投手育成コラムでは過去何度か、投手は筋肉を増やし過ぎるべきではないと書いてきました。このことをもう少し書き進めてみたいと思います。まず筋肉が大きくなり過ぎてしまうと、投球時の腕を大きく振ることでしかボールが投げられなくなってしまうのです。つまり、より体から遠いところでボールをリリースしなければならず、これではボールに与えられるスピンも減り、初速と終速の差も大きくなってしまいます。初速150kmのボールを投げられたとしても、終速が130km台まで落ちてしまっては意味がありません。
肩・腕・胸・背筋を大きくし過ぎてしまうと、どうしても腕の可動域に制限が出てきてしまいます。制限がかけられることにより、腕は遠回りしてしまうのです。ですので投手の筋力はあくまでも、強いボールを投げた時の衝撃に耐えるという意味で強化するようにしましょう。
スローイングアームの可動域が狭まれば、ボールに与えられるスピンは減ります。これはストレートだけではなく、変化球にも同じことが言えるのです。ではスピンが少ない変化球はどうなるでしょうか?答えは簡単ですね。打者よりも大幅に手間で変化をしてしまい、打者の手元まで行ったころには曲がり終えてしまいます。打者からすれば、曲がり終えた変化球ほど打ちやすい球はありません。実はこれが、変化球を活かすためにはストレートが重要であるという理由の大きなひとつなのです。
スライダーやカッターといった変化球は、打者の手元で曲がってこその変化球です。もし打者が捕手寄りに立っていれば、良い変化球であっても曲がり終えている可能性があります。だからこそボールに、より多くのスピンをかけるため、スローイングアームの可動域を狭めてしまうようなトレーニングは避けなければならないのです。
初速と終速の差が10kmあったとしても、終速が150kmであればそう簡単には打たれないとは思います。しかしそのためには初速160kmのボールを投げることが求められ、それができるのは本当に限られた一部の投手だけです。だからこそボールにより多くのスピンをかけ、初速と終速の差を縮めることが何よりも大切なのです。
他の投手よりも多くボールにスピンをかけられているのは、ダルビッシュ有投手や藤川球児投手です。彼らは他の投手よりも多くのスピンをボールに与えられることができるため、あのような素晴らしいストレートを投げることができるのです。投手が筋力トレーニングをする際は、関節可動域を確認しながら、ダルビッシュ投手や藤川投手のようなバランスの良い体を目指すようにしましょう。