着けよ」と言うということは、それは落ち着いて見えていないということなのです。落ちついて見える選手に対し「落ち着けよ」と言うことなど絶対にないのです。ですのでこんな時は「そう言ってくれるということは、自分は落ち着けていないんだな」とチームメイトの言葉を捉え、冷静になるきっかけにしなければ、チームの和を築き上げることはできません。
アマチュア選手の場合、特にチームの和は重要です。故三原脩監督は「アマは和して勝ち、プロは勝って和す」という言葉を残しているほどです。チームの和を強くするためにも、試合の中心となる投手は特に冷静さを欠いてはならないのです。繰り返しますが冷静さと低いテンションはイコールではありません。これに関しては勘違いされないよう注意してください。
冷静になりたい時はまず、今自分がどのような状態であるのかを俯瞰するところから始めてください。これは普段から心がけていれば、試合中に行うことも難しいことではなくなります。冷静ではない投手に「付いて行きたい」と感じる野手はいません。味方野手を本当の意味で味方にし、「この投手を勝たせてあげたい」と思ってもらえるように、投手はどのような状況であっても冷静さを保つことが非常に大切なのです。