ピッチング技術を向上させるためには、まずは技術の難易度を下げてトレーニングをするという取り組み方も効果的です。例えばブルペンで投球練習をする際、ひたすらアウトローだけを狙って投球を続けることがあります。確かにこの練習を繰り返し、技術を習得することができれば、針の穴を通せるほどの制球力を身につけられるかもしれません。ですがプロ野球を見ても分かるように、それほどの技術を持っている投手などほとんど存在しないのです。打者が10打席中で3回ヒットを打てれば一流と言われるように、投手の場合は10球中6~7球が構えられたキャッチャーミットに行けば合格なのです。
バッターよりもピッチャーの方が高い確率が求められるのは、バッターはピッチャーが投げたボールを打たなければならないということに対し、ピッチャーは100%自分主導でプレーを始められるからとなります。
難易度を下げると言えば、18.44mを短くして投げるということも一つの方法です。確かにこれは効果的な練習法ではあるのですが、しかしネックは距離が短くなるほど、リリースの発射角度に変化が生じてしまうということです。ですがそれをしっかりと踏まえた上で取り組むのであれば、これは非常に効果的な練習方法だと思います。
投手育成コラムで奨める難易度の下げ方は、ストライクゾーンを大雑把に分けるということです。最も細かく分けると、ストライクゾーンは5×5の25分割、6×6の36分割などにでき、その真ん中には決して投げないという練習法などがあります。そしてさらにはストライクゾーンの四隅、コーナーを際どく突いていく練習をしたりします。ですがこれらは非常に難易度が高い練習法です。熟練した技術を持つプロ選手であっても、決して簡単なプレーではありません。
ですので最初は、ストライクゾーンをもっと大雑把に分割しましょう。4分割や2分割で大丈夫です。2分割であればストライクゾーンの右か左か。4分割なら右上、右下、左上、左下ということになります。2分割でしっかりと投げ分けられるようになったら4分割に進むというように、徐々にレベルアップしていきましょう。これはシーズン直前の練習でも有効ですし、試合直前の投球練習でも効果的です。難易度を下げて、そこからどこまで難易度を上げられるかによって、その日の状態を試合前に正確に知ることもできます。
難易度を下げるというのは、レベルの高い選手からするとプライドが許さないということもあるでしょう。しかしプロ野球で精密機械と呼ばれた制球力抜群の投手たちの多くは、全盛期であってもまずは低い難易度から状態を確かめていく作業を怠りませんでした。
さらにもう一点挙げておくと、ブルペンでは良いのに、試合になると制球が乱れるというタイプの投手がいると思います。このような場合も難易度を下げることが有効なのですが、どう下げるかと言うと、キャッチャーしかいない、という風に想像するのです。試合では当然打者も球審もいるわけですが、最初はその2人は完全無視です。ブルペン同様、キャッチャーしかいないと想像し、難易度を下げてから投球に入ると落ち着いて投げられることもあります。
場合によってはブルペンから打者と球審役を立て、打者も球審もいないと想像するトレーニングをしても良いでしょう。これはなぜ必要かと言うと、打者と球審が立っているだけで、投手の目から入ってくる情報量は一気に増えてしまうのです。すると集中力が追い付かなくなり、キャッチャーミットに集中し切れなくなってしまうのです。その結果、ブルペンでは良いのに試合では崩れてしまうということになってしまいます。しっかりと投げる目標(ミット)に集中するためにも、まずは頭の中から打者と球審の存在を消し去るというということが高い効果を発揮するのです。
試合になると乱れてしまうというタイプの投手は、ブルペンで打者と球審が立っていると想像する練習ではなく、逆に試合で、打者も球審もいないという風に想像し、ピッチングという非常に難しい作業の難易度を自分自身で下げられるように工夫をしてみてください。